※基本報酬算定の基礎となる遺産総額とは、プラスの財産の総額のことであり、借入金等の債務、小規模宅地の特例、配偶者控除、生命保険非課税枠等の控除を行う前の遺産総額となります。
加算報酬
※1 : 5名以上の場合は加算対象となりません。
財産評価
相続税の計算の基礎となる相続財産の評価は、財産の種類により細かく決められています。相続財産は、持分あり医療法人の出資金、現金や預貯金、株式のほか、不動産、貴金属、書画骨とうなど、多岐にわたります。
1.持分あり医療法人の出資金評価の概要
財団医療法人と持分の定めのない医療法人は、いずれも『出資持分』の概念がないため、出資持分の評価は必要ありません。
一方、第5次医療法改正により、平成19年4月以降「経過措置医療法人」とされた持分の定めのある医療法人と出資額限度法人には出資持ち分の概念がありますので、出資持分評価の必要があります。
相続税を計算する場合には、財産としての評価を行い、相続税の課税価格計算に含まれます。
医療法人の出資持分評価における予備知識
持分の定めのある医療法人については、相続税の課税価格算定の際に、以下のような特徴があります。
(1)配当還元方式の適用はない
医療法人は、医療法により剰余金の配当が禁止されていることから、配当還元方式による評価ができません。そのため、類似業種比準方式、純資産価額方式又はその折衷法により評価することになります。
(2)議決権割合の判定は必要ない
医療法人、各社員の議決権は、1人1票と平等であるため、議決権割合の判定をする必要がありません。
(3)比準要素は2つ
通常、類似業種比準方式による評価は、利益、配当、純資産額の3要素から計算することとなっています。しかし、医療法人は剰余金の配当が禁止されておりますので、配当の要素を除外して2つの要素で計算することになります。
(4)業種の判定は「その他の産業」
類似業種比準価額方式における類似業種の業種目は、「その他の産業」で計算します。
(5)純資産価額方式の20%評価減の適用はない
純資産価額方式において評価会社の議決権総数の50%以下である場合には、評価額に80%を乗じる計算がありますが、医療法人では出資持分に関わらず各社員の議決権が平等であることから、20%評価減の適用が除外されています。
2.持分あり医療法人の出資金評価方法
出資持分のある医療法人(いわゆる経過型医療法人)の場合、出資金は相続財産となり、相続税申告における出資金の評価は、取引所相場のない株式に準じて評価することとされています。
評価方法は、医業収入や職員数で異なりますので、注意が必要です。
(1)医療法人の規模区分
医療法人の出資持ち分を評価する場合、「総資産価額」、「従業員数」、「年取引金額」の3要素を基に、「大会社」、「中会社」、「小会社」のいずれかに区分して、原則として次のような方法で評価をすることになっています。
(2)規模区分の判定基準
①従業員数70人以上は「大会社」
従業員数が70人以上の医療法人は、「大会社」になります。
この場合には、総資産価額や年取引金額の要素による判定は必要ありません。
②従業員数70人未満は総資産価額と年取引金額で判定
従業員数70人未満の場合は、総資産価額と年取引金額により、規模区分を判定することになります。
(3)規模区分別の出資持分評価方式
医療法人の出資持分評価は、その医療法人の規模区分に応じて次のようになります。
(4)類似業種比準価額方式による評価方法
医療法人の出資持分を類似業種比準価額方式で評価する場合は、下記の算式となります。
なお、出資口数は「1口当たり50円」として換算し求めることになります。
(5)純資産価額方式による評価方法
医療法人の出資持分を純資産価額方式で評価する場合は、下記の算式となります。
際の金額は、貸借対照表の価額を使用するものと、相続税評価額により計算されたものに分かれます。
相続税評価額は、下記の資産において使用します。
【建物および建物附属設備】
建物の固定資産税評価額×1.0で評価します。ただし、課税時期前3年以内に取得した建物は、課税時期の通常の取引価格(帳簿価額)で評価します。
【土地】
財産評価基本通達(路線価方式又は倍率方式)により評価します。ただし、課税時期前3年以内に取得した土地は、課税時期の通常の取引価格(帳簿価額)で評価します。
取得価額ではなく株式の相続税評価額で評価します。
3.その他の財産評価の留意点
時価とは
相続、遺贈により財産を取得した時点であり、財産を取得した時点とは、原則として相続の開始の時とされます。
財産評価基本通達※では、この取得の日を「課税時期」と定めています。
財産評価基本通達では、「時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいう。」としています。
これは、客観的な交換価値を示す価額、すなわち、買い進みや売り急ぎがなかったものとした場合における価額となります。
※「財産評価基本通達」とは相続税・贈与税を計算する際に対象財産の価額評価基準として国税庁が定めているもの。
4.土地・家屋の評価方法
相続税を計算するときに、相続や贈与などにより取得した土地や家屋を評価する必要があります。
(1)土地の評価
土地は、原則として宅地、田、畑、山林などの地目ごとに評価します。土地の評価方法には、路線価方式と倍率方式があります。
イ)路線価方式
路線価方式は、路線価が定められている地域の評価方法です。路線価とは、路線(道路)に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額のことで、千円単位で表示しています。
路線価方式における土地の価額は、路線価をその土地の形状等に応じた奥行価格補正率などの各種補正率で補正した後に、その土地の面積を乗じて計算します。
ロ)倍率方式
倍率方式は、路線価が定められていない地域の評価方法です。倍率方式における土地の価額は、その土地の固定資産税評価額(都税事務所、市区役所又は町村役場で確認してください。)に一定の倍率を乗じて計算します。
路線価図及び評価倍率表並びにそれぞれの見方は、国税庁ホームページで閲覧できます。
(2)家屋の評価
固定資産税評価額に1.0を乗じて計算します。
したがって、その評価額は固定資産税評価額と同じです。
(3)その他
- ①賃貸されている土地や家屋については、権利関係に応じて評価額が調整されることになっています。
- ②相続した宅地等が事業の用や居住の用として使われている場合には、限度面積までの部分についてその評価額の一定割合を減額する相続税の特例があります。
- ③負担付贈与あるいは個人の間の対価を伴う取引により取得した土地や家屋等について贈与税を計算するときは、通常の取引価額によって評価します。
5.上場・非上場株式の評価方法
(1)上場株式の評価
上場株式とは、金融商品取引所に上場されている株式をいいます。
上場株式は、その株式が上場されている金融商品取引所が公表する課税時期(相続又は遺贈の場合は被相続人の死亡の日、贈与の場合は贈与により財産を取得した日)の最終価格によって評価します。
ただし、課税時期の最終価格が、次の三つの価額のうち最も低い価額を超える場合は、その最も低い価額により評価します。
- ①課税時期の月の毎日の最終価格の平均額
- ②課税時期の月の前月の毎日の最終価格の平均額
- ③課税時期の月の前々月の毎日の最終価格の平均額
なお、課税時期に最終価格がない場合やその株式に権利落などがある場合には、一定の修正をすることになっています。
以上が原則ですが、負担付贈与や個人間の対価を伴う取引で取得した上場株式の価額は、その株式が上場されている金融商品取引所の公表する課税時期の最終価格によって評価します。
上場株式の価額は、「上場株式の評価明細書」を使用して評価することができます。
(2)非上場株式の評価
非上場株式は、相続や贈与などで株式を取得した株主が、その株式を発行した会社の経営支配力を持っている同族株主等か、それ以外の株主かの区分により、それぞれ原則的評価方式又は特例的な評価方式の配当還元方式により評価します。
①原則的評価方式
原則的評価方式は、評価する株式を発行した会社を総資産価額、従業員数及び取引金額により大会社、中会社又は小会社のいずれかに区分して、原則として次のような方法で評価をすることになっています。
イ)大会社
大会社は、原則として、類似業種比準方式により評価します。類似業種比準方式は、類似業種の株価を基に、評価する会社の一株当たりの「配当金額」、「利益金額」及び「純資産価額(簿価)」の三つで比準して評価する方法です。
なお、類似業種の業種目及び業種目別株価などは、国税庁ホームページで閲覧できます。
ロ)小会社
小会社は、原則として、純資産価額方式によって評価します。純資産価額方式は、会社の総資産や負債を原則として相続税の評価に洗い替えて、その評価した総資産の価額から負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた残りの金額により評価する方法です。
ハ)中会社
中会社は、大会社と小会社の評価方法を併用して評価します。
②特例的な評価方式
取引相場のない株式は、原則として、以上のような方式により評価しますが、同族株主以外の株主が取得した株式については、その株式の発行会社の規模にかかわらず原則的評価方式に代えて特例的な評価方式の配当還元方式で評価します。配当還元方式は、その株式を所有することによって受け取る一年間の配当金額を、一定の利率(10%)で還元して元本である株式の価額を評価する方法です。
③特定の評価会社の株式の評価
次のような特定の評価会社の株式は、原則として、(1)~(5)については純資産価額方式により、(6)については清算分配見込額により評価することになっています。
なお、(1)~(4)の会社の株式を取得した同族株主以外の株主等については、特例的な評価方式である配当還元方式により評価します。
- ①類似業種比準方式で評価する場合の3つの比準要素である「配当金額」、「利益金額」及び「純資産価額(簿価)」のうち直前期末の比準要素のいずれか2つがゼロであり、かつ、直前々期末の比準要素のいずれか2つ以上がゼロである会社(比準要素数1の会社)の株式
- ②株式等の保有割合(総資産価額中に占める株式、出資及び新株予約権付社債の価額の合計額の割合)が一定の割合以上の会社(株式等保有特定会社)の株式
- ③土地等の保有割合(総資産価額中に占める土地などの価額の合計額の割合)が一定の割合以上の会社(土地保有特定会社)の株式
- ④課税時期(相続又は遺贈の場合は被相続人の死亡の日、贈与の場合は贈与により財産を取得した日)において開業後の経過年数が3年未満の会社や、類似業種比準方式で評価する場合の3つの比準要素である「配当金額」、「利益金額」及び「純資産価額(簿価)」の直前期末の比準要素がいずれもゼロである会社(開業後3年未満の会社等)の株式
- ⑤開業前又は休業中の会社の株式
- ⑥清算中の会社の株式
以上それぞれの評価方法に応じて、この取引相場のない株式の評価をするときには、「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」を使用していただければ比較的容易に株価の計算ができるようになっています。
遺産分割協議書の作成
被相続人の財産をどのように相続するかを決めることを遺産分割協議といい、その結果を書面にしたものを遺産分割協議書といいます。
当社では、相続人の確定や財産目録の作成など、遺産分割協議書の作成に必要な事前準備から、遺産分割協議書の作成、その後の不動産、預金、有価証券などの名義変更まで、一括してサポートいたします。
「遺産分割協議書の作成」 目次
1.遺産分割協議書の概要
遺言書がある場合にはそれによりますが、遺言書がない場合または一部の財産しか記載されていない場合には、相続人全員で遺産の分割について協議を行い、遺産分割協議書を作成する必要があります。
相続人のなかに未成年者がいる場合には、その未成年者について家庭裁判所で特別代理人の選任を受けなければならない場合があります。この場合、特別代理人が、その未成年者に代わって遺産の分割協議を行います。
また、期限までに分割できなかったときは民法に規定する相続分で相続財産を取得したものとして相続税の申告をすることになります。
遺産分割協議書の必要性
口頭等での約束だと、後々トラブルに発展する原因恐れがあります。トラブルを回避する意味でも、遺産をどう相続するかについての相続人間の話し合いの結果を書面にして残しておく必要があります。
トラブル防止や対外的な証明として利用できます。
(1)手続の内容
- ●相続人の確認
- ●不動産の名義変更(相続登記)
- ●財産目録の作成
- ●銀行口座、証券会社等の払戻手続
- ●必要書類のお取寄せ
- ●分割協議に基づく各相続人への分配
- ●遺産分割協議書の作成
2.遺産分割の種類
①遺産分割の方法
遺産全部を一度に分割することを「全部分割」、遺産の一部だけを分割することを「一部分割」といいます。
債務の支払期限が迫っている場合、特定の遺産だけを売却してその返済に充当充当し、残りの遺産は時間をかけて協議していく方法があります。
一部分割は実際に多く活用されており、相続人全員が合意していれば有効です。
②遺産分割の種類
遺産分割は、現物分割が主ですが、そのほかに以下種類があります。
3.遺産分割の手順
-
相続人の確定
遺産分割協議は、相続人全員の参加が大原則です。相続人の一人でも欠いた遺産分割協議は無効です。
また、遺言による包括受遺者や相続分の譲受人がいるときは、それらの者も協議に参加しなければなりません。 -
相続財産の確定
ある財産が被相続人の遺産なのかどうか、相続人の間でもめることがよくあります。
この点について話し合いがつかなければ、家庭裁判所の審判や通常の民事訴訟で争われることになります。 -
遺産の評価
~財産目録の作成遺産分割協議を行うにあたっては、あらかじめ被相続人が残した遺産のすべてを洗い出し、財産録を作ります。こうすれば話合いもスムーズに進みます。
-
相続人全員による
分割内容への合意遺産分割協議は共同相続人全員の合意が必要です。
-
遺産分割協議書
の作成全員の合意により協議が成立したときは、それを証する「遺産分割協議書」を作成します。遺産分割協議書は後日、不動産の登記や銀行預金などの名義変更をする際に必要となります。
医療法人 持分なし移行
持分の定めのある医療法人の相続事前対策の代表例として出資持分なし医療法人への移行があります。現在、比較的簡易な方法として、厚生労働省は、期間限定で認定医療法人を活用した持分なし移行を推進しております。
当社では、多くの申請実績を有しておりますので、具体的な申請方法など、お気軽にご相談ください。
「医療法人 持分なし移行」 目次
1.出資リスクと持ち分なし医療法人への移行ポイント
わが国の医療法人は、大半が社団医療法人となっており、その約30%が持ち分あり医療法人です。医療法人の持ち分については、下記のようなリスクがあります。
(1)出資金の価値が高騰する
医療法人は、剰余金の配当が禁止されていることから、法人内に利益が蓄積されやすくなっています。その為、出資金評価が高くなる傾向があります。特に、歴史の長い法人については、この傾向か顕著です。そのような状況の中で、相続が発生すると、相続財産の評価が高くなり、高額な相続税の負担が発生します。
また、後継者のいない院長が、他の医師に病医院を承継する際に、出資金を売買する方法があります。この際にも、高額な出資金の評価は、売買の妨げになります。
(2)社員の退社の際に多額の払い戻しが発生
医療法人の社員が退社する場合、出資持分の払い戻しが行われます。その際に払い戻しをする金額は、出資した金額ではなく、退社時の剰余金の蓄積に応じた金額となります。医療法人の剰余金はすべて現預金で残っているわけではありません。いろいろな資産に代わって蓄積されています。そのようななかで払い戻し請求があると、病医院の資金繰りに大きな支障が生じることとなります。
これらのリスクを回避するため方法として出資持分のない法人への移行があります。出資持分のない法人への移行については、税負担をして移行する場合と、社会医療法人・特定医療法人の認定をうけて移行する方法などがあります。しかし、前者は、税負担が多額になりますし、後者は認定要件が厳しいなどの理由で移行が進んでいませんでした。
そのような状況を打開するために、平成26年より認定医療法人の制度が創設されました。
2.認定医療法人制度の活用
(1)認定医療法人とは
出資額限度法人を含む持ち分あり医療法人が抱える出資リスクを解消するために、出資持ち分なし医療法人への円滑な移行を支援することを目的に厚生労働省が創設した制度です。移行計画を厚生労働省が認定することが最大の特徴です。
【3年間の期限付き】
当初は、平成26年10月から平成29年9月までの3年間。平成29年10月から3年間の期間延長。医療法改正は、まだ実施されていませんが、令和2年10月1日以降も、延長します。
(2)贈与税課税の仕組みと認定医療法人との関係
認定医療法人は、厚生労働省の認定を受けた場合に、医療法人を個人とみなして贈与税を課税する相続税法第66条第4項の適用はされません。ただし、認定を受けて、持ち分なし医療法人移行後6年間は要件を満たさなければなりません。
(3)認定医療法人の要件
厚生労働大臣の認定を受けるためには、下記の要件を満たさなければなりません。
①社員総会における決議(平成18年改正法附則10条の3第4項第1号)
移行計画が当該申請に係る持分の定めのない医療法人の社員総会において議決されたものであること。
②有効性及び適切性(同項第2号)
当該申請に係る持分の定めのある医療法人の出資者、社員その他の法人の関係者において
- ①十分な理解と検討のもとに移行計画が作成されていること
- ②出資者等の持分の放棄等の見込みが確実と判断されていること
- ③認定を受けた後の移行に向けた取組の予定について移行の期限までに実行可能と判断されること
など、移行計画の有効性及び適切性に疑義がないこと。
③移行期限(同項第3号)
移行計画に記載された移行の期限が、当該認定の日から起算して3年を超えないものであること。
※ただし、変更認定の場合には、当初認定の日から起算して3年を超えないものであること。
④運営に関する要件(同項第4号及び改正後医療法施行規則第57条の2)
認定を受けるためには、最低限、下記の8要件を満たす必要があります。
(4)運営に関する8要件
認定医療法人 手続きの流れ
認定医療法人は、厚生労働省医政局医療経営支援課が窓口となっており、こちらを通して、移行計画の申請や持分なし医療法人への移行完了報告などを行います。
【ポイント】
- ①移行期間内で、かつ、移行が完了するまでの間、認定日から1年を経過するごとに、3ヵ月以内に厚生労働大臣に移行計画の進捗状況を報告します。
- ②移行期間内で、かつ、移行が完了するまでの間、出資者に持分の処分(放棄、払戻、譲渡、相続、贈与等)があった場合、3ヵ月以内に厚生労働大臣に出資の状況を報告します。
- ③医療法人への移行完了後、3ヵ月以内に厚生労働大臣に定款変更の認可を受けた報告を行います。
- ④移行完了後、
- ・5年を経過するまでの間…1年を経過するごとに、3ヵ月以内に厚生労働大臣に運営状況を報告します。
- ・5年を経過してから6年を超過するまでの間…5年10ヵ月を経過する日までに厚生労働大臣に運営状況を報告します。
3.社会医療法人への移行ポイント
(1)社会医療法人の認定要件
社会医療法人として認定を受けるためには、
- ①社会医療法人の救急医療等確保事業にかかる基準
- ②社会医療法人の公的な運営に関する要件
- ③社会医療法人の事業に関する要件
の3点を満たさなければなりません。
また各要件には、「いずれにも(=全ての項目)」「いずれか(=選択的)」と表記されている部分がありますので注意が必要です。
①救急医療等確保事業に係る基準
社会医療法人認定の要件の基盤となるのは、救急医療等確保事業を行い、かつ医療計画に記載されていることです。具体的には、下記のとおりです。
社会医療法人が開設する病院又は診療所のうち、1以上(2以上の都道府県の区域において病院又は診療所を開設する医療法人にあっては、それぞれの都道府県で1以上)のものが、当該医療法人が開設する病院又は診療所の所在地の都道府県が作成する医療計画に記載された法第30条の4第2項第5号イからホ(*)までに掲げるいずれかの事業(以下「救急医療等確保事業」という。)に係る業務を当該病院又は診療所の所在地の都道府県において行っていること。
*第30条の4
都道府県は、基本方針に即して、かつ、地域の実情に応じて、当該都道府県における医療提供体制の確保を図るための計画(以下「医療計画」という。)を定めるものとする。
2医療計画においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
―中略―
5次に掲げる医療の確保に必要な事業(以下「救急医療等確保事業」という。)に関する事項(ハに掲げる医療については、その確保が必要な場合に限る。)
- イ救急医療
- ロ災害時における医療
- ハへき地の医療
- ニ周産期医療
- ホ小児医療(小児救急医療を含む。)
出典:厚生労働省医政局通知(政発第0331008号平成20年3月31日)より
また、救急医療等確保事業に係る業務の基準は救急医療等確保事業と連動し、
①救急
②へき地
③災害
④周産期
⑤小児
の5事業に分かれ、それぞれ構造設備、業務体制、業務実績に分かれています。
2以上の都道府県に病院又は診療所を開設している場合
~厚生労働省医政局通知(政発第0331008号)より
それぞれの都道府県で1以上行っていれば良いとされています。
当該医療法人が開設する病院又は診療所(当該医療法人が地方自治法(昭和22年法律第67号)第244条の2第3項に規定する指定管理者として管理する公の施設である病院又は診療所を含む。以下同じ。)のうち、1以上(2以上の都道府県の区域において病院又は診療所を開設する医療法人にあっては、それぞれの都道府県で1以上)のものが、当該医療法人が開設する病院又は診療所の所在地の都道府県が作成する医療計画に記載された法第30条の4第2項第5号イからホまでに掲げるいずれかの事業(以下「救急医療等確保事業」という。)に係る業務を当該病院又は診療所の所在地の都道府県において行っていること。
②公的な運営に関する要件
社会医療法人は、公益性の高い医療を担うことが求められていますから、運営についても公的に行わなければなりません。遊休財産や株式等の保有について規定されている点が特徴的です。
当該医療法人の運営について、次のいずれにも該当すること。
イ)役員数
理事の定数は6人以上とし、監事の定数は2人以上とすること。
ロ)役員の選任
社団である医療法人の理事及び監事は社員総会において、財団である医療法人の理事及び監事は評議員会において選任すること。また、評議員は、理事会において推薦した者につき、理事長が委嘱すること。
ハ)同族の排除
他の同一の団体(公益社団法人又は公益財団法人その他これに準ずるもの(以下「公益法人等」という。)を除く。)の理事又は使用人である者その他これに準ずる相互に密接な関係にある者である理事の合計数が理事の総数の3分の1を超えないものであること。監事についても、同様とすること。
ニ)役員報酬
その理事、監事及び評議員に対する報酬等について、民間事業者の役員の報酬等及び従業員の給与、当該医療法人の経理の状況その他の事情を考慮して、不当に高額なものとならないような支給の基準を定めているものであること。
ホ)特別の経済的利益
その事業を行うに当たり、社員、評議員、理事、監事、使用人その他の当該医療法人の関係者に対し特別の利益を与えないものであること。
その事業を行うに当たり、株式会社その他の営利事業を営む者又は特定の個人若しくは団体の利益を図る活動を行う者に対し、寄附その他の特別の利益を与える行為を行わないものであること。ただし、公益法人等に対し、当該公益法人等が行う公益目的の事業のために寄附その他の特別の利益を与える行為を行う場合は、この限りでない。
ヘ)遊休財産
毎会計年度の末日における遊休財産額は、当該会計年度に行った病院、診療所又は介護老人保健施設の業務(以下「本来業務」という。)と同一の内容及び規模の業務を翌会計年度においても引き続き行うために必要な額として直近に終了した会計年度の損益計算書に計上する事業費の額を超えてはならないこと。
ト)株式等の保有
他の団体の意思決定に関与することができる株式その他の財産を保有していないものであること。ただし、当該財産の保有によって他の団体の事業活動を実質的に支配するおそれがない場合は、この限りでない。
チ)法令違反
法令に違反する事実、その帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装して記録又は記載をしている事実その他公益に反する事実がないこと。
③事業に関する要件
社会医療法人には、事業に関しても要件があります。特定医療法人と異なり、周産期医療が要件の一つとなっていますから、助産に係る収入金額(一の分娩に係る助産について50万円を限度とする。)が要件に組み込まれています。
当該医療法人の運営について、次のいずれにも該当すること。
イ)保険診療割合80%以上
社会保険診療に係る収入金額(労働者災害補償保険法に係る患者の診療報酬(当該診療報酬が社会保険診療報酬と同一の基準によっている場合又は当該診療報酬が少額(全収入金額のおおむね100分の10以下の場合をいう。)の場合に限る。)を含む。)、健康増進事業実施者が行う健康増進事業(健康診査に係るものに限る。)に係る収入金額(当該収入金額が社会保険診療報酬と同一の基準によっている場合に限る。)及び助産に係る収入金額(一の分娩に係る助産について50万円を限度とする。)の合計額が、全収入金額の100分の80を超えること。
ロ)自費同一基準
自費患者(社会保険診療に係る患者又は労働者災害補償保険法に係る患者以外の患者をいう。)に対し請求する金額が、社会保険診療報酬と同一の基準により計算されること。
ハ)収入は経費の1.5倍以下
医療診療(社会保険診療、労働者災害補償保険法に係る診療及び自費患者に係る診療をいう。)により収入する金額が、医師、看護師等の給与、医療の提供に要する費用(投薬費を含む。)等患者のために直接必要な経費の額に100分の150を乗じて得た額の範囲内であること。
ニ)残余財産の帰属先
解散時の残余財産の帰属先について、定款又は寄附行為において解散時の残余財産を国、地方公共団体又は他の社会医療法人に帰属させる旨を定めていること。
ホ)その他
すべての理事をもって組織する理事会を置き、その運営について、次に掲げる事項が定款又は寄附行為において定められ、適正に行われていること。
(2)社会医療法人認定までのスケジュール
出資持分の定めのある医療法人から移行する場合は、出資持分の放棄の決議から始まります。その後書類を作成し、所轄保健所等に提出します。社会医療法人は、医療審議会の意見を聞いたうえで都道府県知事が認定する運びとなっており、このため医療審議会に先立ち、要件充足度についての実地検査が行われます。
①持分請求権の放棄の決議からスタート
【規則第30条の39第1項の規定】
社団である医療法人で持分の定めのあるものが、定款を変更して、社団である医療法人で持分の定めのないものに移行する場合にあっては、当該医療法人の社員総会において、定款の変更認可がなされた日をもって持分請求権の放棄の効力が生ずるものとする決議を行うものであることにつき、留意するものであること。
②認定までのスケジュール
4.特定医療法人への移行ポイント
特定医療法人は、国税庁長官の承認が必要で、国税局の実地審査を受ける必要があります。
非同族による経営、医療法人の運営についても、ガバナンスやコンプライアンスなど厳格な運営が求められます。
(1)特定医療法人の申請要件
特定医療法人には厳格な申請要件が定められており、下記に掲げる項目すべてを満たさなければ、承認を受けることはできません。
- ①出資持分放棄の同意がなされていること
- ②医療施設の要件 原則40床以上
- ③税務調査・医療法上の非違がないこと
- ④保険診療報酬が総収入の80%超
- ⑤収入金額が、直接必要な経費の額に1.5を乗じて得た額の範囲内であること
- ⑥役員等の構成及び組織
- ・理事の数は6名以上、監事の数は2名以上(内、専門家1名)
- ・評議員の数は理事数の倍数以上、同族3分の1以下
- ⑦特殊関係者への経済的利益、貸付等がないこと
- ⑧理事・評議員等、役員に対する給与制限
- ・年間の給与支給総額(すべての手当て額を含む。)が3,600万円以下
- ⑨全病床数に占める差額ベッド割合が30% ⇒ 金額の制限は撤廃されている
- ⑩解散時の残余財産が国、地方公共団体又は同種の法人に帰属すること
(2)各要件の詳細解説
これらの要件は、国税局の訪問調査時に審査されます。
①出資持分放棄の同意
原則として、出資者全員が放棄に同意し、出資持分放棄同意書に署名捺印していること。出資持分の放棄に同意しないものについては、原則として時価にて払い戻し、退社手続きをとる。また、他の出資者が全員出資持分を放棄する場合は、額面での払い戻しも可能。
②医療施設の要件
その医療施設のうち一以上のものが、次のいずれかに該当すること。
- ●病院であって、40人以上の患者を入院させるための施設を有すること。
- ●専ら皮膚泌尿器科、眼科、整形外科、耳鼻いんこう科又は歯科の診療を行う病院であって、30人以上の患者を入院させるための施設を有すること。
- ●救急病院等を定める省令(昭和39年厚生省令第8号)第2条第1項の規定に基づき、救急病院である旨を告示されていること。
- ●救急病院等を定める省令第2条第1項の規定に基づき、救急診療所である旨を告示され、かつ、15人以上の患者を入院させるための施設を有すること。
③税務調査・医療法上の非違がないこと
- イ)税務調査(過去3年間)において、原則、重加算税等が課されていないこと。帳簿書類に仮装隠ぺいしている事実その他公益に反する事実がないこと。また、税務調査中で、税務署から資料提出を求められているが拒否している場合等は申請ができない。
- ロ)保健所の立ち入り検査において、指摘事項がないこと。ある場合は、改善しなければ申請できない。(医師の標欠等)
④保険診療報酬が総収入の80%
社会保険診療(租税特別措置法(昭和32年法律第26号)第26条第2項に規定する社会保険診療をいう。以下同じ。)に係る収入金額(労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に係る患者の診療報酬(当該診療報酬が社会保険診療報酬と同一の基準によっている場合又は当該診療報酬が少額(全収入金額のおおむね100分の10以下の場合をいう。) の場合に限る。) を含む。) 及び健康増進法(平成14年法律第103号)第6条各号に掲げる健康増進事業実施者が行う同法第4条に規定する健康増進事業(健康診査に係るものに限る。)に係る収入金額(当該収入金額が社会保険診療報酬と同一の基準によっている場合に限る。)の合計額が、全収入金額の100分の80を超えること。
⑤収入金額が、直接必要な経費の額に1.5を乗じて得た額の範囲内であること
医療診療(社会保険診療、労働者災害補償保険法に係る診療及び自費患者に係る診療をいう。) により収入する金額が、医師、看護師等の給与、医療の提供に要する費用 (投薬費を含む。) 等患者のために直接必要な経費の額に100分の150を乗じて得た額の範囲内であること。
⑥役員等の構成及び組織について
- イ)理事の数は、6名以上
- ロ)監事の数は、2名以上(内、専門家1名)
- ハ)評議員の数は、理事数の倍数以上
- ニ)寄附行為又は定款において、その理事、監事、評議員その他これらの者に 準ずるもの(以下(イ)において「役員等」という。)のうち親族関係を有する者及びこれらと次に掲げる特殊の関係がある者(以下「親族等」という。)の数がそれぞれの役員等の数のうちの占める割合は、いずれも3分の1以下とする旨の定めがあること。
⑦特殊関係者への経済的利益、貸付の有無
その医療施設のうち一以上のものが、次のいずれかに該当すること。
- ●法人の役員に対し、法人の所有する土地、家屋等を無料又は著しく低い賃料で貸し付ける行為
- ●法人の役員に対し、無利息又は著しく低率の利息で貸し付ける行為
- ●法人の役員に対し、無償又は著しく低い対価で法人の所有する資産を譲渡している事実
- ●法人がその役員等から、過大な賃借料又は著しく高率の利息により、土地、建物その他の資産を賃借し、又は金銭を借り受ける行為
- ●法人の役員等の所有する資産を著しく高い対価で譲りうける行為
- ●役員等に対し、報酬(医師、看護師その他法人の業務に従事したことを除く)を支給する行為
- ●法人の役員たる医師、看護師その他の従業員に対し、法人の役員等でない医師、看護師その他の従業員と比較して著しく過大な給与等を支給する行為
- ●法人の役員が出資等行なっている別会社(いわゆるMS法人)が不当な利益を得ている
⑧理事・評議員等、役員に対する給与制限
役職員一人につき年間の給与総額(俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与の総額をいう。)が3,600万円を超えないこと。
⑨差額ベッド基準
各医療施設に、特別の療養環境に係る病床数が当該医療施設の有する病床数の100分の30以下であること。
⑩残余財産の帰属について
解散時の残余財産が国、地方公共団体又は同種の法人に帰属すること。
2017年9月、国税庁より法令を厳格に適用するという方針が示されたことから、法的要件を充足してから事前申請を行うことについて、徹底されることとなりました。
そのため、上記のうち、⑥役員の構成及び組織に関わる要件については、事前申請を行うまでに、理事および監事の員数、並びに同族要件を満たすとともに評議員を選任し、評議委員会を開催することが必要です。
また、新たに役員や評議員を選任した場合は、その承認の旨の記載がある理事会および評議委員会の議事録も作成しておかなければなりません。
(3)特定医療法人の承認申請スケジュール
国税局による訪問調査が行われる点に留意が必要です。
5.持ち分なしへ移行する際の課税問題とは
相続税法第66条第4項による贈与税課税に留意する必要があります。
この適用を受けると、医療法人を個人とみなし、医療法人に対し贈与税が課税されます。
贈与税課税問題とは
持ち分なし医療法人への変更は、定款を変更することによって可能です。しかし、相続財産から出資金を排除するために、何も考えずに持ち分なし医療法人へ移行することは、税務の観点からはできません。
移行前の医療法人の出資者が、その出資持分を放棄したことによって、親族等の相続税又は贈与税の負担が不当減少した場合には、相続税法第66条第4項の規定の適用を受け、医療法人を個人とみなし、医療法人に対し贈与税が課税されます(相法66④)。
つまり、所定の要件を満たさず、単に相続税や贈与税の課税を減少させるための持ち分放棄を行った場合には、医療法人に多額の贈与税が課税されることとなります。
不当減少要件の判定(相令33③)
「不当減少要件」をクリアしているか否かの判定は次の5項目により行われます。
- ①医療法人の運営組織が適正である
- ②同族親族等関係者が役員等の総数の3分の1以下である
- ③医療法人関係者に対する特別利益供与が禁止されている
- ④残余財産の帰属先が国等に限定されている
- ⑤法令違反等の事実がない
医療法人への贈与課税になると認められるか否かの判定
定款記載事項
もう一つのポイントは、③その事業が社会的存在として認識される程度の規模を有していること、つまり、特定医療法人、社会医療法人並みの要件を求めており、その要件は下記のとおりです。
相続税申告
相続財産が一定額以上ある場合には、相続発生の日から10カ月以内に税務署に対し相続税の申告を行う必要があります。
当社では経験豊富なスタッフが、相続財産の確定、相続財産の評価、税務申告について、サポートいたします。
1.相続税申告スケジュール
相続税の申告期限は、相続開始から10ケ月以内です。それ以外にも、期限がある手続きがありますので、注意が必要です。
- ①遺産の概要を把握し、相続を放棄するかどうか決めます。
- ②被相続人と相続人の本籍地から戸籍謄本を取り寄せます。
- ③相続の放棄又は限定承認をする場合には、その旨を家庭裁判所に申述します。
- ④被相続人の事業を引き継ぐ場合には、相続人が新たに青色申告の届出をする必要があります。
- ⑤被相続人の死亡した日までの所得を申告します。
- ⑥遺産を評価し、遺産分割を行い、それをもとに相続税申告書を作成します。
- ⑦遺産分割協議書のとおり遺産の名義を順次変更していきます。
- ⑧相続税申告書を所轄税務署に提出し、かつ納税を済ませます。
2.相続税のかかる人と課税財産の範囲
相続税は原則的には金銭的な価値のあるものすべてにかかると考えていいでしょう。つまり、不動産や銀行預金から貸付金、家庭用の動産(自家用車、テレビ等々)まですべてが税金の対象になります。相続税がかかる人及び相続税の課税される財産の範囲は、次のようになっています。
3.相続税がかからない財産
相続税がかからない財産のうち主なものは次のとおりです。
- ①墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など日常礼拝をしている物。ただし、骨とう的価値があるなど投資の対象となるものや商品として所有しているものは相続税がかかります。
- ②宗教、慈善、学術、その他公益を目的とする事業を行う一定の個人などが相続や遺贈によって取得した財産で公益を目的とする事業に使われることが確実なもの
- ③地方公共団体の条例によって、精神や身体に障害のある人又はその人を扶養する人が取得する心身障害者共済制度に基づいて支給される給付金を受ける権利
- ④相続によって取得したとみなされる生命保険金のうち500万円に法定相続人の数を掛けた金額までの部分。なお、相続税の対象となる生命保険金については相続税の課税対象になる死亡保険金で説明しています。
- ⑤相続や遺贈によってもらったとみなされる退職手当金等のうち500万円に法定相続人の数を掛けた金額までの部分。なお、遺族が受ける退職手当金、功労金については相続税の課税対象になる死亡退職金で説明しています。
- ⑥個人で経営している幼稚園の事業に使われていた財産で一定の要件を満たすもの。なお、相続人のいずれかが引き続きその幼稚園を経営することが条件となります。
- ⑦相続や遺贈によって取得した財産で相続税の申告期限までに国又は地方公共団体や公益を目的とする事業を行う特定の法人に寄附したもの、あるいは、相続や遺贈によってもらった金銭で、相続税の申告期限までに特定の公益信託の信託財産とするために支出したもの。
4.相続税の納付について
相続税の納税は申告期限までに一括して金銭でするのが原則になっています。しかし、納税額が多額になると相続財産の中に現金や預金、すぐに換金できる資産が少なく、相続人個人の財産もないような場合には、期限内に納税できない可能性もあります。 そこで、次の納税方法が認められています。
税務調査と書面添付
相続税の申告については、ある程度の割合で税務調査が行われます。税務調査自体は当社の税理士が立ち合いのもとで行われますが、相続人様の負担と不安は大きいものとなります。
その税務調査を少しでも減らすために、当社では税理士法に定められている書面添付制度を活用して、適正な申告であることを証明しています。
「税務調査と書面添付」 目次
1.相続税における実地調査の状況
●実施調査件数及び申告漏れ等の非違件数
国税庁の発表によると、平成30年度における相続税の実地調査件数は12,463件で、このうち申告漏れ等の比違があった件数は10,684件、非違割合は85,7%となっています。
●申告漏れ課税価格
申告漏れ課税価格は3,538億円で、実地調査1件当たりでは2,838万円となっています。
●申告漏れ相続財産の金額の内訳
申告漏れ相続財産の金額の内訳は、金額が多い順番に、現金・預貯金等が1,268億円、土地が422億円、有価証券が388億円となっています。
●追徴税額
追徴税額(加算税を含む)は708億円で、実地調査1件当たりでは568万円となっています。
●重加算税の賦課件数
重加算税の賦課件数は1,762件、賦課割合は16.5%となっています。
2.書面添付制度とは
書面添付制度とは、税理士が「申告書の作成に関して計算、整理、相談に応じた事項を記載した書面」を申告書に添付することができる制度です。この制度は、税理士法第33条の2にて税理士にのみ作成が認められています。
この書面添付制度は、税務の専門家である税理士が作成した申告書に、「申告書の内容が適正に精査されています」という保証を付与する制度です。
書面添付制度のメリット
医療機関 相続事前対策
相続を円滑に進め、かつ争いを防止するためには、事前の対策が重要です。医療機関の事前対策は、多岐にわたるため、自院に合った対策を講じることがポイントです。
「医療機関 相続事前対策」 目次
1.生前贈与を活用した相続事前対策とは
医療法人の出資金対策のポイントは、出資金を相続財産から除外する、または、出資金評価を引き下げて承継する、の2つです。
(1)生前贈与のメリット
生前贈与は、相続を待たずに財産を移転できるメリットがあります。近年は、お金を持っているが使わないといわれている高齢者から、何かとお金が必要な現役世代へお金を移して住宅の購入促進や少子化対策としての効果を期待して贈与税に関する特例も増えています。
【生前贈与のメリット】
- ●生前に自分の意思で財産を移すことができる
- ●住宅資金や子育て資金など、使い方をきめて財産を移すことができる
- ●必要な時に財産を取得でき効果が高い
- ●遺留分放棄を行う際にも活用できる
- ●相続税を軽減する効果もある
(2)暦年贈与で少しずつ財産を減らす
生前贈与は、生前の相続対策として非常にスタンダードな方法です。暦年課税を選択した場合には110万円の基礎控除が認められていますので、この範囲内で行った贈与についてはいっさい税金がかかりません
贈与税の基礎控除は、毎年贈与を続けることによって無税で多額の財産を子や孫に移転できます。また、場合によっては基礎控除額を超える贈与も効果的です。たとえば年間200万円を贈与した場合、贈与税額は9万円程度で済みます。多額の財産を有する資産家の場合、相続税率が50%となることを考えると、まとまった金額を贈与して(ある程度の税金を払って)財産を減らしておくことも長い目で見て有利となる場合もあります。
(3)相続時精算課税制度で生前に財産を相続する
相続時精算課税制度とは、贈与の年の1月1日時点で60歳以上の親から、同時点で20歳以上の子や孫に対して贈与が行われた場合、累計で2500万円以上の財産について税率20%で課税されるという制度です。
相続時精算課税制度においては、その税額を「贈与者」ごとに計算します。一度この制度を選択して税額を計算した贈与者からの贈与については、その後もずっと相続時精算課税制度により贈与税額を計算しなければなりません。つまり、親や祖父母からの贈与について一度この制度を選択すると、それ以後受けた贈与については全て上記の算式で税額を計算することになります。
暦年贈与と相続時精算課税制度による贈与は、贈与者ごとに選択することが可能です。
【相続時精算課税による贈与税額の計算式】
(1年間に贈与者から取得した贈与財産の額 - 特別控除額(累計2500万円))× 20%
相続時精算課税制度を活用して後継者に持分を贈与する方法
持分の定めのある医療法人の場合、すでに出資持分の相続税評価額がかなり上昇してしまっている法人も多いと思われます。このような場合に、何年かに分けて出資持分の暦年贈与を行う方法や、相続時精算課税を利用して贈与することにより贈与税の軽減を図る方法が考えられます。
医療法人は配当ができないため基本的にその持分評価額は年々増額していきますが、これらの方法を利用することにより評価額を贈与時の金額に固定できるメリットがあります。
ただし、相続時精算課税を選択した場合、その贈与者からの贈与については、その後暦年贈与は使えなくなるため注意が必要です。
また、遺留分減殺請求権の基礎となる医療法人の出資持分の評価額は、相続発生時の評価額となります。(医療法人は経営承継円滑化法の対象外のため遺留分減殺請求権について、民法の特例の固定合意・除外合意等を行うことはできません)。
なお、持分の定めのない医療法人はもちろんのこと、持分の定めのある医療法人についても、出資者(拠出者)の地位と社員の地位(もちろん役員としての地位も)は分離しているため、医業承継のみを考えるとすれば、社員及び理事の改選により医業承継が可能です。ただし、都道府県によっては出資者(拠出者)と社員を揃えるように指導される場合があります。
相続時精算課税制度の活用の具体例
10年前に設立された医療法人を、ドクターである息子(35歳)に承継したいと考えています。
【医療法人の概要】
- ●設立時に現理事長(現在65歳)が1,000万円を全額出資して設立
- ●年間3,000万円ずつ医療法人の持分評価額が上昇すると仮定
- ●医療法改正前に認可申請を行った「経過措置型医療法人」である
【その他の概要】
- ●現理事長の相続人はそのほかに配偶者と子2人
- ●現理事長の相続時のその他の財産の評価額は2億円
【相続時精算課税制度の要件】
1.贈与者 60歳以上の実親または祖父母
2.受贈者 20歳以上の子または孫
①現時点で相続時精算課税により医療法人持分を贈与した場合
【贈与時の贈与税額】
〔(出資額1,000万円+10年間の持分増額分3億円)-2,500万円〕×20% = 5,700万円
【相続時の相続税額】
(その他の財産2億円+医療法人持分3億1千万円)-基礎控除4,800万円 = 4億6,200万円
配偶者 462,000千円 × 1/2 = 231,000千円 相続税額76,950千円
子供 462,000千円 × 1/4 = 115,500千円 相続税額29,200千円×2人
=58,400千円
上記に対する相続税の総額 ……… 135,350千円
【相続人全員の負担額】
配偶者 0円
後継者 33,837,500円 - 57,000,000円 = △23,162,500円
子 供 33,837,500円
合 計 10,675,000円
【相続人全員の実質負担額】
10,675千円 + 57,000千円 = 67,675千円 ①
②贈与せず20年後、相続時に医療法人を承継した場合
【相続税額】
(その他の財産2億円+医療法人の20年後の評価額6億1千万円)-基礎控除4,800万円 =7 億6,200万円
配偶者 762,000千円 × 1/2 = 381,000千円 相続税額148,500千円
子 供 762,000千円 × 1/4 = 190,500千円 相続税額59,200千円 ×2人 = 118,400千円
上記に対する相続税の総額 ……… 266,900千円
【相続人全員の負担額】
配偶者 0円
子 供 2人 133,450千円 ②
結果、① - ② = △ 65,775千円(節税額)
相続時精算課税制度の1番のメリットは、贈与時の時価に固定できるという点です。医療法人は民法の特例の固定同意を適用できませんので、時価を固定させる唯一の手段といえます。
この事例で問題となるのは、開業して10年経過しているので、後継者が贈与税5,700万円を納付できるかとう問題です。
本来はもっと早く贈与すべきだったということになります。
後継者の贈与税の納税資金確保のため、事前に暦年贈与を重ねていくことも重要です。また贈与時の出資金の評価額を下げることがポイントとなります。
もちろん相続が発生する前に現理事長が役員から退き、経営に参画せず、給与もほとんど受け取らなれば、役員退職金を支給し出資金の評価額を下げることが可能です。そして後継者に出資金を贈与します。したがって、早くに後継者を決め、後継者を育成し、現理事長が元気なうちに事業承継することが最も望ましいのです。
役員退職金で贈与時評価額を下げる
役員退職金の支給は多額になり、法人税の節税効果が大きく、出資金評価額の引き下げにも大変有効です。しかしそれだけ税務上の問題になりやすい点ですので注意が必要です。
特に理事・社員が親族の場合には、支給時期・金額などを恣意的に決められることからも注意が必要で、否認されないためにも事前の準備、証拠書類などに配慮が必要です。
法人が役員に退職金を支払うケースには、次の3つがあります。
- ●実際に退職した場合
- ●役員が在職中に死亡した場合
- ●特殊な場合として分掌変更による支給(医療法人では一般的ではありません)
①役員退職金支給上の注意点
役員の退職給与は、社員総会等の決議を経て初めて具体的に確定しますが、この決議を恣意的に遅らせ、利益が過大に発生した年度などに決議をすると、租税回避とみなされる場合があります。
したがって、理事長の奥様だけが退職されるようなケースなどは理由づけが必要になります。
後継者に引き継ぐため、理事長が退職し、結果として出資金の評価が減少し贈与を行ったとしても、事業承継の一連の流れですので問題はありません。
法人の損金に算入する時期としては、原則として決議のあった日の属する事業年度とされますが、実際に支給した日の事業年度に損金に算入する方法も認められます。これにより分割払いも認められますが、役員退職給与規程等の整備がされていなければなりません。一時金が長期間に及ぶ分割払の場合、一時金でなく、退職年金と見なされる危険があります。あまり長期でない2年以内での支給が実務上妥当と思われます。
できれば分割にしたくありませんので、法人を設立した早い段階で、退職金目的の積立型の生命保険などに加入すべきです。
②役員退職金の支給額
実際に退職したときや死亡により退職したときに問題になるのは、退職金の金額が適正であるかどうかです。適正額の計算手法として、一般的には功績倍率法で検討されます。功績倍率法の算式は以下のとおりです。
1)役員退職金の適正額=最終月額報酬×勤続年数×功績倍率(1.5~3.0)
最終月額報酬について退職直前に報酬をアップしたり、逆に退職直前に報酬を低く抑えたりした場合には、適正な月額報酬を算定しなければなりません。
功績倍率については、類似法人の多くの資料を集め、その数値がいかにして導かれたのかを明らかにしておく必要があります。役員退職金も役員報酬同様、社員総会の決議によって決定されますが、その際、過大と判断されない算出基準を明確にするためにも「役員退職給与規程等」を制定しておく必要があります。
2)功労加算金 ……… 役員退職慰労金 × 0~30%
特に功績が顕著と認められる役員に対しては、1)で算出した役員退職金に、その30%を超えない範囲内で加算することができます。
また役員の死亡退職した場合には、別途弔意金を支給することができます。
- ●業務上による死亡=退職時の役員報酬月額×36ヶ月
- ●業務外による死亡=退職時の役員報酬月額×6ヶ月
③退職しているかの実質判定
一般法人ですが、平成19年3月13日付けの最高裁の決定では、事実上の退職と認められないという決定が出ています。
実際は経営に従事しているにもかかわらず退職金で先に経費だけを先取りしたと判断された判例です。
【裁判で指摘された点】
- ●報酬が半額になっているが半年前に報酬を上げておいてそこの金額から50%減少させている事
- ●代表取締役を降りたにも関わらず、それを知らない得意先もいた事
- ●得意先の担当が以前と変わらなかった事
等があげられています。
以上のような実質的退職を医療法人の理事長退職に置き換えると次の点を注意する必要があります。
【裁判で指摘された点】
- ●非常勤医師として勤務することは可能だが、社員総会や理事会の日は避けること
- ●院長(管理者)の院内掲示を後継者にすることは当然であるが、業者との打ち合わせも後継者に任せること
- ●前理事長を希望される患者がいるのは当然であるが、特定の患者だけを診ることは避けること
など注意が必要です。
また、分掌変更による退職金の未払計上は認められませんので、前理事長が非常勤医師として法人で勤務する場合には、退職金の未払計上はしてはいけません。
これも当然のことですが、「退職所得の受給に関する申告書」をしっかり保管することも忘れてはいけません。
(4)住宅資金の贈与
令和3年12月31日までの間に、父母や祖父母などの直系尊属から20歳以上の子や孫で一定の所得以下の人が住宅取得等資金の贈与を受けた場合、以下に示した金額を限度に贈与税が非課税となる制度です(その他いくつかの要件があります)。
(5)配偶者に対する居住用不動産の贈与
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2000万円まで控除できるという特例です。
この制度は、「土地のみ」「建物のみ」の適用が認められています。建物の価格は、一般的には下がり続けるものであり、土地の価格は建物ほど変動がありません。ですから、土地と建物の合計額が2000万円を超える場合には、土地を贈与して同制度を適用することで節税メリットを最大限享受することができます。
また通常、相続発生3年以内に贈与した財産は相続財産に加算されますが、本制度を適用して贈与した居住用財産については、その対象から外されます。そのため、近い時期に相続の発生が見込まれるようなケースでも安心して活用することができます。
【制度の適用要件】
- ●夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
- ●配偶者から贈与された財産が、自分が住むための居住用不動産である(又は居住用不動産を取得するための金銭である)こと
- ●贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与された居住用不動産に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること
(6)教育資金の一括贈与
令和5年3月までに、親や祖父母などの直系尊属から一定要件の下で教育資金を贈与を受けた場合には、1500万円までの金額について贈与税が非課税となる制度です。
「親子」「祖父と孫」など扶養義務者間で行われる教育資金の贈与で、その必要なときに行われるものについては贈与税が課税されません。しかし、将来の教育資金をあらかじめ一括で贈与した場合には、暦年贈与や相続時精算課税制度に基づく課税がされます。そこで、このようなニーズにこたえるために、新たにできた制度です。
【教育資金の一括贈与の手続き】
- ●孫(受贈者)が教育資金を受け取るための口座を開設すると共に、教育資金非課税申告書等を提出する(提出した申告書は、金融機関を通じて税務署へ提出される)
※受贈者の戸籍謄本または抄本、住民票の写し等の書類を添付
- ●祖父母が教育資金を拠出(=孫名義の口座へ贈与資金を預け入れる)
- ●孫(受贈者)が、教育資金が必要な都度、口座からお金を払い出す
- ●孫(受贈者)が、学校等へ教育費用の支払いを行う
- ●孫(受贈者)が、学校等が発行した領収書を金融機関へ提出
- ●金融機関が、領収書などにより資金の使途を確認し、保存
- ●口座契約の終了時に、金融機関が残高等を記載した調書を提出(贈与税課税)
(7)結婚・子育て資金の一括贈与
令和5年3月までに、親や祖父母などの直系尊属から一定要件の下で結婚・子育て資金の贈与を受けた場合には、1000万円までの金額について贈与税が非課税となる制度です。
非課税となる金額は、受贈者1人につき1000万円ですが、そのうち「結婚に際して支出する費用」は300万円が限度とされています。
【教育資金の一括贈与の手続き】
- ●結婚に際して支出する婚礼(結婚披露を含む)に要する費用、住居に要する費用及び引越に要する費用のうち一定のもの
- ●妊娠に要する費用、出産に要する費用、子の医療費及び子の保育料のうち一定のもの
【教育資金の一括贈与の手続き】
- ●孫(受贈者)が結婚子育て資金を受け取るための口座を開設すると共に、結婚子育て資金非課税申告書等を提出する(提出した申告書は、金融機関を通じて税務署へ提出される)
※受贈者の戸籍謄本または抄本、住民票の写し等の書類を添付
- ●祖父母が結婚子育て資金を拠出(=孫名義の口座へ贈与資金を預け入れる)
- ●孫(受贈者)が、結婚子育て資金が必要な都度、口座からお金を払い出す
- ●金融機関が、領収書などにより資金の使途を確認し、保存
- ●口座契約の終了時に、金融機関が残高等を記載した調書を提出(贈与税課税)
2.遺言書の作成
遺言は、遺留分に抵触しない限り、民法における法定相続分に関わらず、遺産相続をさせることができ、その資産の種類も指定することができます。ただし、形式要件を満たしていない遺言は無効となり、相続争いを増長するなどの逆効果となる可能性もありますので注意が必要です。
遺言書の種類
遺留分
遺留分とは、民法で定められている一定の相続人が最低限相続できる財産のことを指します。基本的には、遺言書の内容が優先されるが、「遺留分減殺請求」が行使された場合、遺留分の額の財産を遺留分権利者に返還しなければなりません。
遺留分は、法定相続分の2分の1であるが、兄弟姉妹の相続人には、遺留分はありません。
承継すべき財産の集約
後継者が承継すべき財産を集約することも重要となる。出資金はすべて現理事長が所有しているとは限らず、特に、多くの親族に分散している場合には、現理事長または後継者に集約することが必要となります。
また、病医院の不動産についても、現理事長個人の所有であったり、MS法人が所有していたりとその形態は様々で、将来の相続を見据えて、もし争いが起きそうな場合には、医療法人の所有にするなどの対策が必要となります。
後継者以外の相続人の収入の確保
医療法人理事長の相続においては、後継者である医師と後継者以外の相続人の所得や財産の格差が問題となります。後継者以外の親族が後継者と同じだけの財産や所得を得ることは難しいのが一般的です。
遺産分割の争いの要因の一つに、将来への不安が挙げられます。そのため、後継者以外の相続人に対する相続財産や収入に配慮する必要があります。
3.家族信託による相続事前対策
家族信託とは、自分の老後や介護等に備え、保有する不動産や預貯金などを信頼できる家族に託し、管理・処分を任せる家族のための財産管理のことです。
つまり、「家族に自分の財産を信じて託し、代わって管理してもらう制度」で、家族に財産を託すことにより、「柔軟な財産管理・運用・処分」や、「自分の望むかたちの相続」が可能になります。
新しい財産管理方法や相続対策として注目されている制度が家族信託で、平成18年12月15日の信託法の改正により、国の許可がなくても一般家庭の中でも信託制度を活用することができるようになりました。これは認知症等の対策として、資産の凍結を回避させることを目的としています。
家族信託制度の仕組み
信託の登場人物(当事者)は基本的には、「委託者」・「受託者」・「受益者」の3名となっています。
●委託者
信託を行う者。財産を信じて託す者。
●受託者
信託行為の定めに従い、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的達成のために必要な行為をすべき義務を負う者。自然人、法人を問わず、誰でも受託者になれます。
ただし、未成年者を受託者にすることはできません。
●受益者
受益権を有する者。
ただし、信託成立の条件には受益者は必ずしも存在しなくても良いとなっています。(目的信託 信託法第258条)
目的信託の例として「将来の特定の時点における一定の者」等、現時点では具体的に存在し得ない者や「これから生まれる予定の子」という将来存在するであろう者でもよいことになっています。
各当事者のそれぞれの役割
- ●委託者の財産は受託者に移転し、受託者が信託財産の名義人になる。
- ●受託者は、信託目的の拘束の下、信託財産の管理・処分を行う。
- ●受益者は、受託者から信託の収益配当を受け取る。
以上の通り、受託者が信託財産の名義上の所有になり、実質的な権利はすべて受益者に移ることになります。これが信託の基本になります。
【信託監督人とは】
信託監督人は、受益者が現に存在する場合に受益者のために自己の名をもって受益者の権利に関する一切の裁判上又は裁判以外の行為をする権限を有する者。
信託監督人は信託行為において指定することができ、その指定された者が承諾した場合に、信託監督人として就任することになります。
信託監督人は、未成年者及び当該信託の受託者を除き特に資格に制限はありません。
家族信託のメリット・デメリット
【家族信託のメリット】
家族信託には、以下のメリットがあります。
①認知症による資産凍結対策
本人の元気なうちから財産管理を託せるとともに、託した後に本人の判断能力が低下・喪失しても、“本人の意思確認手続き”が本人に対して行われないので、実質的に“資産凍結”されることなく、財産管理の担い手たる者(=「受託者」と言います。)主導で、財産の管理や処分がスムーズに実行できます。
具体的には、家族信託を事前に組んでおくことで、老親が入院・入所したために空き家となった実家を適切な時期に適正な価格で受託者が売却できる等のメリットがあります。
②成年後見制度の代用による柔軟な財産管理
成年後見制度は、下記のような負担や制約があります。
- ●家庭裁判所(後見監督人が選任されている場合は後見監督人)への定期的な報告義務の負担が重い。
- ●後見監督人が選任された場合の後見監督人報酬の負担(月額1~2万円程度)がずっと続く。
- ●成年後見人ができるのは、家族ではなく本人にとってメリットがあることに限られる。
③遺言の機能と受遺者の財産管理
本人の死亡により遺産をもらった者が既に財産管理の能力が無い場合には、結局その貰った受遺者に成年後見人を就けて、財産管理を担ってもらう必要が出てくるかもしれません。
しかし、家族信託だと、もともと「遺言」の機能として本人死亡後の財産の承継者を家族信託の契約書の中で指定できる上に、本人が亡くなった後も引き続き受託者の下で、財産の管理が可能となります。
例えば、高齢のご主人が亡くなった後に遺される認知症の妻がいるとすれば、引き続き信託の仕組みの中で、妻の生涯にわたる財産管理・生活資金をサポートすることができるのです。
④自分の思い通りの資産承継の道筋
家族信託に遺言の機能があることは前記したとおりですが、さらに2次相続以降の資産の承継先まで自分で指定することができます。この機能により、自分の希望する順番で何段階にも資産承継者(=「受益者」と言います。)の指定が可能となります。
また、1次相続による資産承継者(高齢の配偶者など)が認知症や障害により、遺言等で次の承継者を指定できない場合に、その人に代わって資産承継者を指定できます(遺言を書いたのと同じ効果を出せます)ので、後々の遺産分割協議による争いの余地を排除できます。
⑤不動産の共有回避や共有不動産の塩漬け予防
家族信託に遺言の機能があることは前記したとおりですが、さらに2次相続以降の資産の承継先まで自分で指定することができます。この機能により、自分の希望する順番で何段階にも資産承継者(=「受益者」と言います。)の指定が可能となります。
また、1次相続による資産承継者(高齢の配偶者など)が認知症や障害により、遺言等で次の承継者を指定できない場合に、その人に代わって資産承継者を指定できます(遺言を書いたのと同じ効果を出せます)ので、後々の遺産分割協議による争いの余地を排除できます。
【家族信託のデメリット】
家族信託には、以下のデメリットがあります。
①損益通算ができない
収益物件を信託財産に入れた場合、この信託不動産の年間収支上の赤字は、なかったものとみなされます(租税特別措置法41の4の2)。
つまり、信託不動産に関する損失は、信託財産以外からの所得と損益通算して課税対象の所得を減らすことができません。また、その損失の翌年への繰越しもできませんので、税務的に不利益が生じないかどうかは、十分な検討・検証が必要です。
②家族信託の限界
信託では対応できず、遺言でなければできないことがあります。
具体例として、遺留分減殺対象財産の順序指定が挙げられます。
また、相続発生時の遺産全てを生前の信託契約で網羅しておくことができませんので、信託財産から漏れる財産について遺産分割協議を排除するには、信託契約とは別に遺言書を作成し、主たる遺産以外のすべての遺産の承継先を指定しておく必要があります。
③長期に亘り当事者を拘束
信託の持つ機能としての資産承継の指定(遺言代用)として、1次相続だけでなく、2次以降の財産承継者まで自分一人で決定できるという画期的な機能が信託にはあります。
これにより、相続関係が複雑な家庭(前妻と後妻との間に子がいるケース)などの資産承継や事業承継などでは、この機能が大きな効果を持つ可能性があります。
一方で、何世代にもまたがり、長期に亘って資産の処分に制限をかけるようなことにもなりかねず、かえって争族や不測の事態を誘発しかねないリスクがあるのも事実です。
20年、30年先を見据えた家族信託の設計には、通常以上の熟慮と親族関係者への想いの伝達・共有・納得が必要だと考えます。
家族信託の税務
家族信託の課税は、受益者等課税信託課税方式が基本です。信託を利用すると主に次の3つの段階で課税関係が生じます。
- ①信託の設定時
- ②信託している期間中(管理・運用)
- ③信託の終了時
それぞれの段階で、以下の課税が発生しますので、参考にしてください。
4.相続税の仕組みから考える節税対策
(1)墓地、仏壇の購入や葬儀費用の負担
墓地や仏壇等の非課税財産は事前に購入する。先祖代々のお墓のない人や仏壇等のない人などは、生前に購入しておくと、購入費用の分だけ相続財産を減らすことができます。
なお、これらの財産を購入する場合は、次の点に注意してください。
- ●被相続人の死亡後に購入しても非課税財産にならないので、生前に購入すること。
- ●ローンで購入して返済中に亡くなった場合の残債については、債務控除の対象になりませんので、お金に余裕のある場合は、できるだけ現金で購入すること。
葬式にかかった費用は相続財産から控除され、香典は非課税とされています。
この特典は、故人が会社の先代社長などであった場合には、上手に活用することができます。
それは、葬儀を個人葬ではなく社葬にして、香典はそっくりそのまま遺族に渡すという方法です。
葬儀を社葬にすれば、当然葬式費用の一切が会社負担になりますから、遺族は一銭も使わずに済みます。この場合、香典を会社の受取りとすると、雑収入として法人税の課税対象になってしまいます。そこで、香典については、会社を介さずに遺族にそっくり渡すようにすれば、非課税になりますから、遺族にはかなりの金銭的援助をすることができます。
※香典とは、本来、遺族の悲しみを慰めるためや葬儀に際してかかる費用の一部に充てて、遺族の金銭的負担を軽くするために贈られるものですから、税法でもその辺りを考慮して、1件ずつの金額が世間一般の常識的な範囲内であれば、総額がどんなに高額になっても非課税としています。
(2)生命保険金の非課税枠の利用
生命保険金は、民法上の相続財産ではありませんが、相続税法上は相続によって取得したものとみなされ、相続税の課税対象になります。
ただし、生命保険金には、法定相続人1人当たり500万円まで非課税になるという大きな特典がありますので、この生命保険金の非課税枠までは必ず保険に加入するようにしましょう。
例えば、妻と子どもが3人いる場合は、2000万円までは相続税がかからないことになりますので、後々の納税額等も考慮して、2000万円以上の保険に加入するとよいでしょう。
生命保険金の非課税額 = 500万円 × 法定相続人の数
(3)死亡退職金と弔慰金の非課税枠の利用
被相続人が医療法人の理事、監事である場合には、死亡退職金と弔慰金を支払うようにします。
死亡退職して退職金が支払われた場合には、その退職金を受け取った遺族は、その退職金を相続によって取得したものとみなされ、相続税の課税対象になります。
ただし、死亡退職金には、生命保険金と同様に、法定相続人1人当たり500万円まで非課税になるという大きな特典があります。
死亡退職金の非課税額 = 500万円 × 法定相続人の数
また、弔慰金が支払われた場合には、次の金額までは課税されないことになっています。
- ●業務上の死亡の場合、報酬月額の3年分
- ●業務上以外の死亡の場合、報酬月額の6ヵ月分
この金額を超えて支給された弔慰金については、退職金として支給されたものとして取り扱われます。
一方、退職金・弔慰金を支払った会社の相続税法上の株式の評価に当たっては、退職金については負債として資産から控除することができますが、弔慰金については、それが退職金に該当するものとして取り扱われるもの以外は負債として資産から控除することができません。また、支払った退職金・弔慰金は原則として会社の経費になりますので、役員退職給与規程及び弔慰金支給規程等を定めた上で、できるだけ非課税枠までは支払うようにするとよいでしょう。
(4)養子縁組をして相続人を増やす
民法では、養子は縁組の日から実子と同じ権利を持ち、法定相続人の数に含まれることになっています。そして、相続税法では、法定相続人の数が多いほど、相続税の負担が軽くなる仕組みになっています。相続人の数が増えることによって、具体的には次のような効果があります。
- ●相続税を計算する際の税率の適用区分が低くなる
- ●基礎控除額が増える
- ●生命保険金の非課税枠が増える
- ●死亡退職金の非課税枠が増える
しかし、相続税法では、養子を利用した租税回避行為に対処するため、法定相続人の数に算入できる養子の人数を、次のように制限しています。
- ●被相続人に実子がいる場合 ……… 1人
- ●被相続人に実子がいない場合 …… 2人まで
この養子縁組による節税方法は、確実で効果の大きい対策ですが、その反面、「相続争い」の要因にもなりますので、他の推定相続人全員に事前に同意を得ておくなど、慎重な対応が必要となります。
(5)配偶者の税額軽減を上手に受ける
相続人の中に配偶者がいる場合、配偶者の取得額が法定相続分又は1億6千万円までのいずれか多い金額の範囲内であれば、その配偶者の相続税額はゼロになります。これを、「配偶者の税額軽減」といいます。この配偶者の税額軽減をフルに活用して、次のように配偶者が財産を相続するようにすれば全体の納税額が一番少なくなります。
- ●遺産総額が1億6千万円以下の場合
全額を配偶者が取得する - ●遺産総額が1億6千万円超3億2千万円以下の場合
1億6千万円と法定相続分のうちいずれか多い金額を配偶者が取得する - ●遺産総額が3億2千万円超の場合
法定相続分を配偶者が取得する
(子どもがいる場合1/2・親がいる場合2/3・兄弟姉妹がいる場合3/4)
(6)貸家にして家屋と敷地の評価額を下げる
①土地の評価が下がる
貸家建付地の計算 : 5,000万円 - (5,000万円 × 50% × 30%) = 4,250万円
つまり、自用地(更地)としての評価額が5,000万円であった土地が、その上にある建物を第三者に貸付けることによって評価額が15%減少し、4,250万円になる。
②建物の評価が下がる
③小規模宅地等の特例が使える
空き地などに貸家を建てると、その土地は事業用宅地(貸付用宅地)として「小規模宅地等の特例」の適用対象となり、200㎡までの部分について50%引きで評価することができます。この特例はマイホームの敷地にも適用できますので、適用対象となる宅地の種類(価額)や面積が増えることで最も有利な方を選択し、特例のメリットを最大限に生かすことが可能になります。
④納税資金の用意ができる
家賃収入により、相続税の納税資金を用意することができます。
収入が増えればそれだけ相続財産も増えますが、換金性の低い不動産の評価額を抑え、一方で現金収入を得るのですから、効果的な手段といえます。
また、収入の一部を原資に生命保険に加入したり、子どもに納税資金として生前贈与するなどの方法もあります。
(7)固定資産の交換の特例の活用
①小規模宅地等の特例による評価減割合の小さいものから大きいものへの交換
例えば、同じ時価、同じ相続税評価額で、共にアスファルト敷きの駐車場として利用されている次のような土地を交換します。
交換による相続税評価額の増減はありません。しかし、小規模宅地等の特例を受ける場合、A土地は500㎡のうちの200㎡部分しか50%の減額を受けることができないのに対して、B土地は200㎡全部について50%の減額を受けることができます。
②底地と借地権の交換
地主からみますと、底地の相続税評価額は自用地価額の4~5割にもなり、相続税の負担は大変重いものになってしまいます。一方、借地権者にとって、契約更新の時や建物の建替えの場合には、更新料又は承諾料などの負担が必要となります。また、この権利を単独で第三者に売却することは難しいですし、地主同様、相続が発生すれば権利が分散し、財産分けでもめることもあります。
このような事情にある底地・借地の関係を交換により解消しておくことにより、地主・借地人双方にとって物納や相続税の納税のために現金化することも容易になります。
③物納可能な土地の交換取得
物納可能な土地を交換により取得します。所有する財産の大半が下記に記載した物納不適格財産である場合には、相続税の納税に困窮することになります。そこで、生前に物納不適格財産を「交換の特例」を活用し、適格財産に無税で移行させます。
例えば、①借地人との間が良好でない貸宅地は借地権と交換する、②道路に4m以上接していない間口の狭あいな宅地等を所有している場合には、間口を広げるために隣接する土地と交換する、などして、物納適格財産へ移行させます。
また、交換の特例は法人・個人間でも使えますので、同族法人がある場合には、個人が貸し付けている重要な土地と、会社が所有している遊休土地(不要資産)との交換も検討すれば、さらに選択範囲が広がります。
【物納不適格財産】
- ●質権その他の担保権の目的となっている財産
- ●係争中の財産
- ●共有財産の一部
- ●譲渡禁止もしくは譲渡につき承認を要するなど譲渡に関して特別の定めのある財産
- ●借地権者が明らかでない貸地等で売却できる見込みのない不動産
- ●公共の用に供され又は供される見込みの不動産(公園等を除く)
- ●借地・借家契約の円滑な継続が困難な不動産等
(8)赤字会社に対する貸付金等の債務免除
赤字法人の場合、理事長がその法人に対して資金援助していることがよくあります。 この赤字会社に対する貸付金等についても、代表者に万一のことがあれば、相続税の課税対象となります。このような回収できない恐れがある債権は、できれば生前に放棄し、相続財産から外しておかなければ税金だけかかる迷惑な財産となります。
【債務免除の際の留意点】
- ●法人側においては債務免除を受けた金額に相当する利益が発生しますが、税務上の繰越欠損金の範囲内の利益であれば相殺され、留保金課税を除き結果として法人税は課税されません。
- ●代表者の債権放棄により、同族会社の純資産価額がその金額だけ増加します。それによって自社株式の相続税評価額が上がった場合には、債務を免除した代表者から他の株主への贈与とみなされ、基礎控除額を超える場合は贈与税が課税されますので、注意する必要があります。
- ●長年赤字続きである会社は自社株式の評価額が低く、ゼロの場合も多いので、赤字のうちに株式を子どもの名義にしておくのもよいでしょう。
(9)低解約返戻金型終身保険の活用
①生命保険契約に関する権利の評価
生命保険契約に関する権利の評価は、評価時点でその契約を解約したとした場合の解約返戻金相当額です。つまり、契約者が被相続人で、被保険者が相続人の場合には、相続発生時の解約返戻金相当額が相続財産となります。
②どのような保険なら贈与の代わりになるか
なるべく短期間での解約を防止するために、保険会社によっては当初の解約返戻金を低く抑えて、長期間経過後に返戻率を高くする「低解約返戻金型終身保険」という商品も開発しています。
この保険契約は、契約者である被相続人にとって、早いうちに相続が発生した場合には解約返戻金が低く抑えられているため相続税評価額が低く、相続した後に相続人が継続すればぐんと解約返戻金が高くなるというメリットがあり、一種の無税での贈与と言えるでしょう。保険会社の側からみても、長期間継続してもらった方が望ましいので、この商品は双方に満足のいくものではないでしょうか。
5.納税資金確保対策
(1)生命保険金で相続税の全額を賄う
正味財産額(債務控除後)が3億円以下で配偶者が1/2相続するようなケースでは、生命保険の加入が可能な年齢と健康状態であれば、生命保険の加入だけで納税資金対策は確保できます。死亡保障3,000万円程度で必要な相続税の納税資金を準備することができます。つまり、相続財産を無傷で残すために生命保険を活用し、死亡保険金で相続税をカバーすればよいのです。
そこで、死亡保障がいくら必要か確認するために、正味財産額と相続税額を表にまとめてみました。
上記の表でもわかるように子どもの数が増えれば、相続税額は更に少なくなります。
一方、配偶者がいない場合には、配偶者の税額軽減が使えないので、税額は大きく増加します。下記の表は配偶者がいない場合の相続税額です。
以上のように2次相続の場合など、配偶者がおらず配偶者の税額軽減を使えない場合は、相続税額は多額になります。
したがって、保険金で相続税を賄おうとすると多額の保険に加入しなければなりません。
(2)保険料の贈与による納税資金の確保
生命保険金で相続税の納税資金を準備する場合に、①親が保険料相当額の現金の贈与を子に行い、②子がその現金で親を被保険者とする生命保険契約に加入すれば、相続税の節税と納税資金対策を同時に解決できる「保険料贈与プラン」が実行できます。
この方法であれば、保険料支払能力等のない子でも生命保険料の負担が可能になり、死亡保険金は子の一時所得として課税されるので、相続税の課税対象外になります。
贈与する金額は、贈与税の基礎控除額の範囲内である110万円で行うのも一法ですが、確保できる保険金額の目安は、70歳男性で1,450万円、女性で1,920万円の保険金(目安)に過ぎません。
そこで、相続税の最低税率が10%であることから、相続税の課税が避けられない資産家にとっては、贈与により資産の分散を図ることと併せ、より大きな保険金額を確保するために、贈与税の最低税率10%以下の範囲である310万円を贈与することで、その効果をより高めることができます。
この場合の贈与税は、以下のとおりになります。
(310万円-110万円)×10% = 20万円
310万円の贈与金額から贈与税を控除した残額290万円で年払終身保険に加入すれば、70歳の男性の場合には3,880万円、70歳の女性の場合には5,070万円の保険金(目安)を確保することができます。
なお、保険料支払能力等のない子等に対する保険料相当額の贈与行為については、次の要件を満たすものであれば認められています。
- ●毎年、贈与契約書を作成する
- ●過去の贈与税申告書の控を保管しておく
- ●父等が所得税の確定申告などで、この保険による生命保険料控除を受けない
- ●その他贈与の事実が認定できるようにしておく
(3)生命保険の加入方法の工夫
①生命保険の契約内容に注意する
保険契約の関係者には、被保険者、保険契約者、保険料負担者、保険金受取人がいます。税法上は保険契約者が誰であるかは関係なく、保険料負担者が誰であるかを問題とします。
さらに、被保険者、保険料負担者、保険金受取人が誰であるかによって、課税される税金が違ってきます。
②生命保険金を一時所得として受取る
- ●被保険者と保険料負担者が被相続人で、受取人が相続人であれば、死亡保険金は相続財産とされて相続税が課税されます。
- ●被保険者が被相続人で、保険料負担者と保険金受取人を相続人にすれば、死亡保険金は一時所得となって所得税が課税されます。
それでは、相続税と所得税のどちらを払う方が有利なのかを考えてみます。
【死亡保険金を受取ったときの一時所得の金額の計算】
(受取った保険金額 - 払込保険料 - 50万円) × 1/2
一時所得税における税率は、課税所得金額が4,000万円を超える高額所得者であっても、実質的には最高でも27.5%(所得税45%と住民税10%の合計55%の1/2)の税負担で済みます。
一方、相続税の税率は、各相続人の法定相続分による取得財産価額が「5,000万円超1億円以下で30%」「1億円超2億円以下で40%」にもなってしまいます。
③生命保険加入時の節税ポイント
- ●まず、非課税枠(500万円×法定相続人数)までの保険契約については、被相続人が保険料を負担して生命保険金が相続財産になるようにします。
- ●非課税枠を超える部分の保険契約については、各相続人の法定相続分による取得財産価額が5,000万円を超える部分は、相続税の税率は30%になりますので、一応の目安として「各相続人の法定相続分による取得財産価額が5,000万円を超える」ようであれば、相続人である妻や子どもが保険料を負担するようにします。そうすることによって、生命保険金を相続財産としてではなく、税率が27.5%以下となる一時所得として受取ることができるようになります。
つまり、相続税の非課税枠をフルに活用し、それを超える部分については、生命保険金以外の財産額の多寡に応じて、相続税の税率と一時所得にかかる所得税と住民税の税率を比較してどちらが有利かによって、生命保険の加入方法を工夫するということです。
(4)「相当の地代方式」を活用した金融資産の移転
この対策は、子所有の土地に生計を一にする父が賃貸マンション等を建て、子の土地との貸借関係を「相当の地代方式」で、かつ、概ね3年ごとにその地代を改訂することとします。
この対策の狙いは、父に多額の金融資産がある場合に、相当地代の収受により父の金融資産を子に無税で移転させることにあります。なぜ、課税されないのでしょうか?
①借地権について
子が所有する土地を同一生計の親に賃貸するに当たり、権利金及び地代を収受しない場合には使用貸借と判定され、借地権等の課税関係は生じません。また、通常の権利金の収受がなくても、親が子に相当の地代の支払をすれば同様に借地権の課税関係は生じません。
②支払地代について
- ●同一生計の親族間における地代の収受については、所得税法第56条(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)において、「①居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が居住者の営むその事業から対価の支払を受ける場合には、その居住者の所得金額の計算上必要経費に算入しないものとし、かつ、②その親族が支払を受けた対価の額は、各種所得金額の計算上ないものとみなす」とする規定があります。
- ●この規定は、「同一生計の親族間で対価の受払いが行われた場合、所得金額の計算上、支払った側の必要経費にしない、受取った側の収入にもしない」ということであり、同一生計の親族間での対価の支払そのものを否定するものではありません。
以上のことから、相当の地代方式では支払地代の額が高額となりますが、同一生計の親族間の地代の収受については所得税の課税関係も生じない点を活用し、子が所有する土地に父親が賃貸マンション等を建築し、①権利金の収受を行わず、②相当の地代の改訂方式により相当地代の支払をすれば、子は所得税及び贈与税の課税を受けずに金銭の移転を受けることが可能となります。また、この場合、父親はその敷地に対して一切の権利を有しませんので、相続発生時に借地権として財産に加算されることもありません。
ただし、この対策の実行に当たっては、次の要件を満たしていることが最低条件になります。
- ●子と親が生計を一にしていること
- ●親の営む不動産貸付業が事業的規模であること
(5)出資金の払戻と譲渡
①出資金の払戻
持分ありの医療法人の出資金を相続した場合に、医療法人に潤沢な資金がある場合は医療法人から出資持分の払戻しを受けることが可能です。
ただし、医療法人は一般法人と異なり金庫株(自社株取得)はできないため、払戻金の全額が譲渡ではなく配当とみなされます。
したがって、総合所得として他の所得と合算して税率が決められるため、高額所得者はより高い所得税率が適用されてしまいます。
②出資金の譲渡
持分あり医療法人の後継者以外が出資金を相続した場合には、医療法人の後継者に譲渡することにより、配当所得ではなく譲渡所得として20.315%(所得税15%、復興税0.315%、住民税5%)の税率となります。
また「相続財産を譲渡した場合の譲渡所得の取得費加算の特例」の適用を併せて受けることができます。
以上のように、出資金の払戻の場合は、医療法人から資金が流出してしまう結果となり、譲渡の場合は、後継者の個人資金が流出してしまう結果となります。
したがって、相続税納付のための出資金の払戻と譲渡は、医療法人と後継者にとっては大きなリスクとなってしまいます。
こうしたリスクを回避するためには、退職金などにより出資金の評価を下げ後継者に生前贈与すること。遺言書や信託契約書により、出資金は後継者が相続する旨を記すことなどの事前対策が必要となります。
(6)相続財産の売却対策
相続税額の取得費加算の特例を活用する。
相続又は遺贈により財産を取得した人が、その取得した財産を相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの期間内に譲渡した場合には、通常の取得費の金額に、次の算式によって計算した金額を加算することができます(譲渡収入から資産の取得費及び譲渡費用を控除した残額《譲渡益》を限度とする)。
【譲渡所得に係る所得税、復興税、住民税の計算】
課税所得 3.5億円 -(1億円 + 1,125億円) = 1.375億円
納付税額1.375億円 × 20.315% ≒ 2,793万円
※取得費加算額の計算
相続税3億円 × (3億円÷8億円)= 1.125億円
以上にように、申告期限から3年以内に譲渡すれば、取得費に1.125億円を加算することができます。3年を過ぎてしまうと加算できずに、結果として約2,285万円納付額が増えてしまいます。
また、相続した土地自体で納付する物納という手続きがあります。
物納の場合には、相続税の課税価格に算入した金額で納付したことになります。
したがって、小規模宅地等の特例により減額があった場合には、減額後の価格となってしまいます。
なお、財産を相続税の物納に充てた場合には、その財産の譲渡はなかったものとみなされます。ただし、物納の許可限度額を超える価額の財産を物納した場合には、その超える部分は譲渡所得の課税対象になります。
任意売却か物納かの判断は、相続人に強い税理士等の専門家のご相談ください。
6.個人開業医のための事業承継税制
(1)個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予及び免除
平成31年度税制改正で個人版事業承継税制が10年間の期間限定措置として創設されました。法人の事業承継税制では医療法人は対象外となっていますが、個人版事業承継税制は、個人開業の医師や歯科医師も対象とされました。
特定事業用資産を有していた一定の個人が、特例事業受贈者に、令和10年12月31日までの間に、その事業に係る特定事業用資産のすべての贈与をして事業を継続していく場合には、担保の提供を条件に、期限内申告書の提出によってその特例事業受贈者が納付すべき贈与税額のうち、贈与により取得した特定事業用資産の課税価格に対応する贈与税の納税が猶予されることになります。
(2)適用を受けるための手順
①個人事業継承計画の提出と確認
後継者は、先代事業者の事業を確実に承継するための具体的な計画を記載した個人事業承継計画を策定し、認定経営革新等支援機関の所見を記載し、令和6年3月31日までに都道府県知事に提出し、その確認を受けます。
②贈与の実施と開業届出書の提出
事業用資産の贈与を実施します。納税猶予の対象となる資産は下記に記載した資産になりますが、この制度の適用を受けるためには、先代事業者等である贈与者から、特定事業用資産の全ての贈与を受ける必要があります。
受贈者は、事業開始の日(贈与の日)から1カ月以内に開業届出書を提出します。また、青色申告承認申請書も提出し、青色申告の承認を受ける必要があります。
③適用を受けるための手順
贈与税の申告期限(贈与の年の翌年3月15日)までに、後継者(受贈者)の要件、先代事業者等(贈与者)の要件を満たしていることについての円滑化法の認定を受けます。
④贈与税申告書の提出
贈与税の申告期限までに、この制度の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書及び一定の書類を税務署へ提出し、一定の担保を提供します。
(3)猶予期間中の手続き
この制度の適用を継続して受けるためには継続届出書に一定の書類を添付して3年ごとに所轄の税務署へ提出する必要があります。 なお、継続届出書の提出がない場合には、猶予が取り消され、それまで猶予されていた贈与税の全額と利子税を納付する必要があります。
(4)贈与した先代経営者が死亡した場合
猶予された贈与税については、贈与を行った先代経営者が死亡した時点で免除となります。贈与を受けた特例受贈事業用資産は、 相続等により取得したものとみなして、贈与の時の価額により他の相続財産と合算して相続税を計算します。
なお、その際、都道府県知事の「円滑化法の確認」を受け、 一定の要件を満たす場合には、そのみなされた特例受贈事業資産について「個人の事業用資産についての相続税の納税 猶予及び免除」の適用を受けることができます。
そして、後継者が、その死亡の時まで、特定事業用資産を保有し、事業を継続した場合や一定の身体障害等に該当した場合、また、相続税の申告期限から5年経過後に、次の後継者へ特定事業用資産を贈与し、後継者がその特定事業用資産について贈与税の納税猶予制度の適用を受ける場合には、猶予された相続税額の全額が免除されます。
(5)対象となる受贈者の要件
この制度を受けることができる受贈者を特例事業受贈者といい、贈与により特定事業用資産を取得した個人で下記のすべての要件を満たすことが必要となります。
- ●贈与の日において20歳以上であること
- ●特例円滑化法認定を受けていること
- ●贈与の日まで引き続き3年以上特定事業用資産に係る事業に従事していたこと
- ●贈与の時から贈与税の申告書の提出期限まで引き続き特定事業用資産のすべてを有し、事業の用に供していること。
- ●期限申告書の提出期限において特定事業用資産に係る事業の開業届出書を提出し、青色申告の承認を受けていること
- ●贈与者の事業を確実に承継すると認められる一定の要件を満たしていること
(6)対象となる事業用財産
被相続人の事業の用に供されていた次の資産で青色申告書に添付される貸借対照表に計上されているものが該当します。
前述の通り、事業関係の資産はすべて贈与する必要がありますが、対象となる資産は下記の資産のみとなります。
- ●宅地等(面積400㎡までの部分に限る。)
- ●建物(床面積800㎡までの部分に限る。)
- ●機械・器具備品
- ●車両・運搬具(自動車税又は軽自動車税において営業用の標準税率が適用される自動車等が該当)
- ●生物
- ●無形償却資産
個人開業の医師・歯科医師であれば、診療所用の土地等・建物、診療機器等が対象となります。