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相続Q&A

労務管理

Q01.従業員が事故に遭ったとき、または死亡したときの補償はどうすればよいのでしょうか。

A01.

労働基準法は、労働者の業務上の事故によるケガや病気になった場合は、以下の補償を行うことを義務づけていますが、実際の補償は労災保険によって行われています。

業務外の事故については、必ずしも事業主が補償する必要はありません。

  • 会社に、労働者の療養費を負担すること(労働基準法第75条)
  • 働くことができなくて賃金がもらえないときには、その間の生活を保障するために平均賃金の60%を支払うこと(労働基準法第76条)

会社に療養補償や休業補償などが義務づけられるのは、労働者のケガや病気が、仕事のうえで起こったものに限られるわけですが、それが仕事のうえのものなのかどうか、その判断が困難な場合も多いようです。

補償の義務があるかどうかの判断基準は以下の2点になります。

  • 1.それが会社の仕事をしているときに起こったものであるかどうか
  • 2.それが仕事が原因で発生したものかどうか

労働基準法は、仕事によって起こるものとして、職業病を予め特定して、それ以外のものでも仕事に起因することが明らかな病気は、仕事の上の病気として取扱うことにしています。(労働基準法第75条第2項)
このように、労働者が仕事のうえで災害を受けたときは、会社はその労働者に重大な過失がない限り(労働基準法第78条)、例え会社に過失がなくても補償の責任を負わなければなりません。

労働者災害補償保険法

日頃から会社が保険料を払い込んでおいて「災害が発生した時にはそれで補償を行う」という仕組みを定めた法律です

1.適用範囲

原則として労働者を雇っている会社は全部、必ず加入しなければなりません。

※ただし、農林水産業の一部は、当面、任意適用とされています。(労働災害補償保険法第3条)

2.保険料

保険料は、会社が全額を負担しなければならない。
会社が、この労働者災害補償保険に加入していれば、労働者が仕事のうえで災害を受けたときは、保険の方から補償が行われるわけですが、保険が適用されると、会社は、労働基準法で定められた補償は行わなくてよいことになります。(労働基準法第84条第1項)

補償給付の内容

療養補償給付
  • ケガや病気が治るまで、無料で治療が受けられます。
  • 原則として治療は労災病院、労災指定病院で受けることになります。
  • ほかの病院で治療を受けたときは治療費全額が支給されます。
休業補償給付
  • 療養のため働くことができなくて賃金がもらえない時は、働けなくなった日の4日目から給付基礎日額-平均賃金-の60%が支給されます。
  • その他に、休業特別支度金として第4日目から1日につき20%に相当する額が支給されます。
    なお、最初の日から3日間の分は労働基準法に基づいて、会社が同じように60%を補償します。
傷病補償年金
  • 療養を開始してから、1年6ヶ月を経過しても、ケガや病気が治らず、その傷病から労働省令で定める傷病等級に該当し、なお引続き相当の期間療養を必要とする時に支給されます。
障害補償給付
  • ケガや病気が治った後に障害が残った時は、その程度に応じて障害補償年金、あるいは障害補償一時金、また障害特別支給金が支給されます。
遺族補償給付
  • 死亡した場合は、遺族補償年金、あるいは遺族補償一時金が支給されます。
  • その他に遺族特別支給金が支給されます。
葬祭料
  • 死亡した場合、葬祭を行う人に対して、31万5千円と給付基礎日額の60日分のどちらか高い額が支給されます。
Q02.労災事故で入院中の社員の社会保険の資格を喪失してもよいでしょうか。

A02.

労働基準法は、労災による療養のための休業期間とその後30日間は、解雇は制限されていますので、雇用保険と社会保険の資格を喪失することはできません。休業には症状固定までの一部休業も含まれます。他方、療養には、症状固定(治癒)後の療養継続、通院等は含まれません。

労働基準法第19条(解雇制限)

使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によつて休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。

解雇制限について

解雇制限の例外

業務災害による療養の場合は原則として解雇はできませんが、療養開始後3年を経過しても傷病が治癒しない場合に限り、使用者が平均賃金の1200日分の打切補償を支払うことを条件に、解雇できることになっています。

また、療養開始後3年経過時点で、傷病補償年金を受けている場合には、この打切補償は支払う必要がなく、解雇制限も解かれます。
もちろん、打切補償によって、必ず解雇が有効に成立するとはいえません。
解雇としての妥当性が問われることになります。労災で後遺症があったとしても、職務の変更等により解雇が回避できる場合は、解雇が否定されるということもあります。

なお、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合」に解雇制限が解除される例外もありますが、この場合には、労働基準監督署の認定が必要となります。

Q03.過労死は業務上災害として認められるのでしょうか。

A03.

過労死とは、過重労働等が原因で脳血管疾患や心臓疾患を起こして死亡するもののことをいいます。近年、過労死が大きな社会問題となり、平成7年に新たな過労死の認定基準として「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」が設けられました。この認定基準によると、以下の要件を満たす脳血管疾患及び虚血性心疾患等については、業務上災害として認められることになりました。

取り扱う疾患

脳血管疾患

~ 脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症 虚血性心疾患
~ 一次性心停止、狭心症、心筋梗塞、解離性大動脈瘤、不整脈による突然死

認定要件

脳血管疾患

(1)次に掲げるイまたはロの業務による明らかな過重不可を発症前に受けたことが認められること。

  • 発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事(業務に関する出来事に限る)に遭遇したこと。
  • 日常業務に比較して、特に過重な業務に就労したこと。

(2)過重な業務不可を受けてから症状の出現までの時間的経過が、医学上妥当なものであること。

なお、近年、過労死に対する国の基準が見直されつつあります。国の動向について注意が必要です。

Q04.在宅勤務の者が自宅で作業中に怪我をした場合、労災になるのでしょうか。

A04.

まず、その者が労働者として認められるかどうか、次に、その怪我が業務に基づいて起きたのか、つまり、業務遂行性、業務起因性があるかどうかによって労災認定の可否が判断されます。

在宅勤務中に発生した災害について労災認定をする場合、業務と私生活が混在しているために、業務中に発生した災害かどうかの判断が難しくなります。

ある負傷が労災保険の業務上災害と認められるためには、原則として業務中に(業務遂行性)、その業務が原因となって(業務起因性)、罹災したものでなければなりませんが、在宅勤務をしている場合には、使用者からの管理を常に受けているわけではなく、在宅勤務者自身が自己の判断で様々な行動をとることが可能になりますから、そのひとつひとつの行為には私的な行為も出てくると考えられるからです。

このように、在宅勤務者の私的行為にまで業務遂行性が認められるわけではありませんので、在宅勤務者が自宅で作業中に怪我をしたというだけでは、労災保険の適否の判断はできませんが、作業中である(業務遂行性がある)ことが確認され、また、その作業が使用者の命令下で行われたことが明白であれば、労災保険の適用は可能と思われます。
つまり、その負傷が作業に伴う必要行為または合理的行為中に発生したもの、作業に伴う準備行為または後始末行為中に起きたものであれば、労災と認められ、給付が行われるということになります。

具体的な事案では、勤務先ではなく、出張先で業務終了後、同行者らと飲酒を伴う夕食をとり、その後、宿泊施設内の階段を歩行中に転倒し、頭部を打撲するなどし、このことが原因でAさんは約4週間後に急性硬膜外血腫で死亡した事例があります。
この場合においてもAさんが業務と全く関連のない私的行為や恣意的行為あるいは業務遂行から逸脱した行為によって自ら招いた事故ではなく、業務起因性を否定すべき事実関係はなく、Aさんの死亡は労災法上の業務上の事由による死亡に当たるというべきであるという判例もあります。

Q05.入社前研修中のケガは、労災になるのでしょうか。

A05.

内定者の入社前研修中の事故が労災となるかどうかを考える場合、まず研修参加者に労働者性があるかどうかが問題となりますが、労働者性があるかどうかは、下記2点によって判断されます。

  • (1)労務の提供がなされているかどうか
  • (2)労務の提供に対する報酬が支払われているかどうか

当該研修が業務知識を身につけさせることを目的としたものであること、また、参加が義務づけられていることからみると、研修中労務の提供がなされており、賃金の支払いが必要と考えられます。
したがって、当該研修への参加者には労働者性があると解されます。

次に、労災保険が適用されるためには、第2の要件として、次の2点を満たすことが必要です。

  • (1)労働者が災害発生時に使用者の指揮監督下におかれていること
    (業務遂行性)
  • (2)研修と災害との間に相当の因果関係があること
    (業務起因性)

例えば、研修終了後の自由時間に事故に遭った場合は、業務遂行性、業務起因性ともに認められませんが、担当者の後について工場を見学して回っている最中に階段を踏み外したり、実際に簡単な機械の操作をしているときに、誤って機械に手をはさんでしまった場合などは、この2つの要件を満たすものと考えられます。

したがって、当該研修中に発生した事故に、業務遂行性と業務起因性の両方が認められれば、労災保険から給付を受けることができるでしょう。
なお、上記のような研修への参加の往復の時間は通勤に準じたものと考えられますので、その途上で災害に遭った場合には、指定された径路を途中で逸脱していない限り、通勤災害として扱われることになります。

Q06.通勤途中にマンションの階段で転んで怪我をした場合、通勤災害に該当しますか。

A06.

通勤災害とは、労働者が、就業するため住居と就業の場所との間を合理的な経路及び方法によって往復する間に発生した災害のことをいいますが、ご質問のように、マンションの共用部分で負傷した場合、当該マンションの共用部分が住居内なのか、あるいは住居と就業場所との経路上にあるのかがポイントとなります。

なお、一戸建ての屋敷構えの住居の玄関先については、行政解釈で「住居内であって、住居と就業の場所との間とはいえない」とされています。
したがって、門を出たところから通勤上の経路として認められる形になります。

1「就業に関し」とは

通勤とされるためには、労働者の住居と就業の場所との間の往復行為が業務と密接な関連をもって行われることが必要です。
したがって、被災当日に就業することとなっていたこと、又は現実に就業していたことが必要です。
この場合、遅刻やラッシュを避けるための早出など、通常の出勤時刻と時間的にある程度の前後があっても就業との関連は認められます。

2「住居」とは

労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところをいいます。
したがって、就業の必要上、労働者が家族の住む場所とは別に就業の場所の近くにアパートを借り、そこから通勤している場合には、そこが住居となります。
また、通常は家族のいる所から通勤しており、天災や交通ストライキ等の事情のため、やむを得ず会社近くのホテル等に泊まる場合などは、当該ホテルが住居となります。

3「就業の場所」とは

業務を開始し、又は終了する場所をいいます。
一般的には、会社や工場等の本来の業務を行う場所をいいますが、外勤業務に従事する労働者で、特定区域を担当し、区域内にある数か所の用務先を受け持って自宅との間を往復している場合には、自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所となり、最後の用務先が業務終了の場所となります。

4「合理的な経路及び方法」とは

住居と就業の場所との間を往復する場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び方法をいいます。
合理的な経路については、通勤のために通常利用する経路であれば、複数あったとしてもそれらの経路はいずれも合理的な経路となります。

また、当日の交通事情により迂回してとる経路、マイカー通勤者が貸切りの車庫を経由して通る経路など、通勤のためにやむを得ずとる経路も合理的な経路となります。
しかし、特段の合理的な理由もなく、著しく遠回りとなる経路をとる場合などは、合理的な経路とはなりません。

次に、合理的な方法については、鉄道、バス等の公共交通機関を利用する場合、自動車、自転車等を本来の用法に従って使用する場合、徒歩の場合等、通常用いられる交通方法を平常用いているかどうかにかかわらず、一般に合理的な方法となります。

5「業務の性質を有するもの」とは

以上説明した1から4までの要件をみたす往復行為であっても、その行為が業務の性質を有するものである場合には、通勤となりません。
具体的には、事業主の提供する専用交通機関を利用する出退勤や緊急用務のため休日に呼出しを受けて緊急出勤する場合などが該当し、これらの行為による災害は業務災害となります。

6「往復の経路を逸脱し、又は中断した場合」とは

逸脱とは、通勤の途中で就業や通勤と関係のない目的で合理的な経路をそれることをいい、中断とは、通勤の経路上で通勤と関係ない行為を行うことをいいます

しかし、通勤の途中で経路近くの公衆便所を使用する場合や経路上の店でタバコやジュースを購入する場合などのささいな行為を行う場合には、逸脱、中断とはなりません。

通勤の途中で逸脱又は中断があるとその後は原則として通勤とはなりませんが、これについては法律で例外が設けられており、日常生活上必要な行為であって、労働省令で定めるものをやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、逸脱又は中断の間を除き、合理的な経路に復した後は再び通勤となります。

なお、労働省令で定める逸脱、中断の例外となる行為は以下のとおりです。

  • (1)日用品の購入その他これに準ずる行為
  • (2)職業能力開発促進法第15条の6第3項に規定する公共職業能力開発施設において行われる職業訓練(職業能力開発総合大学校において行われるものを含みます。)、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
  • (3)選挙権の行使その他これに準ずる行為
  • (4)病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
Q07.従業員が交通事故を起こした場合、会社にはどのような責任があるのでしょうか。

A07.

従業員が会社の自動車で事故を起こした場合と、 従業員所有の自動車で帰宅途中事故を起こした場合について、以下にまとめましたので、ご参照下さい。

従業員が交通事故を起こした場合、それが業務中の事故であれば会社が損害賠償責任をとるのは当然のことです。
ここで、業務上であるか否かが問題となりますが、本来の業務を遂行している過程で生じた場合はもちろん、それ以外でも業務に付随している行為をしている場合でも業務上と言えます。

業務に付随している行為とは、業務中の用便・飲食、器具整理などの後かたずけ、突発事故に対する救援などの緊急行為等です。

(1)従業員が会社の自動車で事故を起こした場合

自動車を会社の業務中に起きた事故であれば、会社はその自動車の保有者であり、民法上の使用者責任及び、自動車損害賠償保障法の運行供用者責任を負うことになります。

(2)従業員所有の自動車で帰宅途中事故を起こした場合

その自動車の所有者は従業員であり、従業員に対し運行供用者責任を負います。
ただし従業員の車通勤を会社が積極的に勧めるなどした場合は会社にも責任があります。
具体的には、会社がマイカーのために駐車場を設け、ガソリン代を支給しているときや、通勤手段がマイカーによるしかないなど不便な場所に会社があるなどといった場合です。

Q08.当社では従業員に対しての貸付制度を設けようと考えていますが、回収不能の危険性もあることから退職金を担保にすることを検討しています。何か注意する点はありますか教えてください。

A08.

会社の貸付制度、退職金との相殺について、会社としての責任について、以下にまとめましたので、ご参照下さい。

会社の貸付制度

本来、金銭の貸付けは、貸金業の登録をする必要がありますが、事業主が従業員へ貸付ける場合は登録は必要ありません。
従業員への貸付の目的は福利厚生的なものでありますが、貸付利息が市中金利より著しく低い場合、又は無利息の場合には、税法上の問題として従業員に対する給与扱いとなり、税金が課税される可能性もあります。

退職金との相殺について

労働基準法第24条は、「賃金は、その全額を支払わなければならない」として、全額払いの原則を示しています。
この賃金には退職金も含まれると解されます。
したがって、退職金から控除して支払うことは原則禁止です。
しかし、所得税など法令にもとづくもの、労使協定で定める項目については控除できます。
したがって、まず貸付金の残額を退職金から控除する趣旨の協定を結ぶ必要があります。

また、労働基準法第24条は、「控除して支払うことができる」とだけしており、控除限度額は設けていません。
したがって、「控除される金額が賃金額の一部である限り、控除額についての限度はない」とされています。
ところが、民事執行法第152条は、毎月の賃金や賞与については、その額の4分の3に相当する部分(その額が政令で定める額、現在21万円を超えるときは当該額)について差し押さえを禁じ、退職金については4分の3に相当する部分について差し押さえを禁じています。

さらに、民法第510条は「債権が差し押さえを禁じたものであるときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない」としています。
この場合、債権は賃金であり、債務者は使用者、債権者は労働者なので、使用者は労働者に対し相殺することはできないとなります。

しかし、一方的な意思表示でなく、両者合意の下に契約して差し引き計算することは、上記の「相殺」に該当しないことになります。
上記で述べた民法上禁止している趣旨は、債権者の意思に反する債権の消滅を禁ずるものであるのですから債権者自ら契約によって相殺することは妨げないことになります。
以上から、労使協定に「貸付金の残額を退職金から控除する」旨の項目があり、かつ、「当事者と契約」を結んで相殺すれば、支払額の4分の1を超えて控除しても差し支えないことになります。

会社としての責任

会社としては貸付時に十分な説明、理解を得ることが必要であり、退職金との相殺に関して労働者との意思確認書等を作成し、その労働者の署名・捺印を得ておくことが必要と思われます。

Q09.従業員持株制度とはどのようなものか教えてください。

A09.

従業員持株制度は安定株主の確保と従業員の福利厚生という観点から生まれました。会社の従業員が株主であるということは、会社の信頼できる株主が確保されていることですし、従業員も会社の業績を挙げるために努力するはずです。

従業員持株制度

従業員持株制度というのは従業員が団体(従業員持株会)をつくり、毎月の給与や賞与から一定金額をこの団体に納めて、その資金で自社の株式を買い付ける制度です。

従業員持ち株制度の問題点

従業員持株会は毎月一定日に株式を買い付けるために証券市場において定期的な株価変動を引き起こす場合や、賞与月には大量買付けをするのにそれに見合う株式が流通していないことがあります。
そこで一定要件をもとに、会社があらかじめ自社株を取得しておいて、これを持株会に売却することが認められるようになりました。

従業員持株制度の導入手順

次の手順で従業員持株制度を導入すると、経営権に影響なく、上手な自社株対策が実行できます。

  • (1)オーナー所有株式のうち、経営権に影響のない株式について配当優先株とし、無議決権株式化しておく。これによって経営権に影響することはない(無議決権株式は発行済株式数の2分の1を超えて発行することはできない。)。
  • (2)会社の定款に株式の譲渡制限規定がない場合には譲渡制限規定を設け、自社株が勝手に従業員から第三者に譲渡されるのを防ぐ。
  • (3)従業員持株会の規約を整備しておく。特に従業員が退職する場合には、持株会またはその指定する者へ持株を譲渡する旨の規定と買取価格の算定方法を明記することが必要である。

退職する従業員からいくらで買い取るか

従業員持株会で問題になるのは、退職した従業員からいくらで自社株を買い取るかということです。
一般的には配当還元価額が多いように思われますが、中には額面金額のところもあります。
よく問題になるのは、取得したときは額面金額で行ったものの、買い取るときにはどうするかということです。

  • (イ)取得時が額面金額だから買い取るときも額面金額である。
  • (ロ)取得時は取得時、買い取るときはその時の時価である配当還元価額である。
  • (ハ)従来から1株500円で買い取ってきたから、過去からの慣行を貫く。などいろいろな主張があります。

重要なのは、従業員株主がいくらで納得するかです。
納得する基準を設けたなら、それを従業員持株会の規約の中で買取価格として明記しておくことが少しでもトラブルを避ける対策になります。

Q10.労働契約とは、どのような内容と意義を持つのでしょうか。

A10.

労働者(使用人・被用者=従業員)が使用者に対して労務(労働)を提供し、使用者はその対価として報酬(賃金)を支払うことを約することを内容とした契約を、労働契約といいます。

ここで、労働者とは職業の種類を問わず、労働基準法の適用される事業・事業所に使用される者で、賃金の支払を受ける者をいいます。
ただし、家事使用人は含まれません。そして、この個別的な労使関係について定めた法律が労働基準法です。

労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるものの他は、原則として1年を超える期間を定めることはできません。
また、この期間を3年とする改正案が出され、近い将来にはこうした有期の労働契約の期限が伸長される見通しです。

労働契約の締結により、労働者は労務を提供する義務を負い、報酬を請求する権利を有します。
一方、使用者は、労働者より労務の提供を受ける権利があり、それに対し報酬を受ける義務を負います。
また、労働者の生命・健康等を危険から保護するよう配慮する義務(安全配慮義務)を負うものとされます。

一方、労働基準法は、労働者保護を目的として、労働契約の締結時における規制や労働契約に付随する契約に関する規則を定めています。

具体的には、

  • 均等待遇
  • 労働条件の明示
  • 損害賠償額の予定の禁止
  • 前借金相殺の禁止
  • 強制貯金の禁止

の各々についての規制が契約締結時になされています。

労働契約も契約である以上、売買契約等と同様に、締結に際して基本的には契約自由の原則が妥当します。
しかし、労働契約の締結については、募集・採用に関する規制、採用内定等をめぐる規制がなされています。

Q11.労働条件を明示するための就業規則は、どのような内容を定めるのでしょうか。
また、労働者に対してはどのように周知させるのでしょうか。

A11.

労働者を採用するにあたっては、労働基準法の定めにより労働条件を明示することが必要とされ、この明示には、一般に就業規則を交付することによって行われます。

この就業規則は、採用から退職までの労働条件や職場の規律などを定めたものであり、人事労務管理の基準であると共に、労働者だけでなく使用者もこの規定に拘束されます。

労働基準法の定めによれば、就業規則について、

  • 作成と届出
  • 効力
  • 規定事項(絶対的・相対的・任意的記載事項)
  • 作成手続(意見聴取義務・届出義務・周知義務)
  • 変更

について制限を設けています。

就業規則の内容は、憲法・労働基準法・労働組合法等その他法令に違反してはならず、仮に違反する部分があれば、その部分については無効となります。
ただし、就業規則は所轄の労働基準監督署に対して届出が必要であるため、違反部分については届出の段階で、労働基準監督署長から変更命令を出すことができます。

一方、就業規則と異なり、労働協約は労使間の合意により定められ、両者の代表者の署名・捺印を得るという形式を取ることから、労働協約は就業規則よりも上位規範とされており、労働協約に抵触する就業規則は、その部分に限り無効となります。
実際には、就業規則の労働条件に関する条項と労働協約における労働条件に関する条項は一致していたにもかかわらず、改訂を重ねているうちに、両者の内容が合致しないという事態が生じるというケースです。

Q12.賃金と労働時間に関する規制には、どのようなものがありますか。

A12.

労働基準法上、賃金とは労働の対価として使用者が労働者に支払う全てもものをいいます。
すなわち、賃金・給料・手当・賞与等の名称の如何を問うものではありません。

また、労働の対価として支払われるものですから、使用者が任意に支払う祝金・弔慰金等は賃金とはみなされませんが、労働基準法において退職金の支払義務の定めはないものの、就業規則や労働協約において支給規定や支給基準を定めている場合には、賃金とみなされます。

なお、民法上は、賃金請求権の消滅時効は1年と定められていますが、労働基準法においては、労働者保護の観点から、賃金請求権の消滅時効を2年、退職金の消滅時効については5年と定めています。

また賃金支払には、

  • 通貨払い
  • 直接払い
  • 全額払い
  • 提起日払い

の4つの原則が定められており、賃金額の保障として契約自由の原則を制限しています。

その他、休業手当および三六協定による時間外労働・休日労働に対する割増賃金について、使用者には支払義務が課されています。

労働時間とは、一般に労働者が使用者の明示・黙示の指示により、その指揮命令下に置かれている時間とされます。
使用者は、労働者に対し休憩時間を除き、1日につき8時間、1週間につき40時間を超えて労働させてはならないと定められており、これを法定労働時間といい、これに対し各事業所において就業規則等で定められている時間を所定労働時間といいます。

使用者が労働者を法定労働時間を超えて労働させるには、時間外労働に関する労使協定(三六協定)を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。
また、三六協定があるからといって、それだけで労働者に時間外労働を命じることができるものではなく、労働協約・就業規則・労働契約等において、時間外労働および休日労働が労働契約の内容になっていることが必要とされています。

Q13.人事異動については、しばしば労使間のトラブルが起こりますが、これへの対応と法的根拠を教えてください。

A13.

人事異動とは、労働者の職種・勤務場所・地位・労務提供の相手方などを変動させることをいいます。
その法的根拠は、使用者の人事権にあると考えられますが、人事権も無制限ではなく、労働契約・就業規則・労働協約・労働基準法等の法令による制限があります。

人事異動の中心となるのは、配置転換(配転)といわれるものですが、これは相当の長期間にわたって労働者の職務内容・勤務場所を変更することです。
同じ事業所(同一勤務地)での配転は配置換えとも言われ、他の事業所(他の勤務地)への配転は転勤とも呼ばれます。

配転命令は使用者が自由に出せるというわけではありません。
例えば、労働協約や就業規則において、配転の基準や手続を定めていたり、「本人の事情を十分考慮する」といった規定が設けられている場合には、その制約を受けるものと考えられ、使用者側としては留意が必要になります。

また、女子や年少者を危険有害業務に就業させるような配転は無効であると定められています。
さらに、権利濫用による配転は無効とされています。
いずれが権利濫用にあたるかという判断は、当該配転命令の「業務上の必要性」と、この命令がもたらす「生活上の不利益」とを比較衡量して決定されます。

また、出向とは、相当の長期間にわたって他企業の使用者の指揮命令に従って、労務を提供することを指します。
このうち、労働者としての地位を、従前の使用者に対して残したままのものを在籍出向、労働者としての地位を移すものを転籍といいます。

在籍出向の場合は、出向元と出向労働者との労働契約は存続するが、労務提供関係は停止されることになります。
これに対し、転籍においては、出向基との労働契約関係は終了し、新たに出向先との労働契約関係が開始します。
よって、各種の労働法規が適用されるのは、原則として出向先の使用者および事業者ということになります。

出向については、配転以上に労働条件の重要な変更を伴うものであり、原則として、労働者の同意が必要であると考えられています。

いずれの場合にも、トラブルを回避するため、労働者が十分に理解できるよう、使用者としては慎重に対応することが求められます。

Q14.従業員の解雇を検討しています。
法的に解雇が認められるのは、どのような場合でしょうか。

A14.

労働者の解雇については、正当な事由が必要とされています。
解雇とは、使用者の一方的な意思表示によって労働契約を終了させることを意味し、原則自由とされていますが、判例において正当な事由を欠く解雇は、権利の濫用にあたり無効という判断がなされています。

解雇事由については、就業規則に明記されているのが通常であり

  • ①長期欠勤
  • ②勤務不良
  • ③人員整理等の業務上の都合等

が挙げられているのが一般的ですが、

  • 労働基準法
  • 男女雇用機会均等法
  • 労働組合法
  • 労働協約等

によっても制限がなされています。

期間の定めのない労働契約は、2週間前に解約の申し入れをすることにより終了します。
つまり、一方当事者よりの意思表示で労働契約を終了させることができるのが原則なのです。

しかし、労働基準法においては、使用者からの解約(解雇)は、労働者の生活に重大な影響を与えることから、解雇予告期間を30日に延長しており、また予告期間を設けない場合には、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならないと定めてられています。
そして、予告手当なしの即時解雇は、やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合と、労働者に責任のある場合に限って認められるとしています。

このうち、労働者に責任のある場合の解雇には、懲戒処分のひとつである懲戒解雇が挙げられます。
懲戒解雇は最も重い懲戒処分であり、通常解雇予告はなされず、予告手当も支給されません。
また、一般に就業規則において、退職金の全部または一部が不支給である旨を定めているほか、再就職にも支障が生じる可能性があるため、労働者に不利益が生じるので、処分は慎重に行うことが必要です。

Q15.定年退職した社員を再雇用するときの一般的な勤務条件について教えてください。

A15.

雇用契約上は有期雇用契約の形態が多く、賃金水準は老齢厚生年金の減額に配慮した水準とする場合が多いです。なお、高年齢者雇用安定法において、65歳までの雇用確保措置を講ずる義務があるので注意が必要です。

再雇用を実施している企業では、すべての定年退職者を再雇用するのではなく、再雇用を希望する退職者のうち、会社側が認める退職者に限って再雇用に応じているところが多いようです。その契約内容等については以下の通りです。

1.雇用契約

雇用契約については、期限の定めのある契約(いわゆる有期雇用契約)の形態で、契約期間を1年として、65歳になるまで、毎年、契約更新するケースが多いようです。
労働時間については、正社員に比べて1~2時間短くしたり、残業をさせないなど、正社員との違いを明確にしています。
また、呼称については「嘱託社員」や「契約社員」を用いているようです。

2.賃金水準

賃金水準については、業種によって異なりますが、製造業の場合では退職時の6割程度が平均的な水準になっています。
ただし、再雇用する退職者が年金を受給している場合には、給与をもらうことによって年金支給額が減額されるので、配慮が必要です。
「年金月額×0.8プラス月給額」が22万円以下の場合には、年金支給額が2割減額されます。
22万円を超える場合には、さらに削減されますので、その点を十分に説明しておく必要があるでしょう。

このことから、再雇用者から「年金の減額を最小限にしたい」という申し出があれば、会社としては、「年金額月額×0.8プラス月給額」が22万円を超えないように月給額を配慮した方がよいでしょう。
なお、これらの計算については、あくまで例であり、その再雇用者の年金加入期間等によって異なることがあります。

3.高年齢者雇用安定法

高年齢者雇用安定法において、平成18年4月より、高年齢者の65歳(経過措置がありますが、詳しくは都道府県労働局かハローワークまでお問い合せ下さい)までの安定した雇用の確保等を図るため、次のいずれかの措置を講じる必要があります。

  • (1)定年の引上げ
  • (2)継続雇用制度(勤務延長制度か再雇用制度)の導入
  • (3)定年の定めの廃止

再雇用制度を導入ということであれば、どのような社員を再雇用の対象とするかという再雇用の基準を策定しなくてはいけません。
これらの基準を策定するにあたっては、労使でよく協議することが必要で、労使協定により基準を定めることになっています。

Q16.派遣社員を活用する上での留意点を教えてください。

A16.

大手・中小問わずに派遣社員の活用が進んでいます。
その背景には、労働者派遣法の改正によって対象となる職種が拡大されたこともその傾向に拍車をかけているようです。

派遣社員を活用する際にはいくつかの留意点がありますので順にお答えいたします。

留意点1:指揮命令について

実は派遣社員と派遣先企業には雇用関係はありません。
雇用関係があるのは派遣元企業と派遣社員の間ということになります。
しかし、指揮命令権については派遣先企業にあるのが派遣契約の特徴です。
つまり適切な指揮命令を派遣社員に与え業務にあたらせなければならないということです。
ここが請負契約とは大きく異なります。
指揮命令権が派遣先企業にある以上、その指示に従って起きた損害等については派遣先企業の責任ということになります。

留意点2:派遣社員の仕事の内容について

契約社員に命じることができる仕事は、原則として契約で定めたものに限られます。
契約で定めた業務以外の仕事を命じることはできません。
ただし契約業務の付随的業務や周辺業務について必要な業務があるケースはあると思います。
そのような場合は世間一般の常識や発生頻度により判断することになります。
事前に派遣元会社と相談し、派遣社員の意思を尊重したうえでの合意が必要です。
派遣社員と派遣先企業のトラブルの大きな要因の一つが仕事内容が契約内容と違うということです。
付随業務などについてはしっかりと派遣社員に説明して理解を得ることがトラブル防止にもつながります。

留意点3:派遣契約の内容の変更について

派遣契約の内容を派遣先の企業が一方的に変更することはできません。
ただし、諸般の事情により勤務場所や就労日、就労時間などを変更する必要が生じたときは、出来るだけ早く派遣元会社と話し合い、派遣社員の合意を得たうえで契約内容を変更することができます。

三者間での合意が必要になるということがポイントになります。
例えば、数駅離れたところに事務所を移転させるといった場合に、各々の派遣社員に同意してもらわない限り新しい事務所に来させることはできないということになります。
実際に事務所の移転をきっかけに大量の派遣社員が辞めてしまったという事例もあります。
三点ほど留意点を挙げましたが、最後に派遣社員活用のメリットとデメリットについて整理してみたいと思います。

<メリット>

  • 人件費が抑えられる
  • 業績の変動によって柔軟に人員の増減ができる

<デメリット>

  • 人の出入りが激しくなる
  • 社内にノウハウがたまっていかない
  • それぞれ派遣社員の能力は実際に働いてみないと分からない
  • 社員と派遣社員の間でモチベーションの格差が生まれることがある

人件費の抑制や雇用調整といったメリットの部分に目がいきがちですが、デメリットの部分があることも忘れてはいけません。
特に人の出入りが激しくなると、職場内の一体感が醸成されにくくなり組織構成員のモチベーションが上がらなくなったり、セキュリティ上のリスクが高まったりすることが考えられます。
派遣社員の活用によって得られる経済的メリットと、人事上・組織上のデメリットを良く勘案して(またデメリットには対策を講じた上で)活用を決められると良いと思います。

参考「中小企業基盤整備機構」中小企業ビジネス支援サイト

Q17.時間外残業の割増率が50%になる基準を教えてください。

A17.

平成31年4月1日から、中小企業(※)における月60時間超の時間外労働への割増賃金率の適用猶予が廃止されます。

平成22年の労働基準法改正で1ヶ月あたり60時間を超える時間外労働に対して5割の割増率で計算した割増賃金を支払うことが決定されましたが、中小企業は当面の間割り増し率の適用が猶予されていました(労働基準法138条)。
平成26年8月ごろから猶予を見直しが検討されていましたが、平成31年の4月1日から割増賃金率の適用猶予の廃止が決定しました。

「労働基準法等の一部を改正する法律案要綱」の答申にて平成28年の4月から、健康確保のために時間外労働に対する指導が強化されると記載されました。
時間外労働に関する行政官庁の助言指導に当たり、「労働者の健康が確保されるよう特に配慮しなければならない」とされており、ますます社員の労働時間について配慮しなければならない状況となってきています。

また、36協定の特別条項の限度時間が「月100時間」に達した場合に行う労働基準法の立入調査が「月80時間」まで引き下げられることも決まりました。

※中小企業とは・・・

資本金の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5000万円、卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下である事業主、及びその常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下である事業主をいう

入社・退職・休職

Q01.新入社員を早く戦力化するために新卒者を4月1日前に、正式に入社させることはできますか。

A01.

新規学卒者とは、中学校、高等学校、専門学校、短期大学、大学( 大学院を含む)などを卒業し、企業に入社する者などをいいますが、これらの学校等によって、ご質問の扱いが異なりますので、以下にそのポイントについて見ることにしましょう。

①四大卒者の場合

卒業前に入社させても問題はないものと思われます。
もし、卒業前に入社させた学生が、卒業単位の一部が不足したため卒業できなかったような場合でも、入社後に単位の履修を保障するようにすれば、そのまま入社させて問題はないでしょう。

②専門学校・短大卒者の場合

基本的には四大卒と同様に考えてよいと思われますが、専門学校や短大の場合は、一般に、卒業直前まで授業が行われていることが多いので、入社日は卒業式の後にするべきでしょう。

③高等学校卒業予定者

入社日は、毎年厚生労働者の新旧中学校・高等学校卒業者の就職に係る推薦及び選考開始時期等並びに募集文書開始時期等についてという通知により決められております。
そのため、それ以前に正式な入社をさせてはいけません。

Q02.入社時の手続き書類として住民票を提出させるのには問題がありますか。

A02.

一般に、就業規則では入社時に提出させる書類として、身元保証書や年金手帳などが規定されていますが、住民票もその一つとして規定されていることが少なくありません。
入社時に住民票の提出を求めるのは、入社者の社会保険や労働保険への加入手続きや労働者名簿の作成などいくつかの手続きをする際に、公的機関が発行する書類で氏名や生年月日などを確認するためです。

就業規則で入社者に住民票を提出する旨定めているとのことですが、採用時に住民票の提出を求めること自体は法律的に問題はありませんが、行政解釈により、戸籍謄(抄)本及び住民票の写しについては、「画一的に提出又は提示を求めないようにし、それが必要となった時点(例えば、冠婚葬祭時に際して慶弔金等が支給されるような場合で、その事実の確認を要するとき等)で、その具体的必要性に応じ、本人に対し、その使用目的を十分に説明の上提示を求め、確認後速やかに本人に返却する」ことしています。

同時に、「これらに代えて住民基本台帳法第7条第1号(氏名)及び第2号(出生の年月日)の事項についての証明がなされている『住民票記載事項の証明書』を備えれば足りる」という行政解釈も示しています。

これらの行政解釈は、同和問題及び未成年者の雇用への配慮を端に発する 行政解釈であり、昨今の個人情報保護法の制定と相まって、今後は「住民票記載事項の証明書」の提出に切り換えるよう行政指導が行われていることが分かります。

『住民票記載事項の証明書』の場合には、住所地の市区町村役場または出張所に備えられている用紙で、氏名、生年月日、現住所等の最低限必要な事項を証明してもらうことができますし、最低限必要な事項のみの内容であれば、会社が任意に作成した用紙に証明してもらっても問題ありません。

したがって、今後の入社者からは「住民票記載事項の証明書」を提出させる、貴社の就業規則につきましても入社時の提出書類に関する定めについて改訂しておく事をお勧め致します。

Q03.入社時の提出書類として「住民票よりも住民票記載事項の証明書の方が望ましい」というのはなぜですか。

A03.

住民票には、請求者本人の氏名、性別、続柄、生年月日、現住所(転居したことがある人の場合には旧住所)等のほか、請求者の求めに応じて、本籍地や同一世帯に居住する家族等の情報も記載されます。このため、同和問題への配慮等から、入社時の提出書類等に関して、次のような行政通達が出されています。

即ち、「就業規則等において、一般的に、採用時、慶弔金等の支給時等に戸籍謄(抄)本、住民票の写し等の提出を求める旨を規定している事例があるが(中略)、これらについても、可能な限り『住民票記載事項の証明書』により処理すること」(昭50.2.17基発83号、婦発83号、平9.2.21基発105号)としています。

また、「戸籍謄(抄)本及び住民票の写しは、画一的に提出又は提示を求めないようにし、それが必要となった時点(例えば、冠婚葬祭等に際して慶弔金等が支給されるような場合で、その事実の確認を要するとき等)で、その具体的必要性に応じ、本人に対し、その使用目的を十分に説明の上提示を求め、確認後速やかに本人に返却するよう指導すること」(同通達)としており、採用後であれば、本籍についての記載を要求しなければ、住民票でも特段の問題はないと思われます。
なお、現在のところ、この件について法律で義務化されるかどうかは不明ですが、可能性はほとんどないと思われます。

なお、『住民票記載事項証明書』の場合には、住所地の市区町村役場または出張所に備えられている用紙で、氏名、生年月日、現住所等の最低限必要な事項を証明してもらうことができます。

また、最低限必要な事項のみの内容であれば、会社が任意に作成した用紙に証明してもらっても差し支えありません。

Q04.労働契約書等の書類、文書の保存期間は法律で定められているのでしょうか。

A04.

労働契約書は、労働者が退職した日から3年間保存するよう労働基準法で定められています。
会社で作成する重要書類には、法律で保存期間が定められています。

労働基準法は、労働関係の書類の保存期間について、
「使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければならない。」
と定めています。

そして起算日については、
「雇入、解雇又は退職に関する書類については、労働者の解雇、退職又は死亡の日」
と定めています。

労働契約書も、この労働基準法関連書類の一つですから、保存期間は労働者の退職の日から数えて3年です。
また、この法令にあるように、労働契約書のほか、労働者名簿、賃金台帳、タイムカード、時間外労働計算書、健康診断書等についても、3年間保存しなければなりません。

    労働基準法関連書類以外の主な書類の保存期間とその根拠法令

  • ▽ 健康保険、厚生年金保険関連書類 → 2年間(健康保険規則、厚生年金規則)
  • ▽ 雇用保険関連(雇用保険規則)
    雇用保険の被保険者に関する書類 → 4年間
    その他の書類 → 2年間
  • ▽ 労災保険関連書類 → 3年間(労災保険規則)
  • ▽ 労働保険の徴収・納付等の関連書類 → 3年間 (保険料の徴収等規則)
Q05.試用期間を定める場合、その期間の長さについて、労働基準法等に規制はあるでしょうか。

A05.

従業員を採用するにあたって、「試用期間」は必ず設けなければならないものではありませんが、本採用の前に一定の「試用期間」を設け、その間に従業員としての適格性を判断するのが通例となっており、「試用期間」を設ける場合には、就業規則等において、試用期間の長さ(その延長または短縮を含む)、試用期間中の解雇、本採用の手続き、試用期間の扱い(勤続年数への通算の有無)などについて定めておく必要があります。

1.試用期間とは

試用期間を設ける目的は、通常、入社前の審査だけでは新規採用者の適格性を十分に把握することができないため、一定期間の勤務状況などを観察することによって本採用とするかどうかを判断するための期間であり、一定事項を判断材料としながら正職員としての採用合否を判断し、不適格と判断された場合は本採用を拒否するものです。
しかし、いつでも拒否できるものでは無く、本採用拒否といえども労働契約の解除は解雇と同じですから、本採用の拒否には正当性を求められますが、裁判所は試用期間中の解雇は、本採用後の解雇より広い裁量権を認めています。

試用期間中に判断される事項は次のようなものがあります。

  • 勤務成績
  • 勤務態度
  • 健康状態
  • 出勤率
  • 協調性
  • 提出書類の不備

このような事項に問題があれば、本採用の拒否が正当と認められます。

2.本採用拒否時における留意点

前述致しました項目に不適格が認められます場合においては、本採用の拒否を正当に行う事ができます。
しかしながら、試用期間は教育や指導をする期間でもあるので、本採用の拒否を正当に行う場合においては、不適格事由及び試用期間中ついてどの様な教育・指導をしたかがポイントになります。
本人としても何も言われなければ本採用を期待し、その期待が裏切られるとトラブルに発展することも考えられますから、このような指導をしておくことによってより正当性が増します。
あわせて、トラブル回避の為にも、本採用拒否の一定事由について定めておく事が望ましいでしょう。

本採用拒否における、具体的事由については次のようなものがあります

  • 出勤率不良として、出勤率が90%に満たない場合や3回以上無断欠勤した場合
  • 勤務態度や接客態度が悪く、上司から注意を受けても改善されなかった場合
  • 協調性を欠く言動から、従業員としての不適格性がうかがえる場合
  • 経歴詐称

3.試用期間の長さの設定(原則)

労基法上では、最長1年間となっています。
しかし、民法90条の公序良俗違反となる可能性もありますので、一般的に試用期間は3ヶ月であり長くとも6ヶ月までとされています。

試用期間設定により、以下の事項についても整備しておく事が求められます。

  • 試用期間中における解雇の取り扱い
  • 本採用時における手続き
  • 試用期間の扱い(勤務年数通産の有無)

4.試用期間内における解雇

試用期間中の解雇でも、14日を超えて使用した場合は、通常の解雇と同じく、30日前の解雇予告か30日分の解雇予告手当てを支払わねばなりません。

5.試用期間中の社会保険の有無

試用期間中でも労災保険や雇用保険、社会保険(健康保険・厚生年金、適用事業所の場合)については、それぞれの加入基準を満たしていれば、本採用後ではなく最初の採用当初から加入しなければなりません。

  • Point: 試用期間中の採用取消しや試用期間終了時の正社員への登用拒否(いずれも解雇に当たる)は、通常の解雇より広く認められていますが、試用期間中における勤務状況など、解雇するだけの客観的かつ合理的な理由があることが必要です。
Q06.試用期間中の社員を不適格と判断する基準は、具体的にはどのようなものでしょうか。

A06.

試用期間中に採用を取消したり、試用期間満了時に正社員への登用拒否は、法律上は解雇に当たりますが、試用期間中は、一般に、通常の解雇より解雇権が広く認められています。

これは、試用期間を設ける目的は、通常、入社前の審査だけでは新規採用者の適格性を十分に把握することができないため、一定期間の勤務状況などを観察することによって本採用とするかどうかを判断するための期間であることから、その期間中に従業員として不適格と認めた場合には、労働契約を解約することができるという解約権留保付の特約がなされている期間と解されているためです。

しかし、試用期間中だからといって、使用者に無制限に解雇権が認められるものではありません。
裁判例でも、「客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認される場合」にのみ許される(昭和48.12.12最高裁大法廷判決「三菱樹脂事件」)としています。
この判例では、「企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用期間中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に相当であると認められる場合」に、解約権を行使できるものとしています。

このように、就業規則等で具体的な事由(基準)を定めていなければ試用期間中または試用期間満了時に解雇できないものではありませんが、トラブルを最小限に抑えるためには通常の解雇事由(基準)とは別に、「試用期間中の解雇」の条項を設けて具体的な解雇事由(基準)を定めておいたほうがよいでしょう。

  • Point: 試用期間中の採用取消しや試用期間終了時の正社員への登用拒否(いずれも解雇に当たる)は、通常の解雇より広く認められていますが、試用期間中における勤務状況など、解雇するだけの客観的かつ合理的な理由があることが必要です。
Q07.試用期間中と本採用で給与体系を区別することはできるのでしょうか。

A07.

使用者が賃金制度をどのように設定するかは法令に違反しない限り自由です。また、「試用期間中の者」と「正社員」という差異は労基法3条(均等待遇)でいうところの「社会的身分」にも該当しないため、試用期間中の賃金を本採用後の賃金と区別して設定することは問題ありません。

賃金設定の考え方

賃金制度をどのように設定するかは、法令に違反しない限り、使用者の自由とされています。

また、試用期間中は、一般的にその適性等を観察しているため、本採用後に正社員と同様の業務遂行ができる状況ではないと考えることができ、使用者も試用期間中の者に対して、本採用後の正社員と同様の成果等を求めているものではないと考えられます。

Q08.雇用契約書に定めた雇用開始日と実際の勤務開始日が異なる場合、入社日はいつにすればよいのでしょうか。

A08.

通常、雇用契約では、雇用開始日を明らかにして締結します。 しかし、実際には、ご質問のように、何らかの理由で雇用契約書に示した雇用開始日と実際の勤務開始日が異なることがあります。

しかし、雇用契約書で取り決めた雇用開始日と実際に勤務を開始する日が異なると、様々な不都合が生じます。
雇用保険や厚生年金保険は、取得日によっては給付を受けるために必要な期間が不足することもありますし、退職金や年次有給休暇など、入社日を起算日として継続勤務期間を計算する場合にも不都合が生じることがあります。

したがって、このような問題を統一的に処理するためには、雇用契約書で取り決めた雇用開始日と実際の勤務開始日を一致させておかなければなりません。
この場合、どちらに合わせるかは任意ですが、次の点に留意しなければなりません。

(1)実際に勤務を開始した日が雇用契約書の雇用開始日より遅れた場合

  • <雇用契約書の雇用開始日を入社日とする場合> この場合の留意点として、契約書に明示された日よりも遅れた日数分の給与を、無給とするのか有給とするのかを定めておく必要があります。
  • <実際の勤務開始日を入社日とする場合> この場合には、雇用契約書の雇用開始日を実際の勤務開始日に合わせて訂正し、その日を雇用開始日とします。

(2)実際に出勤した日が雇用契約書に明示された日より早まった場合

  • <雇用契約書の雇用開始日を入社日とする場合> この場合には、雇用契約書の雇用開始日以前の実際に勤務した期間については、アルバイト扱いとし、労働者名簿の「雇入年月日」の欄には、雇用開始の日を記入します。
  • <実際の勤務開始日を入社日とする場合> この場合には、雇用契約書の入社日を実際の勤務開始日に訂正し、入社日にします。
Q09.新卒者に内定をした後、会社の業績不振の理由から、その取消しはできますか。

A09.

「採用内定当時、知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる。」という判例事例があります。

内定取消しが認められる場合

つまり内定取消しができる場合には採用内定者が信頼を失うような非行行為をした場合や就業規則の解雇事由に該当したときなど一定の要件が必要です。
会社の業績悪化を理由にすることは、経済事情の著しい変化が生じた為にやむを得ないときに限り、不当解雇には該当しないことになります。

ただし、内定取消しはいったん成立した労働契約の解約になるため、不当解雇にあたるとして損害賠償を求めてくるケースがあります。
その場合には、解雇予告手当分(1ケ月分の給与)の慰謝料を支払うことが必要になってくると考えられます。

判 例  インフォミックス事件 1997年10月31日 東京地

始期付解約留保権付労働契約における留保解約権の行使(採用内定取消)は、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である(最高裁昭和五四年七月二〇日第二小法廷判決・民集三三巻五号五八二頁参照。)。そして、採用内定者は、現実には就労していないものの、当該労働契約に拘束され、他に就職することができない地位に置かれているのであるから、企業が経営の悪化等を理由に留保解約権の行使(採用内定取消)をする場合には、いわゆる整理解雇の有効性の判断に関する四要素を総合考慮のうえ、解約留保権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することができるかどうかを判断すべきである。

Q10.約20日間無断欠勤していた社員を解雇することはできますか。

A10.

2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合には、解雇予告なしに即時解雇することができますので、正当な理由がない限り、即時解雇できます。

労働基準法では、労働者の責めに帰すべき事由によるときは、解雇手続(30日前に予告するか、平均賃金の30日分を支払うこと)を経ずに解雇できることとしています。
また、行政解釈では、即時解雇のために必要な「解雇予告除外認定」の許可基準の一つとして「2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない」ことをあげており、労働基準監督署長から解雇予告除外認定を受けた場合には、解雇予告の手続きを経ず即時解雇することができることとしています。

約20日間無断欠勤していた社員を解雇することはできますか

無断欠勤が継続し、そのまま連絡不能及び行方不明となる場合につきましても、「2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない」状態であるならば、労働基準監督署長から解雇予告除外認定を受けた場合には、解雇予告の手続きを経ず即時解雇することができます。
しかし、この様な場合におきましては、解雇の意思表示を本人に通達する事ができません。
その為、この様な事例が発生致しました場合におきましては、民事訴訟法で定められている「公示送達」の方法により本人に解雇の意思表示をすることになります。
また、就業規則の退職に関する定めの中に、例えば「本人が行方不明となって30日を経過した場合は、退職とする」などのように、退職のみなし規定を設けている場合には、その規定を適用して退職とすることができます。

「公示送達」とは

相手方の住所等がわからないため意思表示ができない場合に、一定の手続きを行うことで、相手方に意思表示をしたものとみなすという法的手続きです。この手続き、相手方の最後の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立て、裁判所の掲示板に掲示するほか、官報および新聞に少なくとも1回掲載するなどによって行います。
この場合、最後に官報もしくは新聞に掲載された日から2週間を経過したときに、相手方にその意思表示が到達したものとみなされます。

【参考】解雇事由

除外認定の基準は通達(昭和23・11・11基発1637号)で示されています。

「労働者の責めに帰すべき事由として認定すべき事例を挙げれば、

  • 原則として極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取横領、障害等の刑法犯に該当する行為のあった場合
  • 賭博、風紀素乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合
  • 雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合
  • 他の事業へ転職した場合
  • 原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
  • 出勤不良又は出欠常ならず、数回にわたって注意を受けても改めない場合の如くであるが、必ずしも上の個々の例示に拘泥することなく、総合的かつ実質的に判断すること」

例示事項以外でも、業務命令不服従、人事発令拒否、会社の誹謗中傷など、他にも裁判で認められた解雇事由はあります。

Q11.窃盗罪で現行犯逮捕された者を懲戒解雇してもよいでしょうか。

A11.

窃盗罪は、著しく反道徳的、反社会的行為であり、解雇理由としては問題ありません。したがって、懲戒解雇をしても差し支えありません。なお、即時解雇するためには「解雇予告除外認定」を受ける必要があります。

懲戒解雇は、労働者が企業内秩序を乱したときに、企業から一方的に排除する処分ですが、懲戒事由となる非行が、ご質問のように、労働者の私生活上の行為である場合に、懲戒権の行使に制約が課せられるかどうかが問題となります。

つまり、窃盗罪で現行犯逮捕されたような場合、その非行は明らかですが、果たして懲戒解雇の対象事由である「企業内の秩序を乱す行為」に該当するかどうかが問題となります。
この点については、私生活上の行為であっても、その行為がもたらす企業の名誉や信用の失墜、他の労働者への悪影響などを考慮に入れれば、懲戒処分の対象となり得ると判断できます。

以上の理由から、私生活の領域でなされた行為ではあっても、窃盗罪という犯罪行為については、一切の情状の余地はなく、労働者保護の必要もないものと考えられ、懲戒解雇処分をしても何ら問題がないものと解されます。

なお、解雇予告なしに即時解雇するためには、労働基準監督署長に「解雇予告除外認定」を申請し、許可を受ける必要があります。

●解雇予告除外認定について

1 解雇予告除外認定

使用者は、労働者を即時に解雇しようとする場合には、解雇する前にその事由について行政官庁(労働基準監督署長)の認定を受けなければなりません。
この認定を受けずに、解雇予告又は解雇予告手当の支払いなくして解雇した場合は、労基法違反となり処罰(6箇月以下の懲役または、30万円以下の罰金)の対象となります(労基法第119条第1項)。

2 解雇予告除外事由

解雇予告の除外事由として、労基法第20条第1項ただし書では、以下の2つの場合を規定しています。

(1)天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合

「やむを得ない事由」とは、「事業場が火災により焼失した場合(ただし、事業主の故意又は重大な過失に基づく場合を除く)など事業の経営者として、社会通念上採るべき必要な措置をもってしても通常如何ともなし難いような状況にある場合」をいいます。
「事業の継続が不可能になる」とは、事業の全部又は大部分の継続が不可能になった場合をいいますが、「一時的に操業中止のやむなきに至ったが、事業の現 況、資材、資金の見通し等から全労働者を解雇する必要に迫られず、近く再開復旧の見込みが明らかであるような場合」は含まれません。(昭和63.3.14 基発第150号)

(2)労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合

労働者の責に帰すべき事由」とは、予告期間を置かずに即時に解雇されてもやむを得ないと認められるほどに重大な服務規律違反又は背信行為をした場合をいいます。

3 補足

解雇予告除外認定を受けることにより、予告することなく即時に解雇できることになります。
しかし、認定があったからといって必ずしもその解雇が有効であるとは限りません。
裁判となった場合には、その認定に拘束されずに独自に判断されることになります。
なお、明らかに解雇予告除外事由に該当する場合であっても、認定を受けず解雇予告の手続をとって解雇することも可能です。

Q12.業務時間中に顧客に対して宗教の入信勧誘をする社員を解雇することができますか。

A12.

思想、信条あるいは信仰自体は、憲法が保障する基本的人権に属することがらですので、それを理由に解雇することはできませんが、業務中の入信勧誘によって、企業秩序や取引先との信頼関係を破壊し、再三の警告にもかかわらず改善が見られないようでしたら、懲戒解雇処分にしても問題ないでしょう。

ご質問のケースでは、憲法で保障する「信仰の自由」と取引先等に対する入信勧誘行為による「企業秩序の破壊が問題」になりますが、ご質問では、業務上接する取引先や顧客に対して「入信勧誘」をし、顧客等から現実にクレームが寄せられているとのことです。

このような場合は、明らかに上記の「信仰の自由」を逸脱しており、企業秩序を破壊する行為であるということができます。
しかも、再三の注意や軽度の懲戒処分を行ったにもかかわらず一向にやめる気配がないのであれば、懲戒解雇処分に付しても差し支えないものと考えられます。

この点について、裁判例でも、「長期間にわたり反復継続された多数の非違行為を全体として評価すれば、企業秩序違反の程度は極めて重大かつ悪質で、これを理由とする懲戒解雇は有効である」と、比較的軽度の服務違反が繰り返し行われた場合に、懲戒解雇処分を有効としたものがあります。

ご質問の場合の入信勧誘は、企業秩序を破壊する非違行為であることが明らかであり、現実に障害も起きています。
しかも、再三、注意しても改善されないことを考慮すれば、懲戒解雇処分に付しても問題はないと思われます。

Q13.面接時に、既往症を告知しなかった従業員を解雇することはできますか。

A13.

病気の発作があったことだけを理由に解雇するのは、解雇理由としては合理性に欠けると思われますが、それによって業務に支障があるときは、告知義務違反または業務に耐えられないことを理由として、解雇することが可能です。

多くの裁判例では、経歴詐称が懲戒事由になることを認めたうえで、詐称された経歴が「重要なもの」であることを要するとしています。
そして、「重要なもの」であるか否かの判断においては、企業の業務や秩序維持に重大な影響を与えたか否かが重視されています。

●経歴詐称による懲戒

2つの視点によって解釈されます。

  • 客観的合理性:使用者が労働者の採用に当たって適合性や労働力の審査のために学歴・職歴・犯罪暦等その労働力のために告知を求めるのは適法であり、労働者は信義則上その事実を告知する義務があります。
    したがって労働者が虚偽の告知や事実を隠匿したことにより、採否の決定に影響を与えたり、入社後の処遇について使用者の判断を誤らせたような場合は懲戒処分の対象として肯定される傾向にあります。
  • 社会的相当性:経歴詐称について、採用面接時に使用者がどの程度注目していたか、詐称がどの程度業務に影響を及ぼしたか、詐称の程度が悪質か否か、その処分の程度が妥当かどうか判断されます。

●信義則

裁判例は、労働契約が相互の信頼関係を基礎におく継続的な契約関係であることを根拠として、使用者から労働能力の評価に影響を与える事項(犯罪歴も含まれることがあります)について告知を求められた労働者は、原則としてこれに正確に応答すべき信義則上の義務があるとしています。
しかし他方で、犯罪者の更生には労働の機会を確保することが必要であることから、既に刑の消滅を来した前科については、特段の事情のない限り、それを告知すべき信義則上の義務はないとしています。
これは、既に消滅した犯罪歴についてまで告知すべき義務があるとすると、真の更生を目指す労働者にとっての不当な制約となり、刑の消滅制度(刑法34条の2)の趣旨を失わせてしまうと考えられるからです。

病気については、雇入れの際の一つの判断材料となりうるものですから、一般的には、その詐称がなかったならば採用しなかったような重大な病気の告知をしなかった場合には、そのことを理由に解雇することは可能と思われます。
次に、本人の病気の状態が「業務にたえられない程度の病状」なのかどうかが問題となります。
業務を行うことができるような病状であれば、解雇理由としては合理性に欠きますので、配置転換することを含めて、ご本人とよく話し合ってみることをお勧めします。

Q14.業績悪化のため、全従業員を一度解雇し、新たに希望者のみを再雇用することができますか。

A14.

単に「業績悪化」という理由だけで全社員を解雇することはできません。さらに、いったん解雇した後に再雇用するというのは、労働条件を引き下げることだけを目的としたものと考えられ、合理的な理由があるとは認められませんので、不当な解雇として無効とされます。

解雇とは、使用者の一方的な意思表示によって労働契約を終了させることをいいますが、これは使用者の恣意によって行うことは許されず、一般に、合理的な理由のない解雇は、解雇権の濫用として無効とされます。
実際、企業の多くは、経営危機に陥ったからといって、ただちに解雇という方法をとらず、希望退職や退職勧奨などの雇用調整策を講じた後に、最後の手段として解雇が行われています。

まして、全員解雇後に安い給料で再雇用するというのでは、解雇が目的ではなく、賃金切り下げだけが目的とみなされますので、何ら合理性を見ることもできず、典型的な不当解雇のパターンといわざるを得ません。

企業経営上の理由による解雇の場合には、まず、

  • (1)人員削減の必要性が存在していること
  • (2)整理解雇に至る前段として解雇を回避するための措置を講じていること(例:新規採用中止、時間外労働削減、配転・出向、役員報酬の削減、希望退職者の募集等)
  • (3)解雇対象者の人選に当たっては合理性のある基準を定め、公正・公平に選出していること
  • (4)労働組合や労働者側に対する十分な説明、誠実な交渉をしていること

また、再雇用の際にも基準を明確にするとともに、労働者側との話し合いが必要となります。

Q15.懲戒解雇をする場合には、必ず解雇予告除外認定を受けなければならないのですか。

A15.

解雇予告除外認定を受けなくても、30日以上前に解雇の予告をするか、解雇予告手当を支払えば懲戒解雇することができます。

懲戒解雇とは

労働者が重大な服務規律違反や犯罪行為などにより、企業秩序を乱した場合に秩序罰として行う解雇をいい、労働者の責めに帰すべき事由による解雇のことをいいます。

労働基準法では、労働者を解雇する場合には、少なくとも30日前に予告するか平均賃金の30日分の予告手当を支払わなければならないとしていますが、解雇予告除外認定を受けたときは、解雇予告も予告手当も必要とせず、即時解雇することができることとしています。

解雇予告除外認定とは

  • (1)天災事変その他やむを得ない事由のために、事業の継続が不可能となった場合
  • (2)労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合に、労働基準監督署長から受ける認定のことをいいます。

解雇予告除外認定を行う具体的な手続きとしては、まず当該所轄労働基準監督署の所定の申請書(各労働基準監督署HPからもダウンロード可)に必要事項を明記し、申請を行います。
その後、労働基準監督署長から認定が降りると解雇となります。ただし以下の労働者はこの手続きや解雇予告は必要としません。

解雇予告及び解雇予告除外認定を除外される労働

  • 日々雇い入れられる者
  • 2ヵ月以内の期間を定めて使用される者
  • 季節的業務に4ヵ月以内の期間を定めて使用される者
  • 試用期間中の者(14日以上勤務があると通常の解雇手続き必要)
Q16.退職社員の再就職先から、当社の退職理由について照会がありました。
照会に応じることは問題ないですか。

A16.

退職理由の照会は、電話や書面で行われることが多いと思われますが、実際には照会者の使途がはっきりしていないことも多く、照会に応じることによって、就業を妨げるケ-スがあること、また、退職理由を第三者に知らせることは、本人のプライバシ-の侵害になる恐れもありますので、会社間における退職理由の照会は、なるべく避けたほうがよろしいでしょう。

個人情報保護の観点からも募集企業側及び照会を受けた企業側それぞれ留意しなければなりません。

1.募集企業側

前職でいかなる職務についていたか、あるいは退職理由などは採用選考の過程において募集企業の調査の必要が肯定できますので、調査の事由の範囲に含まれると考えられます。
原則は本人からの直接収集を原則とします。(職業安定法第5条の4)
その方法としては、労働基準法の退職時証明を応募者に提出してもらうことが考えられます。(この場合、採用者本人が請求した内容のみが退職時証明に記載されます)

2.照会を受けた企業側

前職照会に応じ、退職者の個人データを募集企業に提供することは、第三者提供に該当するため、原則として本人同意が必要です。

最も適切な方法としては、直接答えるのではなく、相手の会社に対し、本人に退職証明書を提出させるよう勧めることです。

特別な事情で前の職場に問い合わせる必要がある場合には、本人から前の職場に使用証明書の交付を依頼し、その証明書の提出を求めるようにします。
「退職証明書」は、前の職場における情報を本人を通して公式に請求するもので、労働基準法では、本人から請求があった場合には、前職の会社は、使用期間、業務の種類、地位、賃金又は退職の事由(退職の理由が解雇の場合にあっては、その理由も含む)の5項目について退職証明書を交付しなければならないものと定めています。
逆にいうと、この5項目以外の事項については、本人の請求があっても拒むことができます。

Q17.解雇する者の退職証明書を作成するにあたり、退職証明書に記載すべき事項、書き方を教えてください。

A17.

解雇の場合には、解雇の具体的な理由を記載する必要があります。

平成11年4月1日に改正された労働基準法第22条第1項は、「労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない」としています。

このように、平成11年の法改正によって、それまでの「使用証明」から「退職時の証明」に変更され、その必要記載事項に「退職の事由」が追加されました。
特に、解雇の場合には、具体的に解雇の理由を記載する必要があります。
例えば、就業規則の一定の条項に該当することを理由として解雇した場合には、その条項の内容とその条項に該当するに至った具体的内容を記載することになります。

なお、この退職証明には、「労働者の請求しない事項を記載してはならない」こととされています。
また、行政解釈では「解雇された労働者が解雇された事実のみについて使用者に証明書を請求した場合には、解雇の理由を証明書に記載してはならず、解雇の事実のみを証明書に記載する義務があります」とされていますので、注意が必要です。

退職事由一覧 (参考:厚生労働省HP)

  • あなたの自己都合による退職 (②を除く。)
  • 当社の勧奨による退職
  • 定年による退職
  • 契約期間の満了による退職
  • 移籍出向による退職
  • その他(具体的には         )による退職
  • 解雇
  • 天災その他やむを得ない理由によって当社の事業の継続が不可能になったことによる解雇
  • 事業縮小等当社の都合による解雇
  • 職務命令に対する重大な違反行為による解雇
  • 業務について不正な行為による解雇
  • 相当長期間にわたる無断欠勤をしたこと等勤務不良であることによる解雇
  • その他
Q18.退職予定日に翌日まで残業をしたときは、退職日はその翌日となるのでしょうか。

A18.

労働基準法で、1日とは、原則として「午前0時から午後12時までのいわゆる暦日」をいうこととしています。したがって、原則的には、退職予定日の午後12時に退職が成立することになります。

ただし、「継続勤務が2暦日にわたる場合には、たとえ暦日を異にする場合でも一勤務として取扱い、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の『1日』の労働」とすることとされていますので、退職予定日の勤務が継続して翌日に及んだ場合にも、退職予定日に退職したものとして取り扱います。

ご質問のケースで考えますと、事務引き継ぎのため退社時間が、当初の退職予定日の午後12時を超えてしまった場合にも、その勤務は、給与締切日である末日の勤務から継続していると考えられますので、退職予定日に24時間継続勤務し、退社時刻が翌6月1日に及んだ場合にも、始業時刻の属する5月末日の勤務の延長として扱われ、当初の予定退職日である5月末日に退職したものとみなされます。

この場合、退職日の終業の時刻以降の勤務時間については、時間外労働割増賃金に加え、午後10時以降の時間については深夜労働割増賃金の支払いが必要なことはいうまでもありません。

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  • Point: 継続勤務であれば、退職時刻が翌日となっても、始業時刻の属する日の労働と扱い、給与締切日が退職日となります。
Q19.定年間際に労災に遭った場合、定年退職としてそのまま退職させても問題はないでしょうか。

A19.

就業規則等で定年制が規定されており、それが慣行となっていれば、定年を延長する必要はありません。

労働基準法では、業務上の災害による傷病の期間中とその後30日間は、解雇することを禁止しています。
しかし、ここで制限しているのは、あくまでも解雇のことですので、労働契約上(就業規則上)の雇用契約期間満了による定年退職の場合は、ここでいう解雇制限には該当しません。

しかし、就業規則等に「従業員が満65歳に達したときは定年により退職する。ただし、本人が希望し、会社がそれを認めた場合には、継続して雇用することができる」等の定めがあり、実際に会社の都合や労働者の希望がある場合に勤務延長したり、嘱託等として再雇用する慣行がある場合には事情が異なります。

このような場合には、定年の延長あるいは再雇用等の可能性に労働者も期待を持つことになるからです。
このような規定がある場合には、労働基準法上の解雇制限の問題が生じ、業務上の傷病による休業期間中及びその後の30日間は解雇することができません。
したがって、当該傷病による休業期間が終了し、その後30日を経過するまでの期間、退職日(定年)を延長することが必要となります。

退職後の労災

労働者が業務上の事由により負傷または疾病を被った場合には、災害の性質や、負傷または疾病の程度によっては相当長期間 療養しなければならないこともあります。このような場合、当然考えられるのがご質問のような労働者の退職という問題です。労災保険給付が、雇用関係の存在している期間中についてのみ補償され、退職等の理由により雇用関係がなくなった場合は補償されないということになると被災労働者の被った損害の一部しかてん補されないことになります。

しかしながら、この保険給付を受ける権利を雇用関係の存在する期間 のみ限定することは、休業補償給付が賃金損失に対する補償であるという点からして、不合理なものといえます。なぜなら、負傷していなければ、定年により被災した事業場を退職し、当該事業場から賃金を受けないとしても、他の事業場に再就職し、賃金を得ることもできるからです。以上のように、業務上の事故に対する補償は雇用関係の存続とは別に考えられることになります。

このことは、労働基準法第83条及び労災保険法第12条の5で『補償を受ける権利は、労働者 の退職によって変更されることはない』と規定されています。ご質問のように、たとえ、退職の理由により使用者との間に雇用関係がなくなったとしても、支給事由が存在する限り保険給付を受けることができます。

Q20.拒否権付き希望退職制度の実施について、もし何か問題点があれば教えてください。

A20.

拒否権付き希望退職制度の実施は、法的には問題ありません。ただし、申し出を認めないことがあること、申し出を却下した者に対して会社はなんら不利益な取扱いをしないこと、その他所定の事項をあらかじめ明示しておく必要があります。

希望退職制度

希望退職制度とは、業績が悪化した企業が人員削減のために 一定の期間限定して行うものです。この制度と似ている早期退職優遇制度は、企業側の事情よりもむしろ労働者個人として職業に関する生涯計画の選択肢の一つ として利用されるもので期間は限定しません。
この二つの制度は、あくまで労働者の意思によるもので、会社側からの退職勧奨とか整理解雇とはまったく異なることです。
退職勧奨なり整理解雇をする場合には、労働基準法第一九条から同二一条に定める解雇手続が必要となります。

退職勧奨と整理解雇

退職勧奨は、企業経営の悪化を背景に使用者が労働者に対して合意解約を行うことで、あくまで労働 者の任意の意思を尊重する必要があります。
行き過ぎた退職勧奨は解雇に該当し、場合によっては損害賠償の対象になります。
また退職勧奨をする場合は勧奨者数、優遇措置の有無、勧奨の回数・期間、本人の拒否の態度などを総合的に考慮し、労働者の自由な意思決定が妨げられていないかどうかを判断します。

割増退職金の活用

希望退職制度を実施する場合は、その目的、応募条件(年齢・勤続年数・職種など)、期限、人数などを公表します。公表は主に通達、掲示板、メールを利用して行います。
希望退職制度は割増退職金がポイントで、退職金の加算割合により利用状況が左右されます。
加算割合が高ければ利用者が増加しますが、退職金支払コストが増し人材流出の懸念もあります。逆に加算割合が低いと利用者が少なく、制度の存在意義が薄れます。退職金の加算割合をどのレベルにするかが制度運営上のカギとなります。

留意点としては、あらゆるコスト削減の実施、例えば役員報酬のカット、諸経費の削減など、いろいろやりつくした後に希望退職を募ることです。
つまり、なぜ希望退職制度を採用するのかを明確にします。
そのうえで人数、対象者の年齢、職種などを決めます。
また優遇措置の有無も整理する必要があり、退職金の扱いをどうするのか、自己都合なのか会社都合なのか、退職金の割増加算をするのか、その場合の加算はいくらにするのか、再就職の支援、技能習得支援を設定するのか等について検討する必要があります。

社会保険

Q01.賞与の社会保険料の納付について教えてください。

A01.

年金事務所または健康保険組合に標準賞与額を申告すると(『健康保険・厚生年金保険 被保険者賞与支払届』と『健康保険・厚生年金保険 被保険者賞与支払届 総括表』を提出すると)、翌月中旬に賞与の社会保険料が合算された『保険料納入告知額・領収済通知書』が送付されます。

また、同時に事業所が指定している金融機関には『納入告知書』が送付されます。
『保険料納入告知額・領収済額通知書』に記載されている金額を確認し、事業所が指定している金融機関に社会保険料を納付します。末日には社会保険料が自動的に引き落とされます。

納付期限

『保険料納入告知額・領収済額通知書』が送付された月の末日(標準賞与額を申告した月の翌月末日)
※納付期限が土日祝日の場合は、土日祝日明けまで

納付先

事業所指定の金融機関

納付後

翌月中旬に年金事務所または健康保険組合から、社会保険料を口座振替により受領した旨が記載された『保険料納入告知額・領収済額通知書』が送付されます。

ポイント

事業所が社会保険料を納付する金融機関を指定していない場合は、事業所に『納入告知書』が直接送付されます。『納入告知書』を基に、最寄りの金融機関、年金事務所または健康保険組合で社会保険料を納入してください。

Q02.社員を別会社に一部出向させる場合の通勤費は、社会保険料の算定に含めるべきですか。

A02.

ご質問の場合、通勤手当及び日当は、ともに社会保険の報酬に該当します。
したがって、社会保険料算定の際には、これらを含めて計算しなければなりません。

また、出向に対して支給される日当の取扱いですが、この場合の日当は、出向に対して支払われる恒常的な手当と考えられますので、明らかに賃金に該当し、社会保険の標準報酬算定の際の報酬に含める必要があります。
遠隔地への出張日当のような諸経費の補てんという意味で臨時的に支給されるものとは区別しなければなりません。
なお、出向によって新たに通勤費と日当が支給されることになった場合は、固定的賃金の変動に該当しますので、その額によっては随時改定の対象となります。

日当の取り扱い
Q03.海外出向者の社会保険は、出向先と出向元のどちらで適用されるのでしょうか。

A03.

出向者の人事労務管理と賃金の支払いを出向元である貴社が行う場合には、健康保険と厚生年金保険及び雇用保険の被保険者資格は継続されますが、労災保険については、海外派遣者特別加入制度(※)に加入する必要があります。

もし、海外出向者の人事労務関係が出向先で行われ、賃金の大半が、出向先企業から支給される場合には、貴社との雇用関係はないものとみなされ、貴社で取得した被保険者資格を継続することはできません。

したがって、この場合には、我が国の健康保険に代わるものとして、公的な医療保険制度が実施されている国では、現地の会社でその公的保険に加入し、ない国では、日本の海外傷害保険に加入するようにします。
なお、厚生年金保険については、被保険者資格は継続されませんので、年金の空白期間をつくらないためには、国民年金の任意加入制度(国民年金法附則第5条参照)を利用することになります。

外国の出向先で給与を支払っている場合
  • 出向先の健康保険加入
  • 国民年金任意加入
  • 出向先の労災保険加入
  • 出向先の失業保管加入
日本の出向先で給与を支払っている場合
  • 健康保険
  • 厚生年金保険
  • 労災保険特別加入
  • 雇用保険

1.海外派遣者として特別加入することができる範囲

  • 独立行政法人国際協力機構等開発途上地域に対する技術協力の実施の事業(有期事業を除きます。)を行う団体から派遣されて、開発途上地域で行われている事業に従事する方
  • 日本国内で行われる事業(有期事業を除きます。)から派遣されて、海外支店、工場、現場、現地法人、海外の提携先企業等海外で行われる事業に従事する労働者
  • 日本国内で行われる事業(有期事業を除きます。)から派遣されて、海外にある次の表に定める数以下の労働者を常時使用する事業に従事する事業主及びその他労働者以外の方
    業種 労働者数
    • 金融業
    • 保険業
    • 不動産業
    • 小売業
    50人
    • サービス業
    • 卸売業
    100人
    • 上記以外の業種
    300人
  • 派遣される事業の規模の判断については、海外の各国ごとに、かつ、企業を単位として判断します。
    例えば、日本に本社があって海外に事業場を持つ企業の場合には、日本国内の労働者も含めると総数では上表の規模を超える場合であっても、派遣先のそれぞれの国ごとの事業場において上表の規模以内であれば特別加入することができます。

2.新たに特別加入を申請する場合の手続き

派遣元の団体または事業主が、日本国内において実施している事業(有期事業を除きます。)について、労災保険の保険関係が成立していることが必要です。なお、派遣先の事業については、有期事業も含まれます。海外派遣者の派遣の形態(転勤、在籍出向、移籍出向等)や派遣先での職種、あるいは派遣先事業場の形態、組織等については問いません。

  • 派遣元の団体または事業主は、所轄の労働基準監督署長(以下「署長」といいます。)を経由して都道府県労働局長(以下「局長」といいます。)に対して「特別加入申請書(以下「申請書」といいます。)」を提出します。
  • 海外派遣者の特別加入の加入申請を行う場合には、派遣元の団体または事業主がその事業から派遣する方で特別加入させるものをまとめて行います。
  • 新たに派遣される方に限らず、既に海外の事業に派遣されている方についても特別加入することができますが、現地採用の方は、国内の事業からの派遣ではないことから特別加入することはできません。また、単なる留学を目的とした派遣についても、海外において事業に従事するものと認められないことから特別加入することはできません。
  • 特別加入の申請を行う際には、作業の具体的な内容及び希望する給付基礎日額等を申請書に記入し、署長を経由して局長の承認を得るという手続きが必要となります。
  • 海外派遣特別加入者の具体的な範囲は、申請書の名簿により確定されることとなりますが、この名簿の「業務の内容」欄については、実際に災害が起こった場合に、業務上外の判断をする上で重要な事項であり、また、派遣予定期間は特別加入者としての身分を有している期間を確定するために必要な事項ですので正確に記載してください。
  • 特別加入の申請に対する局長の承認は、当該申請の日の翌日から起算して14日の範囲内において特別加入を申請する方が加入を希望する日となります。
  • 海外派遣者の特別加入の場合、他の特別加入の場合と異なり、当該労働者が実際に海外へ赴く前に承認されることが多いことから、名簿登載者が現実に派遣先の事業に従事することとなった時点で「海外派遣に関する報告書」を遅滞なく、1名につき1部を署長を経由して局長に提出することが必要です。
Q04.パートタイマーや契約社員にも社会保険を適用しなければなりませんか。

A04.

パートタイマーや契約社員、嘱託社員は常用的使用関係にあるものを被保険者とします。具体的には、1日または1週の所定労働時間及び1ヵ月の所定労働日数が同じ事業所において同じ仕事をしている通常の労働者の概ね4分の3以上であれば、原則として被保険者とします。

なお、それ以外のものでも就労の形態等、個々の具体的事例に則被保険者として取り扱うのが適当なものは、被保険者となります。
健康保険と年金の適用関係は次の通りです。

資格要件 1日または1週の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上 所定労働時間・日数が通常の労働者の4分の3未満であって、年収が130万円未満 所定労働時間・日数が通常の労働者の4分の3未満であって、年収が130万円以上
健康保険 健康保険の被保険者 健康保険の被扶養者 国民健康保険の被保険者
年金 厚生年金の被保険者(国民年金の第2号被保険者) 厚生年金の被保険者の被扶養配偶者(国民年金の第3号被保険者) 国民年金の第1号被保険者
Q05.外国人従業員の社会保険の取り扱いは、どのようにすればよいのですか。

A05.

外国人を雇用する場合でも、原則として日本人と同じように社会保険をかけなければなりません。 ただ、雇用保険については、永住者・日系2世・日本人の配偶者等とそれ以外の人に区分して異なる取り扱いをしています。

まず、健康保険と厚生年金保険については、外国人従業員も原則として、日本人と同じ取り扱いになります。
したがって、健康保険や厚生年金保険の適用事業所が外国人労働者を雇用する場合には、加入させなければなりません。
また、労災保険は、国内の強制適用事業所で働く労働者には、国籍にかかわらず適用されますので、会社としては外国人職員に支払う賃金を含めて賃金総額を算出し、それに基づいた労災保険料を、申告・納付することが必要です。

雇用保険については、たとえ外国人従業員が失業しても、国内での求職活動や就労の範囲、期間が限られており、とりわけ雇用期間が短い場合には、受給資格を得ても失業給付を受けられませんので、原則として被保険者にはなりません。
そのため労働保険料の算出にあたっては、外国人従業員の雇用保険についての保険料は、申告・納付をする必要はありません。

ただし、雇用保険については、永住者、日系2世や日本人の配偶者などは、加入要件を満たせば被保険者になりますので、この限りではありません。

日本人と同じ扱いをするもの 健康保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険のうち永住者等
日本人と違う扱いをするもの 雇用保険(永住者、日系2世、日本人の配偶者等を除く)
Q06.定年退職した社員を再雇用する場合、社会保険の扱いで注意することがあれば教えてください。

A06.

年金を受け取る権利のある60歳から64歳までの方が退職後継続再雇用された場合、 再雇用された月から、再雇用後の給与に応じた標準月額に決定できることになりました。
(平成22年9月1日施行)

  • 従来、厚生年金保険に加入している方が退職後継続再雇用され、これに伴い給与が 著しく変動した場合でも、原則として、引き続いて厚生年金保険に加入するものであることから、4ヶ月目に標準報酬月額の随時改定を行っていました。
  • ただし、60歳から64歳までの年金を受け取る権利のある方が定年により継続再雇用された場合に限っては、事業主との使用関係がいったん中断したものとみなし、被保険者資格喪失届及び取得届を同時にご提出いただき、再雇用された月から、再雇用後の給与に応じて標準報酬月額を決定していました。
  • この度、高齢者の継続雇用をさらに支援していくため、この取扱いの対象を、定年の場合だけではなく、60歳から64歳までの年金を受け取る権利のある方が退職後継続再雇用される全てのケースに拡大することとしました。
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Q07.育児休業中の社会保険料の免除について教えてください。

A07.

育児休業中の被保険者が申し出た場合に、女性の場合は産後57日目から、男性の場合は子供が出生後、育児休業を開始した日から、健康保険料及び厚生年金保険料が免除になります。

なお免除された期間についても社会保険料を支払ったものとみなされるため、将来受け取る年金の金額が減額されこともありません。

免除期間は、育児休業等を開始した日の属する月から育児休業等が終了する日の翌日の属する前月までです。
また、標準賞与額についても同様に免除の対象となります。
なお、控除された期間も引き続き被保険者ですから、給与請求などの権利は従来と変わりません。

保険料の免除を希望する場合は、「育児休業保険料免除申出書」を事業主経由で、保険者に提出します。

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Q08.給与計算担当者のための給与計算の基本について教えてください。

A08.

毎月中旬に年金事務所または健康保険組合から、前々月分の社会保険料を口座振替により受領したという旨と、前月分の社会保険料を口座振替により受領する旨が記載された『保険料納入告知額・領収済額通知書』が送付されます。

また、同時に事業所が指定している金融機関には『納入告知書』が送付されます。
『保険料納入告知額・領収済額通知書』には、従業員と事業主負担分の社会保険料の合計額、児童手当拠出金の金額が記載されています。
前月に賞与を支給している場合は、賞与の社会保険料も合算されています。

『保険料納入告知額・領収済額通知書』に記載されている金額を確認し、事業所が指定している金融機関に社会保険料を納付します。末日には社会保険料が自動的に引き落とされます。

納付期限

『保険料納入告知額・領収済額通知書』が送付された月の末日(給与を支払った月の翌月末日)
※納付期限が土日祝日の場合は、土日祝日明けまで

納付先

事業所指定の金融機関

納付後

翌月中旬に年金事務所または健康保険組合から、社会保険料を口座振替により受領した旨が記載された『保険料納入告知額・領収済額通知書』が送付されます。

ポイント

事業所が社会保険料を納付する金融機関を指定していない場合は、事業所に『納入告知書』が直接送付されます。『納入告知書』を基に、最寄りの金融機関、年金事務所または、健康保険組合で社会保険料を納付します。
なお健康保険と厚生年金保険はそれぞれ全国健康保険協会と年金事務所に組織が分割されましたが、保険料の納付については年金事務所で健康保険、厚生年金保険の保険料を一括で納付することとなっています。

Q09.賞与の社会保険料の納付について教えてください。

A09.

年金事務所または健康保険組合に標準賞与額を申告すると(『健康保険・厚生年金保険 被保険者賞与支払届』と『健康保険・厚生年金保険 被保険者賞与支払届 総括表』を提出すると)、翌月中旬に賞与の社会保険料が合算された『保険料納入告知額・領収済通知書』が送付されます。

また、同時に事業所が指定している金融機関には『納入告知書』が送付されます。
『保険料納入告知額・領収済額通知書』に記載されている金額を確認し、事業所が指定している金融機関に社会保険料を納付します。末日には社会保険料が自動的に引き落とされます。

納付期限

『保険料納入告知額・領収済額通知書』が送付された月の末日(標準賞与額を申告した月の翌月末日)
※納付期限が土日祝日の場合は、土日祝日明けまで

納付先

事業所指定の金融機関

納付後

翌月中旬に年金事務所または健康保険組合から、社会保険料を口座振替により受領した旨が記載された『保険料納入告知額・領収済額通知書』が送付されます。

ポイント

事業所が社会保険料を納付する金融機関を指定していない場合は、事業所に『納入告知書』が直接送付されます。『納入告知書』を基に、最寄りの金融機関、年金事務所または健康保険組合で社会保険料を納入してください。

就業規則

Q01.パートやアルバイト向けの就業規則は、作成しておいたほうがよろしいのでしょうか。

A01.

パートタイマーやアルバイト向けの就業規則も作成しておくことが望ましいでしょう。

労働基準法は、常時10人以上の労働者を雇用する事業主に対して就業規則の作成を義務づけていますが、この場合の労働者には、パートタイマーや契約社員なども含まれますので、就業規則は、従業員の呼称や雇用形態を問わず、原則として全従業員に適用されることになります。

ただし、パートタイマー等については、労働時間や賃金体系等の基本的な労働条件が正社員と異なることが多く、正社員と同じ就業規則を適用するのは難しい場合があります。

パートタイマー等向けの就業規則に記載すべき事項は、正社員向けのものと基本的に同一ですが、パートタイマー等の労働条件は一般に個々に定めることが多いことから、就業規則では、適用対象となるパートタイマー等に共通して適用する事項のほかは、大綱だけを定めておき、個々に労働契約で定める事項については「雇入通知書」等により個別に示すこととしておくとよいでしょう。

Q02.当社では、パートを多数雇用しています。今回、正社員とは別にパートタイマー用の就業規則を作りたいと考えていますが、その際の注意点を教えてください。

A02.

パートタイム労働者用の就業規則の作成にあたっては、その事業場の全労働者の過半数を代表する者の意見を聴くとともに、該当するパートタイマーの過半数を代表する者の意見も聴くように努めなければなりません。

労働基準法では、常時使用する労働者が10人以上いる事業場では、就業規則を作成することを義務づけていますが、この場合の”常時使用する労働者”とは、いわゆるフルタイムの常用労働者という意味ではありません。
あくまでも、当該事業場で使用している労働者すべてをいいます。
したがって、パート、アルバイトはもちろん、契約社員や嘱託社員、出向社員などを含みます。

ご質問のケースのように、正社員向けとは別にパートタイマー向けの就業規則を作成したときには、この2つを合わせたものが、労働基準法にいう就業規則となります。

パートタイマー用の就業規則を作成した場合は、あくまでもその事業場の全労働者の過半数を代表する者の意見を聴くことで足ります。
しかし、パートタイム労働法では、その事業場で雇用するパート労働者の過半数を代表する者の意見も聴くように努めるものとするとしています。
これは、パートタイマーなど当事者の意見を聴くことで、より当事者の実情を反映した就業規則となりうることに配慮したものです。
パートタイマー等の過半数を代表する者から意見聴取することは、法律上努力義務とされていますので、この手続きを行わなくとも必ずしも違法とはなりません。

パートタイム労働者就業規則作成ポイント

1.作成義務

常時使用する労働者が10人以上の事業所パートタイム労働者就業規則は、正職員向けの就業規則を流用し、別に正職員以外の従業員とは、個別の雇入通知書や契約書にて別途規定を定める必要があります。

2.適用範囲

常時使用する労働者というのは、パートだけではなくアルバイトや契約社員、嘱託職員なども含みます。

3.注意点

作成に当っては、パートタイム労働者の過半数を代表する者若しくは全員に意見を聴取する必要があります。

4.作成方法

基本的には、正職員の就業規則に準じる事が望ましいとされています。なぜならば、正社員用の就業規則との関連が不整合になる場合があるからです(服務規律や懲戒など)。
パートタイマーには適用しない項目(特別休暇、休職など)は削除して、労働条件が異なる項目(出退勤の時間や賃金の構成など)の修正を行います。

Q03.当社の就業規則は、本社の総務部に置いている以外、特に周知はしていません。ある従業員から「総務部にあっても、従業員に配布していなければ、労働基準法上の就業規則の周知義務を果たしたことにならないのでは」という質問がありました。就業規則の周知方法としては、どのような形がよろしいのでしょうか?

A03.

貴社の事業所が1ヵ所しかない場合には、見やすい場所に備え付けられている限り、場所が総務部でも差し支えありません。もし、支店や工場など他の事業所がある場合には、その事業所の従業員は就業規則を容易に見ることができませんので、周知していることにはならず、労働基準法に違反します。

周知方法については、以下の3つの方法のうち、いずれかによることとされています。

  • (1)常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること。
  • (2)書面を労働者に交付すること。
  • (3)磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。

ご質問では、総務部に置いてあるということですので、一応、備え付けという方法で就業規則の周知義務を果たしているといえます。

ただし、総務部がある本社以外に事業場(支店や工場など)がある場合には、不十分です。
なぜなら、法令は「常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付ける」ことを求めており、作業場単位で就業規則を備え付けなければならないこととされているからです。

したがって、貴社の事業場が本社のみであれば、総務部に備え付けている場合でも、見易い場所に置かれている限り、周知義務を満たしていますが、支店や工場がある場合には、本社総務部に備え付けるだけでなく、支店や工場にも備え付けることが必要です。

Q04.就業規則の「タイムカードの打刻をしなかった場合には欠勤とする」という趣旨の規定に基づいて、タイムカード打刻を忘れた者を欠勤と扱うことはできるでしょうか。

A04.

労働基準法は、使用者に賃金台帳の作成義務を課し、労働日数、労働時間数、時間外労働の時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数を賃金台帳に記入すべきものとしています。つまり、使用者には賃金計算の基礎となる労働時間等の把握義務が課せられているわけです。

ところで、労働日数や労働時間数を把握する方法としては、一般に出勤簿やタイムレコーダー等が利用されていますが、管理者が各人別の労働時間数等を記録したり、労働者が出勤簿に記録する方法などでも差しつかえありません。

要は、使用者が労働者各人について労働時間等を確実に把握し、時間外労働等の処理にあたって法令の定めに違反しないように管理することが求められているのです。
したがって、出退勤時刻の管理にタイムカードを使用している場合に打刻しない者がいたとしても、使用者は何かの方法で労働時間把握義務を果たさなければなりません。
つまり、タイムレコーダーの打刻を忘れた場合でも、労働者が実際に出勤し、労働している限り、使用者はその労働者の実際の労働時間について把握する義務を免れることはできないわけです。

したがって、タイムレコーダーの打刻忘れを理由に欠勤として扱うことは許されませんし、就業規則にそのような規定が設けられていたとしてもその規定は無効です。
ただし、打刻忘れを理由に制裁処分をすることはできますので、労働基準法に定める範囲内であれば減給の制裁等の制裁処分に付すことは可能です。

  • Point: 使用者には労働時間の把握義務があり、「打刻忘れを欠勤とする」という規定は無効です。
Q05.当社は、労働組合と協約を締結して、一給与計算期間の残業が8時間(1日の所定労働時間相当)に達したときに、代休を1日取得することができる制度を導入することを検討しています。この場合、実際に代休を取得したときにも、2割5分増の割増賃金は支払うこととする予定ですが、このように、時間外労働と代休を相殺する制度は法律上問題ないのでしょうか?

A05.

ご質問は、残業時間が一定時間に達した場合に代休を付与し、従業員がそれを取得したときに相殺するという制度が、法律上問題があるかどうかということですが、結論から申し上げますと、時間外労働割増賃金が法定どおり支払われ、かつ、残業時間と代休を相殺することを労働協約に定めている場合には、このような措置も特に問題はないものと思われます。

たとえば、所定労働時間が8時間、土曜日と日曜日が休日の会社で、土曜日に8時間勤務させ、月曜日に代休(就業規則で無給と定めている)を与えた場合について考えてみましょう。
このとき、まず、土曜日の8時間の勤務に対しては割増賃金を含めて8時間×125%の賃金を支払った場合、月曜日の代休に対しては、1日分の賃金(8時間×100%)を差し引くことができます。
その結果、一給与計算期間で見たときには、通常の賃金は支払われることになり、かつ、2割5分の割増賃金も支払われることになります。

以上の例のように、貴社が導入を検討されている残業時間が8時間に達したときに代休を取得することができるという制度も、同一の給与計算期間中に代休が取得され、2割5分増の割増賃金を支払う限り、法律上特に差し支えないものと考えられます。

なお、労働協約による場合にも、個々の労働者が代休を取得する意思がないのに一方的に代休として取扱うなど、労働者の意思に反して残業時間と代休を相殺することはできません。
あくまでも代休を取得するかどうかの選択権を労働者に与えること、また、代休を取得しない場合には、割増賃金だけでなく通常の賃金も支払うようにすることが必要ですので、運用に際しては、十分注意をして下さい。

  • Point: 労働組合との間で労働協約として定められた場合には、残業と代休を相殺することも法律上特に問題はないと考えられますが、この場合でも、同じ給与計算期間内に代休を取得しなかった社員に対しては、割増賃金のほか通常の賃金も支払わなければならないことに注意して下さい。
Q06.企業にとって就業規則の整備が必要な理由と、労働法で新たに制定または改訂のあった内容について教えてください。

A06.

最近、テレビや新聞などで労使トラブルが頻繁に報道されていますが、全国の総合労働相談コーナーに寄せられた労使関係に関する相談は、平成18年度には94万6,012件で前年に比べて4.2%増加しており、今後もこの増加傾向は続くものと思われます。

増える労使トラブル

インターネットの普及等により情報が得やすくなり、従業員の権利意識の増大、終身雇用が崩れ、従業員の勤労観の変化などがその要因と考えられます。
中小企業を含めすべての企業において、労使トラブルに対する本格的な対策が必要となってきています。
企業にとって労使トラブルへの対策とは、就業規則の整備を意味します。
就業規則は『労使トラブルを回避するルールブック』といえます。
労使トラブルを未然に防ぐことにも繋がり、万が一発生したとしても企業に不利な判断が下されることを相当程度防ぐことにも繋がります。そこで就業規則の整備が企業にとって大きな意味をもつことになります。

また一方で、『就業規則は、従業員のやる気を向上させ、従業員が安心して働き、働き甲斐のある職場を形成するためのルールブックである』とも言えます。
もちろんトラブルを防止するため、従業員への規制事項が多くなることも避けられないことですが、規制することによる従業員の気持ちについても慎重に考慮しなければいけません。
つまり、従業員が就業規則を見たときに敵意を持つのではなく、『働きやすい会社だ、やる気を出して、会社に貢献していこう』と思ってもらえることに、会社が就業規則を作成する本当の意味があるはずです。
従業員が働きやすい環境づくりという視点も踏まえて、就業規則の作成・見直しを行う必要があります。

平成17年以降に改正・成立された労働条件に関する労働法

就業規則の整備におけるポイントは多々ありますが、まず第一に最新の法律を順守しているかどうかということが挙げられます。
ここ数年、労働法の改正が相次いでおり、平成17年以降に改正や成立された労働条件に関する労働法は以下の5法があります。

  • 育児・介護休業法(平成17年4月1日施行)
  • 高年齢者雇用安定法(平成18年4月1日施行)
  • 男女雇用機会均等法(平成19年4月1日施行)
  • 労働契約法(平成20年3月1日施行)
  • 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)(平成20年4月1日施行)

人事制度

Q01.人事制度の見直しとして導入を検討している「コンピテンシー」について教えてください。

A01.

コンピテンシーとは、一般的に高業績者が恒常的に成果を達成する行動特性と定義され、職能資格制度の見直しのひとつとして注目されています。成果を上げるための根源であるこのコンピテンシーや発揮能力に応じて、評価する人事制度を導入する企業が増えています。

(1)職能資格制度とコンピテンシー

職能要件書は保有している能力を表し、コンピテンシーは成果を達成するための行動を表現しています。例えば、前者は「~できる」という表現から推察が入る余地がありますが、後者は「~している」であり、機会を与えて、実際に本人が行動しているかどうかを評価する点に違いが生じます。

(2)コンピテンシーの項目

コンピテンシーをどの観点でとらえるかが重要ですが、下記に主な項目を取り上げます。

  • コミュニケーション
  • 革新性・創造性
  • チームワーク
  • 指導、部下育成
  • 成果達成
  • 意志決定

など

それぞれの項目について、高業績達成者の行動特性を調査し、まとめていく必要があります。これらを基準として、職務遂行行動や目標達成のプロセスでどのうような優れた行動・発揮能力を行ったかが評価されます。
つまり、成果を上げるまでのプロセスも評価対象となり、成果主義の欠点である数値目標の達成のみに目が向けられることはありません。

Q02.年功的な人事制度から能力重視の人事制度への変更を検討しています。能力評価の仕組みについて教えてください。

A02.

能力を基準として処遇を決定する職能資格制度を軸として、人事考課制度、賃金制度、能力開発制度を機能させるシステムがあげられます。

(1)職能資格制度とは

職能資格制度は、職務遂行能力(仕事に関する能力)を基準として、7~11の等級に区分し、社員をいずれかの等級に格付けし、その等級に基づいた評価、処遇を行う制度です。

(2)職能資格制度導入の目的

①能力主義

会社の目的を達成し発展していくためには、一人ひとりの社員が能力開発を実施し、成果を出す必要があります。
そのためには、能力の向上に応じた処遇をすることにより、社員のモチベーションを喚起し、合理的な人事運営をもたらします。

②能力開発を定期的に

人事考課を実施して能力を評価していくことにより、社員のレベルと強み、弱みが明確になります。
その弱みを教育を通じて改善すれば、その改善が賃金に結びつくことになります。従って職能資格制度を整備し、適切に運用することにより、社員は意欲的に能力開発に取り組むことになります。

③ポスト不足対策

年功的な人事制度では、社員の中高年齢化に伴いポスト不足が発生するなど大きな問題となっています。各等級には定員はありません。能力レベルに応じて誰もが昇格できます。つまり役職とは切り離された形で処遇が行われるので、ポスト不足の対策にもつながります。

Q03.職能資格制度を導入する際、社員の能力を測る基準が必要になりますが、何をベースにすればよいのでしょうか。

A03.

能力主義人事制度は、職能資格制度を基軸にして、社員一人ひとりの人事考課、能力開発と活用、処遇(配置、賃金)を連動的に展開することで成立します。

職能資格制度は職能資格等級がベースですが、各イベントの実施基準としての機能を持たせるためには、職能資格等級フレームという枠組みを設計し、それに沿って他の制度を組み立てていく必要があります。

(1)職能区分、職能資格等級

社員の成長、つまり職務遂行能力の発展段階を適切にクラス分けしたもので社内における能力のグレードを意味します。職能の発展プロセスを一から等級化することはすることは困難なため、まず大きく3段階に区分をしてから設計に入ります。期待される職務遂行能力の特質から上位層を管理職能、中位層を指導職能、下位層は一般職能と位置付け表示します。

(2)職能資格定義

全等級の中で、それぞれの等級がどの程度のランクにあるのか、その高さの位置付けを定義として明示したもので、上下間の等級比較ができる程度の短文で書き表します。

(3)対応職位

職能資格と役職との対応関係を示します。職能資格制度では、資格と役職は直接的には分離しますが、昇格した後で対応職位に適任者が選ばれるという関係だけは維持することを前提にします。

(4)昇格基準

上位等級に昇格するために必要な条件が昇格基準で明示されます。3つの職能クラスにおいて、何を最も重要視するか、昇格試験をどの節目で実施するか、この2つの要件が中心となります。

参考文献「職能資格制度」楠田 丘 著

Q04.能力主義人事制度を導入する際は、どのような手順で整備していけばよいでしょうか。

A04.

職能資格制度を軸として、人事評価制度、賃金制度、能力開発制度をトータルで連動させ、導入していく必要があります。

(1)職能資格制度の整備

まず能力を測る基準の整備として、社員を格付けする等級の数、内容を検討します。業務調査を実施し、等級ごとの仕事の洗い出しとその仕事に対して求められる能力を明確にしていきます。

(2)賃金制度の確立

職能給導入をメインに賃金体系の見直しを図ります。賃金制度の現状を診断し、課題の把握や今後の方向性を固めます。診断をもとに、基本給の構成、手当体系の変更などを進めます。

(3)人事評価制度の設計

能力を公平に評価しない限り、人材育成、能力開発は達成できません。職能資格制度において明確化した基準をもとに、社員一人ひとりの職務遂行行動を分析し、評価結果を部下にフィードバックできるシステムを形成します。
そのために人事評価表や役割分担表を作成し、人事評価のツール作りと効果表に対する勉強会を進めます。

(4)能力開発制度の策定

社員が能力開発に励めるよう、制度化していきます。社員の意志に沿った育成プログラムの充実(研修、OJT)、キャリア開発の計画について盛り込みます。

Q05.能力主義人事制度の導入をするために、整備しなければならない制度について教えてください。

A05.

能力主義人事制度は、
職能資格制度、職能給体系(賃金制度)
人事評価制度
目標管理制度
賃金・処遇制度
という4つの柱で構成されています。

人事に与えられた課題は、能力と仕事と賃金のバランスをとることにあります。能力の高さに応じて、仕事を高め、賃金を昇給させるというシステムを築き、運営します。

(1)職能資格制度とは

職能資格制度(職務遂行能力資格制度)とは、組織内の仕事をその内容に応じてレベルわけし、また組織の内で働く従業員を職務の遂行能力により等級別に格付けし、仕事のレベルに応じた資格等級を基準として従業員間の序列・地位を確立し、それに基づき人事管理を行おうとする制度です。

(2)人事評価制度とは

人事評価制度とは、職能資格制度で部下に期待される業務上の期待度に基づいて、上司が部下を評価し育成する制度です。

(3)目標管理制度とは

目標管理制度とは、従業員一人一人が自己目標を掲げてその目標に対する達成度や達成方法、取組み姿勢などを評価するという制度です。
単なる達成度合いの結果を評価するだけでなく、目標を達成するためのプロセスも評価し、なおかつ本人任せの目標管理ではなく、上司がアドバイスなどでいかに関わっていくかがポイントになります。

(4)賃金・処遇制度とは

賃金・処遇制度とは、評価結果に応じてを賃金や格付け、昇給などに反映させる制度を言います。

また職能資格制度においては、会社が従業員各人に期待する「仕事とその遂行度」「その仕事を遂行するために必要な能力」の基準(職能資格要件)を明確にし、その基準に基づき従業員1人1人の職能等級を決定し、昇格の方法について定める必要があります。

職能資格制度を軸に、社員を等級格付けし、その等級に求められる能力、仕事、役割を明確化します。この等級ごとの基準に対して、人事評価を行い、従業員一人ひとりの能力と基準のギャップをみます。

このギャップを埋めるために従業員は能力開発制度のもと能力の向上に励み、その成果に対して、昇給や昇進といった人事配置へと反映されます。

img
Q06.職能資格制度を導入する際、職能資格等級の数はどのように決定すればよいでしょうか。

A06.

職能資格等級の数は、社員数や役職者数、社員の平均年齢等を基に決定します。

職能資格制度を導入する際は、まず等級の数を決定します。等級の数は、多すぎると等級間の差異を明確に区分することは、困難となり、評価は曖昧なものになります。一方、等級の数が少なすぎると、等級内の能力の幅が広すぎ基準がぼやけてしまいます。

管理職能層、指導職能層、一般職能層の中を下記の条件を考慮し、いくつかの段階に区切り、等級化を図ります。

  • 社員数
  • 役職職回数
  • 平均年齢
  • 会社の将来性、成長性

一般的には、等級数はまず社員数で決められます。以下に目安を示します。

社員数 等級数
50人未満 7等級
50人~100人未満 8等級
100人~1,000人未満 9等級

例えば、社員数100人規模の企業においては、9等級とするのが適切な等級数といえます。これが一つの目安ですが、社員の高齢化が進んでいる企業の場合、上位職能に格付けされる職員が多くなることより、今後の昇格運用を考慮し、等級を一つか二つ多めに設定する必要があります。
等級の数が決定できたら、各等級に名称や求める能力レベルやモデル年数(何年で上の等級に昇格してほしいという目安)等を定義します。

参考文献「職能資格制度」楠田 丘 著

Q07.制度化してきた役職と職能資格等級は、どのように結びつければよいのでしょうか。

A07.

位等級に格付けされている社員の中から、役職者に求められる能力、成果基準を満たしている者を採用します。
したがって上位等級に昇格したからといって、全員が役職者になるという訳ではありません。

(1)能力主義における役職

職能資格制度においては、能力レベルの高い者のみが上位等級に格付けされます。この上位等級に格付けされた社員の中から役職者を任命することが必要です。
従来通りの年齢や勤続年数を基準として、役職者を登用することはありません。

(2)役職との対応方法

元来、職能資格等級に定員はありませんが、役職数は限られています。このため導入当初より、ある程度柔軟な形で制度を設計しておく方が運用はスムーズになります。
また、社員の中高年化に対応するためにも、一つの役職に複数の等級を対応させる方が運用しやすいでしょう。
例えば、6等級は課長職が対応している場合、それは次のような関係を示しています。

  • 6等級に昇格しなければ、課長になれない。
  • 6等級以上であれば、いつでも課長になれる資格を有する。
  • 課長職は、降りても不変である。

このように、職能資格制度における資格等級と役職位との相互関連は弾力的であり、かつ資格が優先することになります。社内の実態、およびこれからの昇進スピード等を念頭に置いて、資格等級に対応する役職位を設定します。

参考文献「職能資格制度」楠田 丘 著

Q08.能力主義人事制度の評価対象である「能力」を、具体的に「目に見える形」にするにはどうしたらよいでしょうか。

A08.

等級ごとの基準を構成する能力を測り具体化するためには、業務調査で各部署の仕事を洗い出し、各々の仕事を評価するなど、整理の手続が必要になります。
その中で職種別の課業一覧表と職種別等級別の職能要件書を作成することで能力を明確化します。

(1)業務調査の内容

① 課業の洗い出し

自院の各部署には、どのような課業(仕事)があるのかを調べます。

② 課業の評価

洗い出した課業の一つひとつは、どのくらいのレベルなのか、それを完全に遂行することができるのは、何等級なのかを評価します。

③ 等級別習熟要件の抽出

どの程度の能力(知識や技能)があれば、その課業を遂行できるのかを抽出します。

④修得要件の抽出

その課業を遂行ためには、どのような知識、技能が必要なのかを推薦図書、研修、資格免許等、具体的内容で示します。

(2)業務調査の手順

① 課業の洗い出しと評価

  • 課業の洗い出し
  • 課業の大きさ、課業名の修正、部門内評価

② 部門別課業一覧表の作成と配布

  • 課業の難易度評価
  • 等級格付け
  • 習熟度指定

③ 職種別・等級別職能要件書の作成と配布

  • 習熟要件の等級別整理
  • 修得要件の書き出し
  • 各人への配布

参考文献「職能資格制度」楠田 丘 著

Q09.能力を目に見えるようにする「ツール課業一覧表」の内容と作成方法を教えてください。

A09.

課業一覧表とは、職種別、等級別の基準を具体化するために仕事を洗い出し、各々の仕事がどれくらいのレベルで何等級に該当するのかを一覧表にまとめたものです。

課業一覧表では、次の項目について把握する必要があります。

  • 当社にはどのような業務があり、それらを構成する課業には何があるのか全て洗い出す。
  • それらひとつひとつの課業はどのくらいの仕事なのかを評価する。
  • その課業を完全にこなすことができるのは、主として何等級なのか評価する。
  • 現に、誰がそれらの課業をたんとうしているのかを把握する。
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Q10.「職能要件書」の内容と作成方法について教えてください。

A10.

課業一覧表でまとめた課業を会社が期待し、必要とする仕事や能力の内容及びレベルとして捉え直し、職種別等級別に整理したものを「職能要件書」といいます。

例えば、3等級という職能レベルに見合った仕事を担当し、その仕事の結果を3等級の職能要件書(等級基準)に照らして上回っていたのか、下回っていたのかで業務の達成度や能力の充足度を判定します。

(1)習熟要件の整理

課業を等級別に整理・転記することにより、期待する習熟要件を設定します。
つまりその等級では、何がどのレベルまでできなければならないのかを示すことになります。

(2)修得要件の設定

修得要件とは、「この仕事をこなすためには、この知識や技能をこの勉強や研修を通じて、身につけて欲しい」という能力開発の具体的指針を与えるものです。
自己の能力を今後どこまで、どのような方法で高めていくことが必要とされるのか、その期待レベルと内容を明確に提言できるような設定が必要となります。

Q11.能力主義人事制度が年功的で導入前とあまり変化がみられません。
運用上の留意点について教えてください。

A11.

職能資格制度が整備されていないと能力を測る基準が不明瞭になり、年功的な運用に陥ってしまいます。
まず職能資格制度を整備し、それを軸に人事評価制度、職能給体系等を運用していきます。

(1)人事評価の不公正

能力を測る基準の明確化が図られず、評価者に対して公平性を確保するための人事評価の研修会がなされていません。つまり管理者は、人事評価に自信を持って望むことができず、評価結果も曖昧なものになってしまいます。
その結果、人事評価結果を反映して、格付けや昇格を行うのではなく、勤続年数の経過とともに自動的に等級をあげることが習慣化することになります。
等級基準の明確化と公表、研修会を通じて、人事評価に関する理解を常日頃より深める必要があります。

(2)職能資格制度の曖昧運用

課業一覧表や職能要件書の作成や修正を怠ったため、人事評価の基準が不明瞭になっってしまった企業が多く見られます。さらに昇格運用を無視したため、年功的に昇格がなされた結果、社員の多くが高い等級にたまることになってしまったところもあります。
この解決には、各種ツールの見直しを行い、曖昧さの排除や成果主義人事制度への移行が必要です。

(3)能力開発制度の未整備

画一的な研修や無計画なOJTを実施してきたため、効果的な人材育成ができませんでした。また、複線型人事制度を導入しなかったため、職能資格制度を導入しても、結果的には役職優先の昇格がなされてしまいました。

以上を運用上の留意点として進めていくことが重要です。

Q12.社員一人ひとりの能力を生かす配置転換を考えていますが、社員にとって有効な制度はありますか。

A12.

勤続年数の一定の節目に応じて、社員から希望の職種や配属をリクエストさせる制度があります。

(1)ジョブ・リクエスト制度とは

人材の有効活用の条件の一つとして、本人の希望する仕事を担当させることがあげられます。希望しない仕事を担当し続けることは、モチベーションの低下につながり、会社にとっても非効率的です。
ジョブ・リクエスト制度は、例えば、勤続3年目、5年目、10年目といった節目を迎えた社員に対して、自分が担当したい仕事をリクエストさせ、配置転換の一つの手段として活用する制度です。この制度は、「一定の勤続年数を経て、自分の能力を認識し、会社の仕事内容に精通した社員に対して」実施することに大きな意義があります。

また、社員に職務選択の機会を提供することで、「選択と自己責任に基づく社員の主体性強化」や「キャリア構築支援」という意義もあります。
この制度のタイプとしては、

  • 会社の指定する職務に応募する社内公募型
  • チャレンジしたい職務を自由に申告する自由応募型
  • 勤務地を選べるエリア選択型(Uターン異動、Iターン異動など)

などのタイプがあります。

ジョブ・リクエスト制度を上手に活用することで、希望職務や勤務エリアを選択できることにより、社員のモチベーションアップや職務能力向上につながり組織全体の強化にもつながります。

(2)制度運用の留意点

社員全員のリクエストに応えることは不可能です。だからといって、リクエストを一方的に拒否することは、社員のやる気を損ない、制度運用の意義がなくなってしまいます。
ジョブ・リクエストを通じて、組織体系や組織風土、本人の将来展望、現状の仕事レベルや能力を見直した上での配置転換への活用が望まれます。

Q13.社員の能力開発や環境変化等へ対応するための人事異動では、どのような点に注意すればよいですか。

A13.

就業規則に明記しておけば人事異動の命令は可能ですが、職権乱用は認められません。

(1)就業規則への明記

人事異動については、社員の同意を得る必要はありません。就業規則に「業務上必要であるときは、人事異動を命令することがある」と明記しておけば、業務上の必要に応じて、命令できます。 また、社員は正当な理由がない限り、人事異動の命令に従う必要があります。

(2)人事異動の効果

人事異動には様々な効果がありますが、代表的なものを以下に述べます。

① 合理的な人員配置

会社としては、部門ごとの人員配置が適切であるかどうかを常に検討し、アンバランスが生じているときはそれを解消するために、人事異動を実施することが必要です。

② 職場の活性化

同じメンバーで長期間仕事をしていると、職場の雰囲気が停滞する傾向にあります。
それは生産性にも悪影響をもたらします。
やはり、メンバーの一部を定期的に入れ替え、職場に新鮮な空気を与える方が望ましいでしょう。

③ マンネリ防止

一つの仕事に何年も従事していると仕事のやり方がマンネリ化し、仕事の効率化、改善、コストダウン等に励むことが少なくなります。
これを人事異動によって、別の仕事を担当することにより、モチベーションの向上につながり、新たな気持ちで仕事をとらえることができます。

Q14.業績悪化に伴い、中高年齢層に早期退職を提案したいのですが、どのように行うべきでしょうか。

A14.

早期退職制度は、中高年齢層のローテーションに活用できるという人事上のメリットがあります。
また、中高年社員は、早い段階で第二の人生の挑戦を考えることができるという面もあります。
そのうえで、退職の優遇内容をどれだけ充実できるかが、制度の成否を決定します。

(1)適用対象者

適用対象者は、年齢(勤続年数)や退職理由で決めます。
ただし、年齢をあまり下げることは望ましくありません。

(2)退職金の優遇方法

退職金の優遇方法としては、下記の方法があります。

  • 会社都合退職の支給率を用いて算出する。
  • 定年退職した場合に適用される退職金の一定のパーセントに相当する額を上積みして算出する。
  • 年齢や勤続年数に応じて、一定額を加算する。

退職金の優遇に魅力がないと、利用者が一人もでないことになります。一方、退職条件をよくしすぎると、予定を上回る数の利用者がでて、退職金負担の増大、経営活動に対する支障が生じます。 したがって、優遇制度の条件は慎重に検討する必要があります。

人事評価

Q01.人事評価には、どのような方法があるか教えてください。

A01.

人事評価の方法としては、社員同士を比較する相対評価と社員一人ひとりを評価基準や期待像と照らし合わせる絶対評価があります。

(1)相対評価

相対評価は、ある社員を他の社員と比較して評価する方法です。
例えば、他の社員と比較して仕事の成績はどうであったかを評価します。相対評価は社員相互の比較なので、評価は容易です。対象者同士の差が大きいほど評価はスムーズに行われます。この方法は、従来給与に反映させるための査定に使われていました。

(2)絶対評価

絶対評価とは、部下の一人ひとりをみつめる人事評価であるといえます。誰かと誰かを比較し、優劣の議論をするのではなく、部下一人ひとりについて、どこが優れ、どこが問題で、どこを今後伸ばせばよいかをみつめるものです。
ところで、一人ひとりをみつめるということになれば基準が必要となります。基準がなければ何がよいか悪いかの判別に支障を来たします。
一般的な絶対評価成立の要件をまとめると、下記のようになります。

絶対評価成立の要件

  • 社員への期待する姿への明示
  • 事実に基づいた評価
  • 能力開発のための評価結果の還元
  • 評価者に対する継続的な教育
Q02.人事評価制度を導入する際、日常業務の中で何を評価すればよいのでしょうか。

A02.

一般的に、職務改善や人材育成に人事評価を活用するのならば、日常業務の中の勤務態度、仕事の結果、能力を対象に評価を行います。
人事評価の評価区分といわれる種類と評価要素といわれる項目は、一般的に以下の通りです。

(1)成績評価(評価区分)

成績評価は、担当している仕事の質はどうであったか、仕事の量はどうであったか、成果はどうであったか、という形で一定の期間の行動を、過去形でとらえることになります。

評価要素

  • ①仕事の質 上司から指示された仕事の出来映え、仕事の内容の充実度、正確性、信頼性、効果性、効率性を評価します。
  • ②仕事の量 上司から指示された仕事を遂行した度合い。達成率、増減率、時間、期限等を評価します。
  • ③ 指導・育成・監督 下位者の知識、技能の向上、動機付け、意欲向上の成果の度合いを評価します。

(2)情意評価(評価区分)

これは、仕事に対する取組姿勢や職場でのルールの遵守度に対して、評価します。評価項目としては、規律性、協調性、積極性、責任性等があげられます。また、管理者に対して、コスト意識や経営認識を評価項目に加えることもあります。

評価要素

  • ①規律性 日常の服務規律の遵守の度合いを評価します。
    定められた諸規則、諸規程、さらには上司の指示を守った程度のことを言い、。職場での申し合わせ事項等も含みます。
  • ②責任性 自分に与えられた仕事を全うしようという意欲、姿勢の度合いを評価します。
    自分の役割や立場を自覚し、自分に期待され、求められているものを全力を傾注して果たそうという態度、行動のことを言います。
  • ③協調性 チームの一員として他人の守備範囲をカバーする行動を評価します。
    仕事や目標を達成するためお互いの仕事が円滑に行われるよう、自ら進んで上司、同僚、後輩といった人たちと協力しあい、良好な人間関係を維持しながら、チームプレイに取り組もうとする行動や態度のことで、それは主として自分たち以外の人たちの守備範囲の及ぶものであり、チームワークのあり方といえます。
  • ④積極性 改善提案、継続的なチャレンジ、自己啓発など、「今または現状以上に」といった意欲と、その姿勢を評価します。
    困難な状況の中でも、あえてチャレンジしようとする姿勢。現状に甘んじることなく、創意・工夫を凝らしたり、場合によってはリスクテーキングするといった態度のことです。

(3)能力評価(評価区分)

この場合の能力とは、職務遂行能力を指し、業務外の能力は考慮しないことが基本です。つまり、仕事に必要とされる能力をどの程度保有しているかを評価するのが、能力評価です。 評価項目としては、知識、技術、理解力、判断力、指導・育成力等があります。

評価要素

  • ①知識 当人が格付けされている等級に期待し求められる知識の充足度を評価します。
  • ②技能 当人が各付けされている、あるいは組織における位置づけに期待し、求められる技能を評価します。
  • ③理解力 仕事の状況や状態を的確に把握する能力を評価します。
  • ④創意・工夫力 担当する仕事の手段、方法等について、自ら改善の必要性を見出し、改善を推し進められる能力を評価します。
  • ⑤表現力 口頭又は文書により、伝達しようとする意思、目的や報告すべき事項を明確に表現できる能力を評価します。
  • ⑥企画力 担当する仕事の目的を達成する為に、その方法、手段を効果的に立案し、取りまとめ、展開し得る能力を評価します。
  • ⑦折衝力 仕事を進める上で、他人と折衝し、自分の意図、考えを相手に説明し、理解納得させる能力を評価します。
  • ⑧判断力 情報の取捨選択能力、情報を比較したり、統合、整合したりしながら、状況や条件に適合した仕事の手段、方法を決めたり、また、変化への適切な対応処理ができる能力を評価します。
  • ⑨決断力 部門目標を達成するため、数ある代替案の中から有効なものを選び、決定、実施する能力を評価します。
  • ⑩開発力 将来の予測、見通しに立ち、担当する仕事の分野における全く新しい方法を創案し、実現に向けて、展開しうる能力を評価します。
  • ⑪渉外力 法人を代表して、関係先の人と接し、協力、理解を取り付けられる能力を評価します。
  • ⑫指導・育成・監督力 下位者の知識、技能の向上、動機付け、意欲向上させることができる能力を評価します。
Q03.人事評価を行うに当たって、評価期間をどのように設定すればよいのでしょうか。

A03.

人事評価の目的により様々ですが、昇給については過去1年間、賞与については過去6ヶ月間(賞与算定期間にあわせて)を対象期間とするのが一般的です。

評価項目としては、情意評価、成績評価は年2回、能力評価は年1回実施します。

(1)昇給のための人事評価

昇給は通常年1回行われます。例えば、4月1日付けで昇給を実施するときは、そこまでの1年間(前年の4月1日~当年3月31日)を対象として、主に能力評価を実施します。

(2)賞与のための人事評価

賞与支給は、年2回から3回の支給日と算定期間を決めるのが一般的です。例えば夏期賞与の場合、6月15日を支給日として、当年1月~6月までを算定期間とします。 人事評価の対象期間も賞与の算定期間と同一とし、評価期間中の情意評価、成績評価を実施します。

(3)昇進・昇格のための人事評価

昇進・昇格の実施に先立つ1年間を人事評価の対象とします。評価項目はすべてを対象とし、総合的に鑑みる必要があります。

評価回数や評価時期の例をわかりやすくすると次の表のようになります。

評価次期事例
Q04.人事評価制度を導入し、昇給、賞与、昇進、配置転換に活用すると、どのような効果が得られますか。

A04.

評価基準と評価ルールを明確にし、公正な人事評価を行うことは、社員の活性化を図ることにつながります。
人事評価は、社員一人ひとりについて、役割、職務、責任を果たしているかどうか、会社の期待する水準に照らし合わせて、評価する制度です。

「やってもやらなくても、処遇は変わらない」のであれば、社員のモチベーションはあがらず、能力開発やサービスの向上には取り組まないという状況が生まれます。そのような状況を排除し、組織の活性化と持続的成長を図るためには、人事評価を制度化する必要があります。
その内容は、下記のようにあげられます。

  • 社員一人ひとりについて、会社が求める期待像(役割、任務、責任)を明確にする。
  • 社員がその期待像に沿っているかどうかを定期的に評価する。
  • 評価の結果を面接等を通じ、社員にフィードバックし、昇給、賞与、昇進等の処遇の決定および能力開発に反映させる。

またその効果として、下記の事柄が期待できます。

  • 能力と実績に応じた公正な人事管理ができる。
  • 能力と実績に応じた処遇により、社員と職場の活性化が図られる。
  • 適正配置ができ、モチベーションの向上と業務の効率化が推進される。
  • 社員の能力開発が進められる。
Q05.人事評価の結果は、どのように数値化するのがよいでしょうか。

A05.

人事評価の重要な課題の一つに、人事評価の結果をどのように客観化するかということがあげられます。人事評価の対象となる行動を評価し、客観化するために評価レベルを設定しますが、一般的に3~5段階で数値化します。

絶対基準に対して、社員の頑張りは期待以上のものであったか、水準通りであったか、下回っていたかを評価します。
例えば、5段階評価で人事評価を行う場合、下記の通りになります。

段数 評価
5⇒ ミスや問題点がなく、期待水準を上回る遂行度であり、その期待水準自体が上位等級に該当するものであった。
4⇒ ミスや問題点がなく、期待水準を上回る遂行度であった。
3⇒ 小さなミスや問題点はあったが、期待水準通りの遂行度であった。
2⇒ ミスや問題点があり、期待水準以下の遂行度であったが、かろうじて業務は遂行された。
1⇒ ミスや問題点があり、業務は遂行されなかった。

ここで課題となるのは、この段階ごとのレベルの把握です。レベルの捉え方が曖昧なままだと、評価を公平に行うことはできません。中心となるのは3なので、まずこれを明確にします。「会社が期待し、求めるレベル」、あるいは「上司と部下がお互い確認しあった基準」に対して、クリアできたかできなかったかを問い、クリアして3というレベルであると判断します。この3を評価基準や面接を通じて、共通認識することにより、1、2、4、5が明確になります。

具体的には次のような人事評価表を作成し、点数化し易くします

人事評価表サンプル

人事評価表サンプル
Q06.人事評価の精度を高めるために、普段の人事評価をどのように進めればよいでしょうか。

A06.

人事評価の精度を上げるためには、下記のように、ステップを順序よく踏むことが重要です。

Step1)職務の観察

人事評価の対象となるのは職務に関する行動と上司と部下で確認し合った職務基準に対する取り組みとその結果が直接の対象です。

日常業務の中で人事評価を行う場合は、まず職務の観察から始めます。職務の観察は、常日頃部下を観察していて、初めてなしうるものであり、部下の行動をイメージでとらえたり、拡大解釈したりすることは、慎まなければなりません。

Step2)評価要素の選定

人事評価の対象となるべき行動が把握できたら、次はその行動をどの評価要素で評価していくかを判断します。これを評価要素の選定といいます。 行動を態度という要素でとらえるか、また能力でとらえるか、さらには態度のなかでも、協調性でとらえるか、責任性でとらえるかを選定します。

Step3)評価レベルの決定

最後は、評価レベルの決定です。部下に与えた”期待し求める基準”に対して、クリアーできたかどうか、あらかじめ決められたいくつかの評価レベルのうち、どれを当てはめていくか - これが評価レベルの決定です。

Q07.人事評価の公平性を確保していくための評価者の教育とは、具体的に何をすればよいでしょうか。

A07.

人事評価制度を運用する場合、評価者の能力や考え方などで評価結果に差が出るようでは、人事評価は成立しません。
そこで、全評価者が人事評価制度の導入目的を正確に把握し、評価方法を学び、マネジメント能力を高めることが必要不可欠です。

(1)評価者教育・研修のねらい

  • 人事評価のルールの理解
  • 評価基準の統一

人事評価の対象となる仕事も社内で同一のものはありえないし、去年と全く同じではありません。状況の変化に対応するためにも、定期的に評価者教育を行います。

(2)評価者教育の種類

評価者教育は、その目的やレベルに応じて4つの区分に分けられます。

種類 内容 対象 実施時期
必要に応じて実施するもの 人事評価制度導入時の研修 人事評価制度の概要の説明と、それに関連する研修(基礎研修と同様の内容) 全評価者 人事評価制度の導入時
人事評価制度改定の説明会 改定した内容の説明と、それに関連する研修 全評価者 人事評価制度の改定時
定期的に実施するもの 評価者基礎研修 管理職の役割、人事制度についてと人事評価の基礎理論 初めて評価者になる議員 評価者の立場に昇格した直後
評価者応用研修 事例の検討、面接実習による応用研修 評価者基礎研修を終えた評価者 1年に1度、人事評価実施時期の前
Q08.人事評価者は、どのような点に配慮して評価を進めていけばよいでしょうか。

A08.

好き嫌いや個人的な感情にとらわれずに、客観的かつ公平に人事評価を進める必要があります。
また、その結果に自信と責任を持つことも必要不可欠です。

(1)観察を通じ、事実のみをとらえる

人事評価は、日常業務において発生した事実を観察を基に行う必要があります。
噂やイメージで、「Aさんは一生懸命やっている」などと評価があっては、人事評価者によって評価結果はバラバラになってしまいます。
人事評価者は、部下の仕事ぶりを常日頃観察する必要があり、その観察を基にした評価結果であるならば、部下の納得は得られやすいものになります。

(2)職務上の行動を対象にする

部下に与えられている職務に関する行動や結果を、人事評価の対象とします。職務と直接関係のない個人的行為、プライベートでの出来事は一切評価しません。

(3)私情を排除し、公平性を保つ

管理者といえども、好き嫌いや個人的な感情は持っています。しかし、人事評価は組織がそのメンバーを評価する制度であり、個人的に行うものではありません。また、目的の一つに社員の能力開発があります。
したがって、私情にとらわれることなく客観的かつ公平に行う必要があります。
もし公平性に欠ける人事評価であるならば、社員の納得は得られず、人事評価は成功しません。

(4)評価者としての責任と役割を認識する

人事評価を公平に行い、部下の能力開発に結びつけることは、管理者の重要な役割です。常に部下を育成するという観点から人事評価に取り組む必要があります。

Q09.人事評価を行う際に、陥りやすい誤りとその対処方法を教えてください。

A09.

人事評価者は、ハロー効果、寛大化傾向、中心化傾向に注意する必要があります。

(1)ハロー効果

ハロー効果は、評価者が最も陥りやすいエラーといわれている。ハローとは後光を意味し、その人のイメージで評価してしまうことです。 例えば、明るいあいさつを励行している社員に、「勤務態度もまじめで何事も積極的に取り組んでいる」という判断を下してしまうことです。 ハロー効果を避けるためには、これらが重要です。

  • 先入観や思いつきを排除すること
  • ひとつの行動に対して、ひとつの評価要素で評価すること
  • 日常の観察によって得られた客観的事実をもとに評価すること

(2)寛大化傾向

全般的に部下に甘い評価を下してしまうことを寛大化傾向といいます。人事評価に対する自信のなさや部下に対する感情移入が原因で生じます。 寛大化傾向を避けるためには、これらが重要です。

  • 具体的事実をもとに評価に当たること
  • 甘い評価が部下の能力開発につながらないことを認識すること

(3)中心化傾向

評価結果が標準に集中し、優劣の差がほとんどでないことを指します。評価者が結果を明らかにすることをためらったり、結果に自信がないときに生じます。
部下によって能力に差があるにも関わらず、その差を曖昧にして同じような結果をだすことは、部下のモチベーションに悪い影響をもたらします。中心化傾向を避ける方法は、寛大化傾向と同様です。

Q10.人事評価の結果をフォローや能力開発へと展開させるためには、どのような方策が考えられますか。

A10.

人事評価は面接制度が確立されることにより、初めて有効になります。
管理者は、部下との面接を通じて、人事評価結果のフィードバックやマンツーマンでの指導、部下の考えていることや管理者への要望を理解することにより、部下の育成や、マネジメントについて自身が学ぶ場にもなります。

(1)面接制度のねらい

組織のニーズにより、ねらいをどこに置くかは様々ですが、一般的には次のようなねらいを設けることになります。

  • 部下に仕事に対する権限や責任感を持たせる
  • 経営や部署内での目標など情報の共有化
  • 啓発の動機づけ
  • 仕事や能力に対する期待水準の明確化
  • 部下の掌握、意思疎通
  • 部下の指導・育成

(2)面接の種類

  • ①目標面接 会社や部門の目標達成、部下個人の能力開発のための目標設定と期待レベルの明確化を図る。
  • ②中間面接 業務の進捗状況についての確認とフォローを図る。
  • ③育成面接 人事評価結果とそのプロセスの振り返りと能力育成につなげるフィードバックを図る。

① 目標面接とは

目標面接において、部下一人ひとりに対しての具体的個別期待像を共有化します。その期待像に対して、部下は目標を設定することになります。
この面接では、上司と部下がどのように話し合い、目標を定めていくかの手順がポイントになります。

② 中間面接とは

目標面接で期待基準や目標が確認されたならば、これらが確実に達成できるよう、各人に対してフォローしていく必要があります。
中間面接の直接のねらいは、目標達成のための「問題の早期発見と軌道修正」にあります。目標達成を阻害する要因があれば、大事に至る前に排除することが重要です。
このため、面接の場で部下から報告を求めて進捗状況を把握したり、状況の変化を伝えたり、基準や目標の見直しについて話し合い、部下に対して問題解決の指針を与えます。

中間面接の進め方

手順 ポイント
進捗状況を確認する
  • 目標に対しての遂行状況を確認する
  • 能力開発面進捗状況についても確認する
指示・指導を行う
  • 部下の認識欠如、努力不足と判断した場合は、目標を再確認させ、追加指示・指導を行う
  • 遂行方法や手法に誤りがある場合は、適切な助言を与える
対応策を検討する
  • 現状把握、問題点の発見の後、解決策を話し合い、検討する
部下の要望を聴く
  • 目標達成に必要な部下の要望を聴く
  • 要望事項については、部下の意見を尊重する
激励して、中間面接を終える
  • 目標達成の期日を確認する
  • 励ましと期待を述べて、面接を終了する

③ 育成面接(フィードバック面接)とは

一定期間の経過後(通常6ヶ月後)、部下一人ひとりの目標に対する成果について評価を行います。
この際、評価結果だけでなく、結果に至るまでの要因を部下に再考させ、事態の改善やさらなる動機づけを行います。これが育成面接のねらいです。
つまり育成面接は、能力主義人事の締めくくりの話し合いという位置づけに当たります。

育成面接(フィードバック面接)の進め方

手順 ポイント
面接の目的を明確にする
  • 育成面接のねらいを明らかにし、共通の基盤を作る
上司評価の内容を説明する
  • 人事評価の結果、目標の達成、遂行度を説明する
  • 自信をもって、堂々と評価を説明する
事態改善について話し合う
  • 今後の事態改善について、上司のアドバイス(改善点、注意点、育成点)を明確に伝える
  • 部下の自己申告(意見、要望)も考慮し、事態の改善について話し合う
事態改善のプランを設定する
  • 来期に向けて、目標の変更と修正、業務改善、能力開発の各プランを設定する
  • 事態改善のプランを部下と確認する
育成面接を終える
  • 来期の目標について概要を検討し合う
  • 今期の部下の努力をねぎらい、来期への期待を述べて、面接を終了する
Q11.社員が目標を持ち、それに沿う仕事を進めるには、どのような制度を導入すればよいですか。

A11.

目標を明確に定めている社員は、その目標を達成するために、手段や方法の選択、時間配分に配慮するため生産性の向上が達成されます。
社員一人ひとりに業務目標や能力開発目標を立てさせ、その達成に向けてチャレンジを促す「目標管理制度」があります。

(1)目標管理制度とは

組織目標や等級基準に基づいた個人目標を設定し、その取り組み状況や達成度合いを評価する制度

各階層で設定された目標が達成されて、初めて組織全体のビジョンが達成されます。目標管理は、目標の立案、遂行、遂行状況の確認と課題抽出、課題に対する対策立案と実施、というPDCAサイクルによって段階的に達成されるものです。

目標管理制度とは

(2)目的

  • 組織目標と個人目標の関連付け
  • 社員の動機付けと能力開発
  • 自主性の発揮

(3)運用方法

① 目標の種類

  • 成果目標~部門、チーム目標のための取組目標
  • 業務目標~自らの立場に求められる仕事や能力を高めるための目標
  • チャレンジ目標~自己啓発を基に能力や行動を開発するための目標

② 評価回数、時期の検討

年間を通じての管理、つまり年1回の目標設定と評価を行う方法と半期ごとに目標設定を行い、評価する方法(年2回)が一般的です。

(4)目標管理シートの作成

目標管理シートを作成し目標やその内容、達成方法等を目に見えるようにすることが必要です。目標管理シートはいくつかのパターンを用意し、自社にふさわしいものを選択するようにしたらよいでしょう。また、作成したシートは確定ではなく、運用後改善を進め、自社になじむようにすることが重要です。

(5)個人目標の設定

個人目標の設定は、目標の内容に枠組みを持たせるものの社員の自主性を重視し、その枠組みの中で取り上げるテーマは社員自らの判断で決定させます。その実行も自己管理、自己統制に任せることが、自主性を育てるポイントとなります。
そのため、目標が単なる目標(スローガン)では、個人では実行に移せず、目標管理全体が機能しないことになります。
目標設定こそが、目標管理成功の要であり、この設定に時間や労力を費やすこととなります。目標設定にはセオリーがあり、具体的な方策や手段が不可欠です。この先、半年、1年間の施設のあるべき姿や自分の仕事について、結果だけでなく手段、方法を含めて、そのストーリーを描くことになります。

目標設定の基本形

  • 「何を」~状況、指標
  • 「何のために」~目的、設定理由
  • 「どのようにして」~手段、方法
  • 「どれだけ」~レベル、等級基準
  • 「いつまでに」~期日までのスケジュール

目標設定の基本形を守り、目標に具体性を持たせることができないと事実評価は不可能です。特にスケジュールは月間スケジュールを中心にやるべきことを設定し、毎月チェックできるよう設定します。この基本形が守られず、評価結果をイメージできない場合は、改善が必要です。

(6)個人目標の達成度評価のポイント

  • 成果を正確に把握し、評価する
  • 目標と成果の差異を分析し、必要な対策を検討する
  • 達成度評価を能力開発と処遇に反映させる
Q12.目標管理制度を導入するメリットとは、どのようなことですか。

A12.

目標管理は、業績志向型と能力開発型に大別できますが、社員の自主性を尊重した上で、目標達成に向けて活動できることにメリットがあります。

(1)経営理念・部門方針の浸透

一般的には、経営理念や部門方針は、末端の社員にまで浸透していないのが現状です。全社員がこれらを共通理解し、方針に沿った行動がとれるよう支援するシステムが目標管理制度です。

経営理念

(2)部門方針と個人目標の関連づけ

経営理念や部門方針は、総じて表現が大きく抽象的であり、社員各自、頭の中では理解できていますが動き出すことは少ないのが現状です。部門方針と社員の個人目標が一体になれば、個の成長=会社の発展に繋がります。

(3)ボトムアップによる責任感の醸成

責任感を醸成するためには、社員一人ひとりが自らの役割分担と目標を明確に自覚することが必要不可欠です。会社が社員に期待し求める事柄を示し、それに沿って自ら自己目標を設定でき、評価を受けることができるボトムアップの仕組み作りが重要です。

Q13.目標管理制度を導入していますが、社員による目標の差を縮めるためにどうすればよいでしょうか。

A13.

目標設定は、取り上げるテーマを社員自らの判断で決定できるなど、社員の自主性を尊重します。
しかし、目標は、単なる目標(スローガン)を指すのではなく、目標の中に具体的な方策、手段や達成基準が必要です。人事考課の対象期間中の自分の仕事について、結果だけでなく手段、方法を含めて、そのストーリーを描きます。

(1)目標設定の基本形

目標設定の際には、部下に以下の基本形を守らせ、具体性を持たせることが重要です。基本形は、

  • 「何を」~指標
  • 「どのようにして」~手段、方法
  • 「どれだけ」~基準、要求レベル
  • 「いつまでに」~成果達成のための具体的行動
  • 「~する」~成果達成のための具体的行動

(2)目標のチェックポイント

公正な評価結果を導くためのチェックポイントは以下の通りです。

  • 目標設定の基本形が守られているか。
  • 自部門において、何をしなければならないのか。
  • その目標は会社・部門目標と結びつくか。
  • 目標は、等級基準とどう関連しているか。
  • 責任の所在が不明確な目標はないか。

管理者はこれらをチェックするとともに、目標面接において部下とすりあわせを徹底し、コンセンサスを取ることが求められます。

賃金制度

Q01.新しい賃金体系の導入を検討しています。
各賃金体系の特質を教えてください。

A01.

賃金体系には、職務給、職種給、業績給、職能給、年功給の大きく5つの種類があります。

(1)職務給

アメリカでは、職務給の考え方が賃金体系の基本です。各職務に対して評価が行われ、賃金が決定される成果主義の考え方がとられ、定期昇給の概念はありません。刺激性の高い体系といえます。

(2)職種給

西欧では、職種給の賃金体系がとられ、その職種の熟練度によって賃金が決まります。
日本でいうパート社員に対する支給方法に似ています。

(3)業績給

短期的な会社業績や個人業績をもとに賃金を決定します。刺激性や適正人件費を重視するなら、これらの成果主義賃金を選択することが望ましいです。

(4)職能給

現在保有している能力をもとに賃金を決定します。上記の給与と異なり、人間主義の給与体系で日本の風土に適しています。

(5)年功給

年齢や勤続年数において賃金を決定します。社員が年功に応じて、能力や成果を上げ続ける場合は有効ですが、会社業績が伸び悩む中ではデメリットが目立っています。

毎年の定期昇給が困難となってくる場合は、まずは年功給を改めるべきです。年功給を残している限り外部環境の変化や売上の低迷などが続いても人件費は上昇していきます。

経営的な観点から捉えるならば、賃金体系は職務給や業績給がフィットすると考えられます。
ただ賃金体系を改定するに際しては、従来の年功給制度を180度ドラスティックに改定することは、従業員の反発も想定されますので、一部年功的な要素を残したり、経過措置を設けるなどソフトランディングで進めることをお勧めします。

Q02.現状の賃金の問題点を把握するための方法として、何があげられますか。

A02.

賃金プロット図という、全社員の個人別の賃金をグラフにプロットし、その分布状況や生計費指標等と比較する方法があります。
これには大きく分けて、基本給プロット図と所定内プロット図があります。

(1)基本給プロット図

職種、年齢に関わらず、法人内の誰もが必ず受け取る基本給について、その決定方法が体系的になっているかどうか、そして、職種毎の職員分布の状況を判断するために作成します。

基本給プロット図

(2)所定内賃金プロット図

この分布図は、賃金水準を分析する目的で作成します。
所定内賃金とは、資格手当、役職手当、家族手当、住宅手当、調整手当等を加えたもので、所定労働時間内に就業し、受け取る賃金の総額を意味します。
この分布図について、生計費との水準比較を行い、過度な高低の是正の判断を行います。

下図が見本例ですが、横軸に年齢、縦軸に所定内給与額をとります。
例えば、男女別、部門別、職種別に記号を分け、分布状況がわかるようにします。

所定内賃金プロット図
Q03.基本給体系の見直しを図っています。
基本給昇給額の決定方法について教えてください。

A03.

賃金表を作成する際には、自社の基本給傾斜を正確に捕らえておく必要があります。
これを年齢給と職能給に配分する形で能力主義の基本給体系は組み立てられます。

(1)基本給傾斜

基本給傾斜とは 新卒で入社し、その後標準的に昇進、昇給していった場合の賃金カーブを標準モデル賃金といいます。この標準モデル賃金を基本給のみで作成したものを基本給標準モデルといい、この基本給標準モデルの横軸に対する角度、つまり1歳当たりの格差が基本給傾斜になります。この傾斜をもとに昇給額を決定します。

基本給傾斜

(2)基本給傾斜の計算方法

基本給傾斜は原則として、40歳標準的管理職の基本給から18歳新卒職員の基本給差額を22年間(18歳から40歳までの年数)で除して求めます。

基本給傾斜の計算方法

事業所の実在者を抽出した算出例

氏名・役職 職種 年齢 年俸(円)
光22・一般職 介護員 20 143,300
光10・主任 介護員 52 301,300
Q04.能力を賃金に反映させるための、基本給の組み立てについて教えてください。

A04.

年功給は、性別、学歴、勤続で人を処遇します。その後、1年ごとに前年度の賃金に金額を上積みしていくため、年齢給にはマイナスのベクトルはなく、毎年昇給される体系になります。

年功主義人事制度では、キャリア形成と世帯形成を1本で表現した基本給を採用しています。一方、能力主義人事制度では、生活保障のための年齢給と労働対価としての職能給をあわせた併存型の基本給を採用します。

(1)基本給の構成

公正な賃金を実現するには、生活保障と労働対価の2つの原則を満たす必要があります。生活保障の原則とは、職員の生活に対する保障への賃金の支給原則であり、労働対価の原則とは労働を提供した対価を支給する原則です。この2つの原則によって賃金は構成されるべきです。

これまで多くの社会福祉法人の賃金制度は、主に生活保障の原則を重視した制度となっていました。職員のモチベーションの向上には、生活保障の原則だけでは不十分であり、賃金制度を再構築するにあたり、基本給に2つの原則を組み入れる必要があります。

基本給体系イメージ

基本給体系イメージ

(2)年齢給

生計費を基準とした部分になります。生計費はライフサイクルにより決まりますので、通常、年齢給をベースとします。
この年齢給は、年齢とともに上昇する部分になりますが、マイナス昇給を行うことも可能です。例えば、55歳からはマイナス昇給を採用することもできます。
年齢給は、18歳から50歳くらいまで緩やかなS字カーブで上昇させ、50歳から55歳まで横這い、55歳以降はマイナスとするのが一般的な考え方です。

(3)職能給

人事評価の結果を反映させる部分になります。仕事や能力を高めることにより昇給されていきます。職能資格制度で定められた等級に基づいて昇給額が定められ、さらに人事評価の結果により、この昇給額が上下します。

年齢は同一でも、仕事や能力には個人差が生じます。そこで基本給を以上で述べた年齢給と職能給によって明確に区分し、相互に独立して運営することが望ましいです。 これを賃金表という形で社員に明示することが必要となります。

Q05.人事評価の結果を反映させる賃金体系に、年齢による定期昇給部分を残す場合の方法を教えてください。

A05.

社員の最低限の生活を保障するために、本人のライフサイクルに応じて昇給させる年齢給を設けます。
この年齢給は、中途採用者であろうと新卒からの勤続者であろうと、同じ年齢であれば、同じ年齢給が適用されます。

(1)年齢給の傾斜の決定

まず、基本給における年齢給の配分を決めます。この時、地域の最低生計費や社員の生活実態を目安としますが、標準的には、基本給の3分の1を年齢給に当てはめます。

(2)年齢給のカーブの決定

例として、年齢給に2,000円の傾斜をつける場合、ライフサイクルに合わせてどのように配分していくかが次の課題となります。
人材の確保と定着、生活の安定、能力の未発達などを考慮すると、30歳までの年齢給は急な傾斜で設定することが望ましく、この例では、2,000円の120%増の2,400円が毎年の昇給になります。
30歳から40歳にかけては、能力の発揮が求められますので、年齢給は100%の2,000円、40歳以降は最低生計費の伸びの減少、成果を重視するため、年齢給の昇給額にも抑制がかかります。
55歳以降は世帯が縮小期に入りますので、マイナス定昇も視野に入れ、-50%の-1,000円とします。

年齢給表サンプル

年齢給表サンプル
Q06.職能給の昇給方法にはどのようなものがありますか。

A06.

職能給の昇給方法には、昇格した際の昇給と同一等級内での昇給の2つがあります。
いずれも人事評価の結果を反映して、昇給が行われます。

(1)昇格時昇給

昇格昇給とは、上位等級に昇格した際に昇給させる方法です。等級間に賃金格差を設けるための機能として、例えば、4等級から5等級へ昇格したとき、2,500円昇給させる、等です。

(2)同一等級内の昇給

毎年、上位等級へ昇格するとは限りません。そこで、その等級内の仕事や能力に深まりがみられた場合、等級は変わらずに昇給が行われるのが習熟昇給です。
通常は等級内の号俸という形で賃金が決定されており、号俸が上がることによって昇給することになります。この昇給は、毎年昇給する定昇部分になります。
昇格時昇給への配分を大きくすると、社内賃金の格差が拡がり、社員にとっては刺激的なものになります。
一方、同一等級内の昇給への配分を大きくすると、年功的な昇給になります。
前述の習熟昇給と昇格昇給のイメージができるように、年間の平均昇給額である基本給ピッチを下記のように分解してみました。

同一等級内の昇給

①の1,300円が昇格に関わり無く毎年定期昇給する分です。②の700円は昇格したときに支給される昇給額です。
特に②の考えは昇格しない年は700円ずつ累積されて、昇格した年にそれまでの累積分を昇給させることになります。

職能給表サンプル
Q07.職能給表の作成に必要な考え方について教えてください。

A07.

職能給表を作成するためには、まず設計の型を作り、職能給傾斜の決定、昇給シミュレーションを行った上で職能給表としてまとめます。

(1)設計の型の作成

職能給表設計には様々なタイプがありますが、ここでは代表的なものについて紹介します。
同一等級内の賃金には、号俸を用いた上で幅をもたせます。これは同一等級内でも、さまざまな能力の幅を持って格付けされるためです。等級間の賃金には、多少の重複を認める方法を採用します。特に能力主義人事制度への移行時は、各社員の現在の賃金を継承するため、運用がしやすくなります。ただし、重複型を採用するにしても、2つ上の等級と重複することは避けます。
最後に、等級内の昇給カーブですが、1つの等級に留まっていれば、能力の伸びは逓減するので、上位号俸になると昇給額も減少する逓減型が理想的です。

(2)職能給傾斜の決定

職能給傾斜を昇格昇給と習熟昇給にどのように配分するかで、基本給の性格が変わります。昇格昇給を高くすると。職能給は格差の厳しいものになり、定昇も小さくなります。一方、習熟昇給を大きくすると、職能給は刺激の少ない年功給に近いものになってしまいます。

(3)昇給シミュレーション

各社員の等級を決定した上で、現行賃金を新制度に移行し、数年先までの昇給シミュレーションを実施します。
また、職能資格等級フレームで設定したモデル経験年数をもとに、標準昇給した場合のシミュレーションも実施し、職能給表の検討を行います。

Q08.会社の業績評価の方法として、年俸制を考えています。
採用形態について教えてください。

A08.

年俸制の概念として、賃金支払形態、年収管理、賃金決定方法という3つの側面からとらえる必要があります。

(1)賃金支払形態

労働契約を時間との観点からとらえたもので、時給、月給、年俸といった賃金を支払う形態でとらえたものです。
会社への貢献度を1年間で決定するという考えのもと、賃金を決定する期間を1年単位でみることを意味します。

(2)年収管理

少しでも人件費を節約するために、社会保険料の支払を考慮したもので、年間の総収入を決定し、賞与を高くして月例給与を抑制する考えに基づいています。
年俸制対象者も1年で支給される額が決まっているので、月例給与の低さには目をつぶる傾向にあります。

(3)賃金決定方法

厳密な能力、成果主義人事制度の確立のために導入される方法です。大幅な昇給もあれば、減給もあり、柔軟性に富んだ賃金決定を実現させます。
年俸制を採用する際は、これらを十分に検討した上で、年俸制導入の目的を明確化する必要があります。
ちなみに、年俸制について給与規程に定める場合には、少なくとも次の項目を盛り込む必要があります。

① 給与の形態

月給制を採用している場合、給与規程では「社員の給与の形態は月給制とする」などと規定しますが、年俸制にする場合には「年俸制とする」等、年俸制を採用する旨の定めを明確にしておきます。

② 対象者の範囲と割増賃金

年俸制を全社員に適用するのか、それとも管理職に限って適用するのかどうかを定めておく必要があります。課長以上に適用するのであれば「年俸制は、課長以上の役職者を対象とする」旨を記載します。その際注意が必要なのは「課長以上」の人がすべて労働基準法第41条第2号に定める「管理監督者」に該当するかどうかを吟味することです。もし該当しない人がいる場合には、年俸額とは別に、時間外労働割増賃金を支払うことが必要となるからです。また、管理監督者に該当する場合にも、深夜業割増賃金の支払いが必要となりますので、時間外労働や深夜業の割増賃金の取り扱いについて明確に定めておく必要があります。

③ 支払方法

年俸制を採用する場合にも、労働基準法第24条の「毎月1回以上払いの原則」と「一定期日払いの原則」が適用されます。そこで給与規程では「決定した年俸総額を月額給と賞与に配分して支給する」、「月額給は毎月25日に支払う」などのように、上記の原則に沿った定めをする必要があります。
また、賞与を支給する場合には、たとえば「年俸額の16分の1を毎月支払い、16分の2を6月と12月に賞与として支払う」などのように定めます。

④ 改定の時期

年俸制を採用する多くの企業では、年1回、1年間の個人業績や組織業績などの評価を翌期の年俸額に反映させています。そこで年俸額をいつ改定するのかについて規定しておく必要があります。
たとえば「年俸額の改定は、通年の評価の結果ならびに昇降格等に基づき、原則として年1回、4月1日付けで実施する」などのように、改定額の決定根拠と改定の時期について定めておくことも大切です。
また、年俸額や年俸額の改定時期を変更することがあることを規定しておいてもよいでしょう。

参考:社会経済性賛成本部ホームページ

Q09.管理者を中心に年俸制の導入を考えています。
年俸制の導入手順について教えてください。

A09.

年俸制の導入手順は、導入前の準備段階、導入実務の段階、(試)運用の段階という大きく3つのステップに分類されます。

(1)導入前の準備段階

① 賃金体系、人件費負担などの調査

人件費が経営に与えているインパクトなどを調査し、年俸制導入が経営にもたらす影響についてシミュレーションを実施します。

② 年俸制対象者の決定

一般的に年俸制の対象者は、管理者です。
場合によっては、本人の意思を尊重した形で採用者の決定をなす必要もあります。

③ 既存賃金表の見直し

年俸制を導入することにより、これまでの賃金表を全く無視することはできませんが、見直す必要はあります。
基本給の傾斜の改善、支給意義の不明瞭な手当の見直しなどがあげられます。

(2)導入実務の段階

① 基礎賃金の変更

基礎賃金とは、年俸額を算定するときのベースとなる基本給を指します。
管理職手当など仕事や役割に関連する手当は、すべて基礎賃金に組み込むことが望ましいです。

② 年俸のフレーム作成

年俸額を決める要素としては、役割と業績達成の2つがあります。
年俸対象者の役割や業績の達成度合に対しての評価方法と賃金への反映方法を決めます。

(3)導入の手順

① 支給パターンの選定

基礎賃金が決まれば、これを年俸化します。

  • 基本年俸 + 諸手当 + 賞与(生活保障)+ 業績賞与
  • 基本年俸 + 業績賞与
  • 年俸(完全型)

年俸化した総額賃金の支払形態も決定します。
例えば、完全型の年俸制を採用した場合、総額を17ヶ月で割り、12ヶ月分を毎月支払、残り5ヶ月分を賞与として支払います。

② 評価方法の決定

ここでは、公平な評価方法(役割等級評価と目標管理)を検討します。
役割等級評価とは、社員一人ひとりの役割を明確にし、その役割を基準として評価を実施し、賃金に反映させる仕組みです。
目標管理とは、社員のチャレンジを促し、主体性を持たせるために各自で目標を設定し、取り組み、評価する制度で、主に個人の業績を評価します。

③(試)運用の段階

a)目標の設定

個人の目標達成度を評価するための目標設定から運営を始めます。
会社から期待する姿を明確にした上で、各自の自主性を尊重した目標設定を実施します。

b)本人の自己評価

設定した目標に対して、自己評価を実施し、その期を振り返ります。

c)評価実施

役割評価、目標評価、業績評価を実施し、集計します。

d)評価結果のフィードバック

評価結果を担当者にフィードバックし、来期への指針を与えます。
また、新たな役割等級や年俸額の決定を行います。

e)トップとの面談

最終格付けへの合意と年俸額を決定します。

Q10.能力主義人事制度を導入していますが、社員の能力とは無関係なベースアップは必要でしょうか。

A10.

能力主義人事制度を導入している企業においても、ベースアップは労使交渉で決定されます。

(1)ベースアップの考え方

一般的に、社員は年齢や仕事、能力が年数とともに伸びていくものと考えられ、それが年齢給や職能給に跳ね返り昇給します。
一方、ベースアップは日本経済や業界、企業の成長を反映するものです。ベースアップは社員全員に適用されるので、労使間で交渉の上、決定されます。
しかし近年においては、経済成長率の上昇がみられないためベースアップを見送る企業も増えています。

(2)定昇の検討

固定費の大部分は人件費です。企業の成長を見込むことが難しければ、定額昇給を続けていくことは無理です。
では全社員の定昇をゼロにすればよいのかというと、そうではありません。社員の企業意識や愛社精神を守るためにも、人件費コスト増は確保しなければなりません。
そのためには、ベースアップの廃止、あるいは最小限に抑える、その上で職能給をより身近に、期間で評価できる成果主義化など他の対策も必要不可欠です。

(3)能力主義賃金制度のおけるベースアップの方法

能力主義人事制度を導入している組織の場合は、次のような方法でベースアップを実施することができます。

例えば並存型の職能給制度を導入している場合、職能給の号俸を操作することでベースアップやベースダウンをコントロールすることが可能です。
人事評価の結果がB評価(期待通りの評価)で4号俸昇給としている4号俸昇給の場合であれば5号俸昇給や6号俸昇給としてベースアップを行ったり、3号俸昇給や2号俸昇給としてベースダウンを行うなどしてコントロール可能です。
下記に職能給表のサンプルを提示しますので参考にしてみてください。

img
Q11.退職金制度の改定を考察しています。
どのような方法があるでしょうか。

A11.

退職金の支給ベースとなっている基本給と退職金支給額との切り離しが、多くの企業で行われています。その方法の一つとして、職能資格制度と退職金支給基礎額を連携させたポイント式退職金があげられます。

(1)ポイント式退職金の仕組み

ポイント式退職金は「職能ポイント」を採用し、たとえば3等級なら20ポイント、4等級なら30ポイントというように職能資格等級ごとにポイントを設定します。それぞれに在級年数を乗じて累計を算出します。
また「勤続ポイント」として勤続年数に応じたポイントも設定します。
この2つのポイントの合算が退職金ポイントとなり、ポイント単価(一般的には1ポイント、10,000円)を乗じたものが退職金となります。

(2)現行退職金制度からの移行

現行退職金制度を改定する際の一番の課題は、既得権の確保です。制度移行時にすでに在職している社員については、現時点で退職したと仮定した退職金額を保障せざるを得ません。
したがって、標準モデルの退職金カーブは一部の調整のみにとどめることが望ましいです。

(3)退職金の決定基準

ポイント式退職金制度の決定基準は、職能資格制度で明示された基準と勤続年数が主流です。そこで、能力重視の支給を目指すのならば、公正な人事考課制度が不可欠です。
今後退職金は、賃金の能力・成果主義化の流れを反映して、勤続年数よりも能力に比重を置いた支給がますます進むものと考えられます。

社員・管理者教育

Q01.社員教育で効率的に成果をあげるために、どのようにプランを立てていけばよいでしょうか。

A01.

バランスのとれた教育研修計画を綿密に立て、計画通りに実行していかないと成果はあがりません。

(1)対象者

まずはじめに、教育研修の担当者を決めます。例えば、基礎的能力を身につける必要のある若手社員や、経営感覚を身につける必要のある幹部候補社員が対象になります。

(2)研修項目

研修項目は、可能な限り具体的に決めないと成果はあがりません。対象者も何を学べばよいかが明確になっていないとモチベーションは向上しないものです。

(3)研修の到達目標

何を学べばよいか明確にすると同時に、その研修を受講することによりどういうことを得られるのかという到達目標をしっかり設定することが必要です。目標を明確にしないとただ研修を受けただけとうことになりかねません。

教育研修プランサンプル

【教育研修の枠組み】
新人研修 新人の看護実践能力を高める
専門研修 看護専門職としての実践能力を高める
専門研修A 専門職として広く一般的な知識・技術を習得する
専門研修B 専門領域の知識・技術を高め、看護チームリーダーの役割を果たす
専門研修C 専門領域のエキスパートであり、組織での取り組みを推進する
管理 看護管理に関する基本的知識・技術・態度を習得する
教育・研究 教育研究に関する能力を開発する
ヒューマンスキル 豊かな人間性を養う
到達目標
指導や教育の基で基本的な看護を安全に実践できる。指導を受ける事により自己の学習課題を見つける事が出来る。 あらゆる看護実践の場面において単独で看護を提供できる。チームリーダー的役割や責務を認識し追行できる。自己の学習課題に向けた学習活動を展開できる。 高度な看護活動を実践でき、かつ他者にモデルを示すことが出来る。自己の学習活動に積極的に取り組むのみならず、指導的役割を発揮出来る。 論理的かつ実践的な知識を統合して卓越した看護を実践し、所属を超えてリーダーシップを発揮できる。自己の学習活動はもとより組織的な教育・研究活動を主体的に実践できる。
新人研修 新人看護実践能力を高める 新人の為のフィジカルアセスメント 身体のアセスメントをするための基礎的な観察の知識と技術を学ぶ
新人のためのME機器管理~人工呼吸器・心電図モニターについて学ぼう ME機器のメカニズムを知り、正しい取り扱い方と観察の視点を学ぶ
看護の喜び・楽しみ~信頼される看護職を目指して~ 看護実務における倫理綱領の意義を学び、看護の喜び・楽しみに気づくことが出来る
薬物療法の医療安全技術 安全な医療生活支援に関する医療安全技術を効果的に実践する知識を学ぶ
安全な療養生活対策(転倒転落・誤嚥防止対策)
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参考引用:公益社団法人神奈川県看護協会ホームページ

(4)研修方法

集合研修、OJT、外部の教育機関への派遣等、方法を研修項目との関連性をみながら決定します。一つの方法では、研修対象者の関心が次第に弱まるため、バラエティに富んだ構成にするのがよいでしょう。

(5)講 師

講師の人選も適切でないと成果は上がりません。情報を駆使し、テーマに最適な者を選びます。

(6)期 間

どのくらいの期間をかけて行うかも、研修を受ける本人の目標等も考慮して決めていきます。

Q02.社員教育に本腰を入れようと考えています。
その効果的な方法について教えてください。

A02.

社員の能力開発を促すための教育研修には、大きくOJT、集合教育、自己啓発の3つがあげられます。

(1)OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)

上司や先輩が部下や後輩を日常業務の中で、マンツーマンで仕事の指導を進めていきます。そのメリットとしては下記のような点があげられます。

  • 職務遂行に必要な実践的な知識や技術を習得できる。
  • 社員一人ひとりの能力に合わせたカスタマイズ教育ができる。
  • 新入社員の早期戦略化を図る事ができる。
  • 他の教育に比べてコストがあまりかからない。

(2)集合教育

集合教育は、職場から離れて教育目的を有する社員が集合で行う教育です。通常、以下の区分で実施されます。

  • 階層別教育⇒新入社員、中間管理職、経営幹部といった階層に分けて実施
  • 職能別教育⇒営業職、技術職、接客などの業種別に行う
  • 課題別教育⇒特定の課題を設定し、関係社員を対象に実施

(3)自己啓発

「自己啓発とは、労働者個々人が職業能力の向上・開発を主体的に行い、キャリア形成を目指す学習活動である。」(東海学園大学 三宅章介教授)
自己啓発のスタイルは、

  • 個人主導型自己啓発
  • 目標管理型自己啓発
  • 企業主導型自己啓発

の個人主導型自己啓発は、自己啓発の動機づけ・実施・自己啓発の成果の評価の全段階で労働者個人の自主性に全てを委ねるものです。
の企業主導型自己啓発は、自己啓発の動機づけと成果の評価の段階で企業の関与がなされ、実施の段階のみ労働者個人の自主性に委ねるものです。
の目標管理型自己啓発は、の中間型であり、自己啓発の動機づけと評価の段階では企業と労働者個人の話し合いという形で両者の関与がなされ、実施の段階のみ労働者個人の自主性に委ねるものです。(下表参照)

学習動機(計画)の自主性 実施の自主性 学習評価の自主性
個人主導型 自らの関心により目標設定 確保されている 確保されている。人事考課や昇格・昇進に連動しても学習行為に直接的に関係しない。
目標管理型 企業目標と個人目標の統合化(自己申告制度や目標管理による目標設定) 確保されている。進捗状況の管理がある。学習成果を企業と共有 確保されている。人事考課とそれに基づく昇格・昇進がある場合がある。
企業(職制)主導型 企業が能力開発計画をもとに指示・命令。自らの関心により目標設定されても、昇格・昇進制度に制約されうる。 確保されている。進捗状況の管理がある。学習成果を企業と共有 企業と個人の学習成果の確認。人事考課及び昇格・昇進と直接的に連動し、結果として「学習動機の自主性」に影響する。

参考引用:中央職業能力開発協会ホームページ

Q03.新入社員の早期戦略化を図るために、OJTをどのように進めればよいでしょうか。

A03.

OJTのポイントとしては、新入社員と年齢が近く、面倒見のよい者をOJTの担当者に任命し、計画的に実施していくことがポイントです。

(1)OJT担当者

まずはじめに、誰が誰に教えるのかを明確にします。OJT担当者を決めずに、手が空いている者が担当するという方法では、OJTは進展しません。年齢の近い先輩社員を担当させると話が合い、新入社員も質問をしやすく、双方の教育になるというメリットがあります。

(2)指導項目

会社として、OJT担当者に指導項目と計画を明確に指示します。現場に即したマナーや接客、商品陳列、社内報告書の記入方法等、具体的かつ計画的に示します。

(3)期 限

期限を決めなくとも、OJTを進めることは可能ですが、効率も悪く、緊張感がなくなってしまうため、進展が遅れてしまいます。 新入社員に対して、仕事を習得し成果を出す期限を示し、取組をさせることが大切です。

(4)職能要件書の活用

職能要件書を参考に、社員の能力段階に応じた計画を立てます。これから修得しなければならない課業を部下の役割や等級と比較しながら、高めのレベルの内容にするのが、能力開発のポイントになります。

しかし、OJTがうまく行かないという企業もあるかもしれません。その場合には、原因として以下のようなことがあげられます。

  • 管理監督職に、部下育成の責任についての自覚が足りない
  • 管理・監督者が人材育成の必要を頭ではわかっているが、行動がともなっていない
  • 会社が、OJTに対して、明確な方針を示していない
  • 上司と部下との世代ギャップが大きくなり、意志疎通が難しくなってきている
  • 実態として個々の管理者や先輩社員に任せっぱなしである
  • 上司や管理者が忙しくなり、部下教育まで手がまわらなくなっている
  • 管理・監督者が熱心に教育してもそれを適正に評価しない傾向がある
  • 管理・監督者自身が変化に追い付かず、部下の方がスキルアップしてしまっている
  • 技術革新の変化が早いため、身につけてきた知識・経験が活かせなくなってきている
  • 職務内容がどんどん変わってくるので、教えたことが役立つ期間が短くなってきている
  • 部下の雇用形態や勤務形態の多様化が進み、標準的な育成方法の確立が難しくなってきている

今後OJTを考えるにあたり、次の2点を考慮する必要があります。

①管理者に求める業績の中に、部下育成やチームビルディングの視点を追加すること

組織としてOJTや部下育成が必要と言いながら、OJTの成果について評価が低いことはこの点が欠けているからでしょう。
例えば、同じ目標に対し同程度の成果を挙げた2人の管理者がいた場合、一方は外部の人材を有効活用することで成果を挙げ、もう一方は部下育成も含め現有戦力のレベルアップで成果を挙げたとします。この場合、この2人の管理者に対する評価はどの程度違うだろうか?というような事です。

②上司が部下に教えられない、教えきれないという場合があるということ

この場合、管理者は、部下(個人)の指導者ではなく、支援者であるというスタンスが必要です。全てを自らが指導するのではなく、部下の問題点や成長の方向性を把握することで解決策をアドバイスするという行動が大切です。実際に解決策を講じるのは管理者以外の人間でも何の問題もないからです。

参考引用:人材開発ネット 情報BOXホームページ

Q04.新入社員の教育は、どのような内容で行えばよいでしょうか。

A04.

新入社員が1日もはやく一人前になるために、会社への理解を深め、仕事や社会についての基礎知識を指導することが要求されます。

(1)研修のテーマ

新入社員研修で教育すべきテーマをあげると

  • 学生と企業人の違いを理解し、意識を切り替えること。
  • 職場での基本行動、エチケット、マナーを習得すること。特に
    • おじぎができること
    • 正しい言葉づかいができること
    • 感じのよい話し方ができること
    • 正しい名刺の受け方ができること
    • ビジネス電話ができること
    • 応対・応接ができること
    • 指示、命令が正しく受けられること
    • 仕事を進める時の基本が理解できていること
  • 与えられた課題をチームで達成する経験を通じて、チームによる効果的な課題解決の「やり方」を学ぶこと。
  • リーダーシップを発揮すること。
  • 会社のしくみ、業務の流れ、商品とサービスの知識を理解する。
  • 目標を持つこと。

研修内容を考える前に、まず目的とそのためのテーマを明確しましょう。

(2)新入社員研修の内容

  • 会社の沿革、現状
  • 経営理念、経営方針、社是社訓
  • 労働条件、服務規律、就業規則、社内ルール
  • 組織や業務に関する基礎知識
  • 仕事を進めていく上での基本的なものの考え方
  • 社会人としてのマナー、一般常識

新入社員教育の期間は、2~3日が標準ですが、中には1~2週間かける場合もあります。いずれにしても研修のしっぱなしではなく、その後の職場でのOJTやフォロー研修の実施が大切です。

(3)OJTとの組み合わせ

新入社員の早期戦力化のためには、集合教育とOJTとの組み合わせが効果的です。一定期間集合研修を行い、業務に必要な基礎知識や社員としての心得を習得した後、職場で仕事の実務をOJTによって指導します。
集合教育とOJTがバランスよく組合わさり、計画的、体系的に新入社員教育が行われるのが理想的です。

Q05.新入社員を上手く育てるためのアドバイスをお願いします

A05.

新卒の新入社員を採用すると、職場に新しい風が入ってきたようで、活性化にもつながります。新卒の採用ということは、投資をされたわけですから、配当を多く得られるように育成しなければなりません。

彼らが本当の意味で「働き、お金を稼ぎ、会社に貢献できる」までには、ある程度時間が必要です。
短期・中期・長期をにらみながら育成する必要があるでしょう。
育成には仕事そのものと仕事に取り組むスタンスと2つの側面があります。

(1)仕事そのもの

仕事とは即ち、業務知識・遂行能力そのものです。新人が様々な知識を吸収し、大いに能力を発揮できるように、上司・先輩は指導をする必要があります。

(2)仕事に取り組むスタンス

例えば、素直でない、自分のやり方に固執する、といったスタンスは吸収力を低下させ、さらには対人関係上も好ましくない結果を招く可能性があります。新人の長所や特徴を生かしつつ、非効果的に作用する・しているスタンスは、矯正していくことも必要でしょう。

以上、2つをバランスよく教えていくことが望まれます。こんな公式があります。

パフォーマンス能力×意欲×考え方

新人育成に当てはめて考えると、新人のパフォーマンスを高めるには、3つの要素があるということになります。

① まず能力

これは日々の努力が大切です。本人は勿論のこと先輩や上司は、その新人の保有能力や発揮能力を、どうやったら高められるかを考える必要があります。

② そして意欲

新人で意欲のない人はいないでしょう。大小の差こそあれ、夢や希望、やる気は人一倍持っているはずです。問題は意欲が低下したときどうするか、コントロール方法を身につけさせることです。

③ 最後に考え方

能力が高く、意欲もある人が、期待される結果を出せないことがあります。考え方、つまり取り組み方に問題があるケースが往々にしてあります。これは教えにくい要素と言えますが、仕事を通じて教えていかなければならないことと言えます。上司として、または社会の先輩として教えていかなければならないことは多いはずです。

「鉄は熱いうちに打て」と言いますが、これを教えることのできるのは新人のうちだけです。

Q06.社員の集合教育を行いたいのですが、効率を優先した方法について教えてください。

A06.

講義方法が広く採用されていますが、事例研究法、ロールプレイング等もあります。
教育テーマに最も適したものを採用します。

(1)講義法

代表的なものでは、講師が口頭で説明し、受講者が聴きながら学習を進める方法です。コストが安く、簡便に行うことができますが、話が抽象的であったり、理解が不十分に終わることもあります。
そのため以下のような工夫が重要になります。

  • 受講者のレベルに応じた講義内容を検討する
  • 事前にテキストや資料を配布しておき、予習をさせておく
  • 受講中、質疑応答の時間を十分に確保する
  • 受講後にレポートなど、宿題を課す

(2)事例研究法

具体的なケースを示し、その起因性、ケースの状況認識、対応策等を考えさせ、受講者に積極的に参加させる形態をとります。実態に即したケースを設定するため、受講者の関心も高まることにより成果をあげることができます。

(3)ロールプレイング

現場を想定した模擬場面を想定し、受講者に役割を与えて実際に演技をさせ、その演技を通じて改善策等を検討する方法です。そのメリットとしては、必要な技術が短時間で身に付く、現実に即した場面設定により臨場感をもてる、研修への参加意欲を増すことができることがあげられます。
特に営業のセールストーク、接客訓練において広く活用されています。

Q07.若手社員のモラル低下が目に付きます。
マナースキルが向上する教育内容を教えてください。

A07.

社内におけるマナーは社風や社員のモチベーションに影響をもたらすだけでなく、顧客への対応がまずければ、その影響は直接売り上げに響きます。
このため、若手社員を中心に接客・マナー教育を、受講者参加型で行います。

(1)接客教育の内容

どのような会社でも、顧客に支えられて経営が成り立ちます。全社員が接客スキルやマナーは正しく身につけることが求められます。
特に、若手社員、受付、電話交換手を対象とし、スキルアップと継続につとめます。 接客教育の主な内容は以下の通りです。

  • 接客、マナースキル向上の必要性
  • コミュニケーション改善手法
  • 言葉使い(敬語)、あいさつ
  • 来客応対、電話応対

(2)ロールプレイングの重要性

ロールプレイングとは、実際の接客や電話応対の場面を想定して顧客と受付担当者など参加者が様々な役割を演じ、それぞれの問題点や解決法を考える訓練法です。
演技をすることで得られる「気づき」は大変重要です。 接客教育は、知識の醸成が目的ではありません。実技を通じて、普段の応対を見直し、改善する必要性を気づかせます。体で憶えるまで繰り返し、身につけることが重要です。

Q08.社員本人のやる気を大きく引き出し、会社業績へと結びつける手段はありますか。

A08.

新商品やサービスの開発や新規プロジェクトの担当者、新しい拠点開拓などを社内から広く募集し、適正配置を実現する制度が社内公募です。

(1)社内公募制度の特徴

社内公募制度は、一般的に下記の仕事で使われるのが一般的です。

  • 新商品やサービスの開発⇒消費者ニーズを生み出し、新規マーケットを開拓する仕事
  • 新規プロジェクトの立ち上げ⇒研究開発や短期プロジェクトを担当する仕事
  • 新しい拠点開発⇒販売を拡大すえうための拠点を開発する仕事

これらの運営に携わる担当者を社内から広く募集し、応募者の中から能力、経験、意欲等を評価し、決定、任命する制度といえます。

(2)制度運用のポイント

公募の際は、特に条件を設けず、全社員が応募できるようにした方が、隠れた優秀な人材を発掘することもあり得ます。
一方、勤続年数、年齢、業務経験等、一定の条件を設けて、はじめから対象者を絞るやり方もあります。
この場合、募集段階からその仕事に適切かつ、強い意欲を持った社員を見つけることもあります。なお、上司の立場からは、部下が社内公募に応募し、抜けてしまうことによって戦力ダウンも考えられます。
しかし、応募の引き留めを避ける行為は禁止するのが一般的です。

Q09.社員自ら、何かを計画して行動させるための良い方法はないでしょうか。

A09.

社員に対し、いきなり「なんでもいいから、とにかくやってみろ」と言ってもまずできないでしょう。
「なんでも」「とにかく」と言われるほど困る言葉はありません。
ある程度は道しるべを示してから“癖”を付けることです。

まず、テーマを決める(取り組むべき課題)、そして取り組むメンバー(部単位、課単位、横断プロジェクト等)は概要を提示しておくことです。

マネジメントの基本

  • P(Plan-計画)
  • D(Do-行動)
  • C(Check)

しっかりと計画し、その計画に基づいて行動し、その行動が適切であったか振り返りを行い、そして、修正が必要で在れば修正し再度計画・行動する。

マネジメントの基本は、このサイクルをぐるぐると回すことなのです。よくある悪い例は、“やったらやりっぱなし”で振り返りがないということです。だから次に繋がらないのです。

鍵はこのCheckを上手く行うことです。

全体の管理は、責任者であるあなたの役目です。P計画―D行動―C振り返りの全体サイクルのCheck役になることです。部下から定期的に(アクシデントが起こったとき、相談したいときも含む)、報告を受けるシステムをまず作っておく。誰から、いつ、報告を受けるのか、ということです。そうすれば今どんな具合で進行しているか把握できます。

またもっとこうした方が効果的だと修正をかけることも、計画段階で差し戻しをすることも可能です。

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部下がサイクルを回す次に与えたテーマについて、P計画―D行動―C振り返りのサイクルで行動することを告げ、自分たちでそれを管理し回すための計画を立てさせます。(上記図)このときに重要なのが計画です。だた「計画せよ」といっても“抜け”があるかもしれません。そこで次のことを網羅する計画を立てさせます。

俗に言う5W2Hです。こうすれば“抜け”“漏れ”がなくなります。

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Q10.社内のコミュニケーション不足で、仕事に差し障りが出ています。
改善策はないでしょうか。

A10.

コミュニケーションとは非常に抽象的な言葉ですが、仕事上においては、情報の円滑な受信・発信と捉えると、解決策が見えてきます。

ここで重要なのは報告・連絡・相談の大切さです。これを社内で徹底しているか、していないかでは随分とアウトプットも異なってきます。また円滑に仕事を進める一つのコミュニケーションの取り方と捉えていただければ結構です。

(1)報 告

  • 事前報告(着手報告)⇒プランを含めて仕事の着手を報告させる
  • 中間報告⇒その仕事の進捗度合いを報告させる
  • 最終報告(結果報告)⇒誰にどのように(口頭・文書・会議等)報告するのか徹底させる

報告には、上記の3つがあります。
仕事の内容にもよりますが、全てが終了してから報告を受けるよりも、その前に受けていた方が修正が効きますし、指示した側も安心です。

(2)連 絡

連絡とは、その業務遂行上関わりが出てくると思われる関係者や関係部署にお知らせをすることです。 耳に入れておいた方がよいと思われる人達です。仕事を円滑に進める上では効果的です。

(3)相 談

業務を遂行する上で、わからないことや疑問に思うこと等を、遠慮せず聞ける体制を整備しておくことです。
自分が全て答える必要はありません。場合によってはどこの誰に相談したらよいかをアドバイスすることもできるはずです。

この報告・連絡・相談を上手く行えば、自然とコミュニケーションを密に取ることとなり、それが仕事を円滑に進めることとなります。
無論、報告・連絡・相談しやすい職場の風土作りも欠かせません。「なんでも聞けよ」と言っておいて部下が実際聞いてきたら「そのくらい自分でやれ」と怒鳴るのでは、今後の報告・連絡・相談は期待できません。